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第22話

「場所はここから少し歩いた先にある教会です!」


 学校から数時間馬車に揺られて領都ヌチオズに到着すると、俺とウェリカ――もといウェンディは道筋を知っているらしいメーデル先生に先導され、後ろを歩いていく。ヌチオズは一つの大きな湖を囲うように住宅や市場が立ち並び、道路も環状になっていて、道の間には木々が生い茂っているノコエンシス領らしい自然豊かな街だ。


「あれって湖よね?」


 俺の右隣を歩いていたウェリカが俺の礼服の袖をくいくいと引っ張りながら、左側を見て尋ねてきた。


「ああ。この町のシンボルのヌチオズ湖だ」

「あたし……湖って初めて見たかも……」

「クラウディア領には無かったんだっけか」

「無いわ。あるのは山ばかりよ」

「釣竿入れたら魚釣れますよ! あんまり美味しくなかったですけど!」


 話を聞いていたらしいメーデル先生が歩きながら振り向いてきて言った。透明で水質は良さそうなのに美味しくないのか……。ていうかここで釣って食べた事あるのか……。


「そ、そうなのね……」


 ウェリカも反応に困っているようだった。

 

「でも、近くの市場で食べられる魚はすっごく美味しいんですよ! 不思議ですよね!」

「……美味しい魚しか出してないからじゃないですかね」


 俺が呟いた刹那、メーデル先生は脳内に閃光が迸ったかの如く驚愕の表情を浮かべた。


「確かに! それならそうなるのも納得です! すごいですアルドリノール先生!」

「いや、それくら――」


 い当然じゃないですかと言おうとしたがショックを与えてしまいそうだったので咄嗟に口を塞いだ。


「ありがとうございます」


 咳払いをした後、そう言い直した。そしてまたウェリカに話しかけられる。


「泳げるのかしら」

「泳ぐなら海にしておけ」

「海なら小さい頃行った事あるわよ! 泳いだ事はないけど!」

「私、ここで泳いだ事あるんですけど水が冷たいのでおすすめはしませんね。それに泳いでいるとなんか変な視線を感じるんですよね」

「そりゃ感じるでしょ!? ここで泳ぐ人なんて普通いませんし!」


 今度は耐えられなかった。緑豊かな場所にあるとはいえ、周囲には建物もたくさんあって人がとめどなく歩き続けているような湖で泳ぐか!?


「いないんですか!?」


 メーデル先生がまたしても驚く。泳ぐためにあるんじゃないんですか!? みたいな反応だった。


「いや、酒に酔った勢いでって事はあるかもな……。もしかしてメーデル先生も?」

「シラフですよ? 酔った状態で泳ぐなんて危ないじゃないですか!」

「なんでそこはまともなんだよ!?」

「えー? こんな綺麗な湖があったら泳ぎたくなるのが性だと思うんですけど、皆さんは違うんですかね……?」


 メーデル先生は首を傾げながらまた歩き始めた。そしてまたウェリカが袖を掴んできた。


「ねえ、メーデル先生ってもしかして結構天然なのかしら」

「亜人は人里離れた所で生まれ育つ人が多いらしいからそれもあるのかもな……でも魔法使いとしてはすごい優秀らしいぞ」

「あんたよりも?」

「どうだろうな。適性も違うだろうしそこは何とも言えないけど」

「私、地元では『焼肉のメーデル』って呼ばれてたんですよ!」


 もしかして聞こえてたのか。それよりもなんなんだその呼び名は。


「焼肉ってどういう意味ですか……?」

「火属性魔法を絶妙な具合に調節してお肉焼くのが得意なんです! あ、そうそう! 学校にストックしているお肉があるので帰ったら皆で食べましょうね!」

「いいわねそれ! あんたもそう思うわよね!?」


 唐突で突拍子もない提案だがウェリカがやたら乗り気になってるし……まあいいか。


「そうだな」

「今から楽しみですね! アルドリノール先生にも二つ名ってあったりするんですか?」


 二つ名か。「レイクレイン家の生き残り」はちょっとここで言うには重すぎるか。それなら……。


「『首席回復役(ヒーラー)』とかですかね」

「わぁ! なんてスタイリッシュ!」

「ちなみにこいつは『暴発お嬢様』です」

「ちょっとあんた! そこは『天才最強美少女貴族魔法使い』って言いなさいよ!」


 適当に言ったらウェリカにどつかれた。


「お前のそれはただの自称だろうが。長くて覚えにくいし」

「じゃあ『九百倍』! これならいいでしょ!」

「まあ……な」


 知らない人が聞くと何が九百倍なんだってなるかもしれないが、二つ名って大抵そんなもんな気もする。


「いいですね! 魔力も夢もスケールも何もかもビッグサイズ! って感じがします!」

「でしょでしょ! ほら、お兄ちゃんもこんな妹を見習いなさいよ!」


 いきなり妹設定を思い出したかのようにウェリカ――ではなくウェンディが俺に上から目線で言ってきた。


「見習わせたいなら早くその九百倍の力を使いこなせるようにしろ」

「わかってるわよ!」

「お姉ちゃんも、見習ってくれてもいいんですよ?」

「なんでメーデル先生まで……先輩教師としては見習いたいと思ってますよ」

「いっぱい見て下さいね!」


 こちらを見て両手を広げて俺にアピールしてくるメーデル先生。ドレス姿は可愛いけどやっぱり末っ子か何かにしか見えなかった。

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