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第23話

「メーデルせんせー。久しぶりー」

「まあ! お久しぶりです!」

「先生全然変わってないね!」

「また会いたかったです!」


 会場である教会に到着するや否や、メーデル先生はかつての教え子らしき参列者に次々と話しかけられていた。この光景を見るだけで、メーデル先生が生徒に愛されていた先生だったのだなと感じる。


「結婚式ってこんなに人来るのね……」


 集まっているたくさんのドレスや礼服姿の人に気圧されているのか、ウェリカが俺の袖をぎゅっと掴みながら話しかけてきた。


「そうだな。たくさんの人を集めて執り行うのが儀式的にも人間関係的にも大切だって聞いた事がある」

「そうなのね……」

「一応聞くけど、今まで結婚式行った事ってあるか?」

「無いわ。姉上も未婚だし、あっても呼ばれないのよ」

「……そうか」


 自分から行きたいと言い出した時点で察してはいたが、改めて事実そうだと聞かされると何とも言えない感情になる。


「姉上ともずっと会わせてもらえてないし、そういう扱いなのよ。あたしは」


 楽しそうに話す人々をどこか寂しそうな目で見るウェリカ。まるで自分はああなれない人間なのだと言いたげな姿を見て、放っておけない気分になった。


「な……なによ……。いきなり頭なんか撫でてきて……」

「いいだろ別に。……妹なんだから」


 目の前の女の子と亡くなった妹を重ねてはいけないと決めてはいたものの、妹――フィオラが落ち込んでいたときよくこうしていたのを思い出して、俺はウェリカの柔らかい頭を優しく撫でた。


「子供扱いしないでよ……!」

「俺から見たら実際子供も子供だよ」


 だから俺が一緒にいられる間くらいは、居場所を作ってあげたい。居場所に、なってあげたい。そう思っている。


「あの、もしかしてアルドリノール先生ですか?」


 髪サラサラだななんて感じたりしながら黙って頭をしばらく撫でていると、白い装束を身に纏った男性が声を掛けてきた。


「そうですけど……あ、もしかして」

「はい。ナモフーでは助けて下さりありがとうございました。新郎のオービンです」


 やっぱりそうだったか。オービンは俺に恭しく頭を下げてきた。悶絶顔と違って平常時の顔はなかなか整っている銀髪の好青年で……。いやマジでイケメンだな。身長も高いし、あらゆるパーツが完璧なバランスで配置されていて美形とはこういうものなのだと思い知らされる。


「あのときは気が動転してまともにお礼も言えなかったので、今日来てくださって本当に良かったです。ところで隣にいるのは……」

「妹のウェンディです。一緒に行きたいと言っていたので連れてきました」

「ウェ……ンディ……ですわ」


 またですわ口調になってるウェリカもといウェンディがドレスの裾を摘みながらたどたどしく名乗った。


「来てくれてありがとう。すごく嬉しいよ」


 オービンは軽く身を屈めてウェリカに目線を合わせると、薄く微笑んだ。


「ちょっとオービン? 確認しておきたいのがあるんだけど」


 するとオービンの後ろからあでやかな純白のドレスを着た紫色の長い髪の女性が姿を現した。


「わかった。今行くよアーレット」

「あ、アルドリノール先生! この前は本当にありがとうございました!」


 アーレットは明るい声と笑顔で俺にお礼を言ってくれた。既に手紙でも言われていたけど、実際に言われると改めて嬉しく感じる。


回復役ヒーラーとして当然の事をしたまでですよ」

「しれっとそういう事を言えちゃう辺り、やっぱり先生って感じですね」

「まだ新任ですけどね」

「これからも頑張ってくださいね。隣にいるのは……」

「アルドリノールの妹の……ウェンディですわ」


 また俺が紹介してやろうと思ったが、ウェリカは自分からアーレットに挨拶した。それからなぜか俺をチラッと見て睨んできた。仕方ないだろこうしないと後々大変なんだから。


「ふふ、もしかして緊張してる?」

「え、あの、その……」


 アーレットに聞かれ、しどろもどろになるウェリカ。間違いなく緊張してる。


「大丈夫。一番緊張してるのはオービンだから」

「そりゃ緊張もするよ! 結婚式だよ!?」

「はいはい。お二人とも、今日はたくさんお祝いしてくれると嬉しいです」

「お願いします……。ウェンディちゃんもよろしくね」


 そう言ってアーレットとオービンは教会の奥へと向かっていった。なんか今のやり取りで二人がどういう関係性なのかが何となくわかった気がする。とりあえずオービンには今後も色々と頑張って頂きたいところである。


「……やっぱりすっごい恥ずかしいんだけど! 妹設定!」


 新郎新婦が目の前から去った後、ウェリカがむくれながら俺に向き直り言った。


「夫婦になる訳にもいかないだろ」


 かと言って親子設定にするにはあまりにも年が近すぎる上、メーデル先生まで巻き込んじゃってややこしくなりすぎるし。

 

「ふ、ふふふ夫婦!? あんたと、あたしで!?」

「お前も嫌だろ? この日限りの設定とはいえ俺と――」

「嫌じゃないわ!」


 ウェリカがそう言った瞬間、俺の時間が静止した。


 俺と夫婦設定になるのは嫌じゃない?


 つまり、俺の事が……?


 いや、それは考えすぎだ。いくらなんでも妄想が過ぎる。


「あ……え……の……」


 しかしウェリカの顔は沸騰したかのように一気に赤くなり、新品らしい靴で後ずさりしながら俺から少し離れていく。このままどこかに行ってしまうんじゃないかって気がして、咄嗟に細い腕を掴む。


「えっと……」


 とはいえ何と声を掛けるべきだろうか。「今から夫婦になるか?」気持ち悪すぎる。却下。「兄妹婚するか?」全然ダメだ。これも却下。


「初めましてー」


 何を言おうか考えていると横から間延びした声で女性に話しかけられて、咄嗟に掴んでいたウェリカの腕を手に掴み替えながらそっちを向く。


「女子魔法学校卒業生の、メリーエルですー」


 女性はそう挨拶してきた。大方、メーデル先生の元教え子なのだろう。


「女子魔法学校の教師のアルドリノールです」

「さっきメーデル先生から聞きましたー。新任なんですねー」

「はい」

「で、そちらは妹さんだって」

「…………妹の、ウェンディです」


 メリーエルにウェリカは聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で挨拶し、頭を下げた。


「よろしくねー。先生も、よろしくお願いしますー」


 メリーエルはウェリカに手を振ると、若い女性が集まっているところに駆けていった。


「ま、今日は兄妹として式を楽しもうぜ」

「……そうね」


 俺はウェリカから手を離し、その手でそのまま頭を撫でた。

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