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第25話

 領都から学校へと戻ってきた時には既に夜も更ける頃となっていた。なので結局他の生徒を誘う事はせず、俺たち三人は三人だけでしっぽり食堂で肉を焼いて食べよう――という事になったのだが。


「アルドリノールくん、これ焼けてるよー」


 クインテッサが俺の口にフォークを突っ込んできた。その瞬間口の中に旨味が広がり「美味しいでしょ?」とランプの僅かな光の中で喋るクインテッサの笑顔が見える。


 ……そう。俺たちが食堂の厨房で肉を焼く準備をしていたら巡回をしていたクインテッサに見つかって止められる――なんて事は無かったのだが、私も食べたいと言って混ざってきて今に至る。


「にしても、自分で夜間の巡回もするなんて頑張ってるんだな」


 肉を飲み込んで水を一口飲んだ後、俺はクインテッサに言った。


「何てったって新理事長だからねー。自分から率先して色々動きたいの」

「あんま無理すんなよ」

「もしかして心配してくれてるー?」

「して悪いかよ」

「ううん。ありがとー」


 と言ってクインテッサがこっちを向いて目を閉じて口をあーんと開けてきた。さっき食わせたんだから今度は食わせろって事かよ。


「ほらよ」


 俺は鉄板の上からちょうど良さそうな肉をトングで掴んで皿に移すと、フォークで刺してそのままクインテッサの口にそっと入れた。


 そしてフォークを引き抜いたところで、横から視線を感じてそちらに振り向く。


「…………」


 ウェリカが無言でこちらを見ていた。なんかまた眼鏡掛けてるしなんなんだ。


「あたしにも……食べさせてよ………………お兄ちゃん」

「え?」

「だから! あたしのお兄ちゃんなら妹にもおんなじ事しなさいよ!」

「ああ……うん……」


 気圧されて同じように鉄板から肉を取り、皿に移す。そこでふと俺は気づいた。


 もしかして今、めちゃくちゃ恥ずかしい事やってた?


「ん!」

「ウェリカ……あー……仕方ないな……」


 こちらに口を開けるウェリカ。仕方ないので手で肉を掴み、ウェリカの口にひょいっと入れてやる。


 なんだか、小型犬に餌付けでもしてる気分になるな……。


「……どうですか」

「…………まあまあね」


 感想を尋ねると、ウェリカは肉を飲み込んでから、その一言だけ言った。何がまあまあだったんだよと思いつつも、掘り下げる気にもなれなかったので何も言わずに自分で肉を取って食べた。


「……あのさ」


 火元で頑張り続けているメーデル先生の絶妙な火加減で焼かれた肉を先生に感謝しながらしばし舌で存分に味わっていると、ウェリカが小さな声で切り出してきた。


「これからも……その……あたしと……兄妹で、いてくれる?」


 普段から兄妹として接するつもりなんて毛頭無いが、またこうやって身分を隠さなければならないときがあった際にはなってもいいだろう。


「機会があればな」


 自分がやった事に対して恥ずかしくなったのもあって、少しぶっきらぼうに返事をしてしまう。







 彼女がこの時何を思って、俺にそう尋ねたのかは、わからない。予想する事は出来ても、結局予想は予想でしかなくて。


 今思い返せば、もっといい返事をしてあげるべきだったのではないかと僅かな、いや、拭いきれない後悔が残っている。


 この日の翌日、まさかあんな知らせが届くなんて、この時の俺は想像してもいなかったのだった。

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