第21話
「という訳で、俺たちと一緒に参列する事になりました、妹のウェンディです」
「ウェンディちゃんです!」
結婚式の会場があるノコエンシス領の領都ヌチオズに向かう前、俺は学校の校舎内でメーデル先生に変装させたウェリカ、もとい俺の妹であるウェンディを紹介した。ハーフアップの髪型の眼鏡っ子で黒いドレス姿のウェンディは俺が紹介した直後、メーデル先生に元気に挨拶した。
「ウェリカさんですよね!?」
「ウェンディちゃんです!」
一瞬で見抜かれてしまった。
「違います。ウェンディです」
「ウェンディちゃんです!」
しかしそれでもこの子はウェリカではなくウェンディであると言い張る。
「いやいやいやいや! どこからどう見てもウェ――」
「ンディちゃんって事にしておいてください。辺境伯のご令嬢が大した面識もない平民の結婚式に参列したってなると色々と面倒な事になりそうなので……」
「ウェンディちゃんです!」
嫡子でもなければ外部の平民ともあまり交流していなかったらしいウェリカであれば変装させなくても適当に誤魔化せそうだが、万が一という事はあるだろう。
「……わかりました! ウェンディさん! 本日はよろしくお願いいたします! 」
「ウェンディちゃんです!」
たった今、ここにいる三人の間においてウェリカはウェンディとなった。ていうかさっきから自己紹介しかしてないが大丈夫だろうか。
「大丈夫か?」
「ウェンディちゃんです!」
よし、大丈夫じゃなさそうだ。
「ウェリカ。一回ウェリカに戻れ」
「うぇ……わかったですわ」
「なんで半端にですわ口調になってんだよ」
「え、嘘、あたしそんな口調になってた?」
「嘘じゃないぞ」
「もしかしてウェリカさん、緊張してます?」
「し、してないですわ!?」
メーデル先生に聞かれたウェリカが目を泳がせながら返事をした。口では否定しているが間違いなく緊張してるな。こいつ緊張すると口調変わるタイプだったのかよ。
「色々マナーとかはあるけどあんまり肩肘張らなくていいと思うぞ」
「そうですよ! こういうのはお祝いしようっていう気持ちが一番大事なんですから! ぶっちゃけ私もマナーとかよくわかってないですし!」
緊張をほぐしてやろうと無責任に俺が言うと、メーデル先生も無責任に続いた。正直俺も参列した事あるのは子供の頃だしマナーとかの記憶は曖昧だ。
「あんたら教師としてその発言はどうなのよ!?」
「安心しろ。俺もお前も今は爵位を失ったただの平民だ。だから多少は大目に見てくれるさ。多分」
「アーレットさんは優しいので多少のやらかしは許してくれます! 多分!」
極めて真っ当なツッコミをしたウェリカに俺とメーデル先生は極めて楽観的な言葉を返した。
「なんなのよあんたたちは……! 貴族らしくちゃんとしないとって思ってたあたしが馬鹿みたいじゃない!」
ウェリカは語気を強めて俺たちに言ったが、顔はだいぶにやけていた。
「お前は貴族かもしれないがウェンディは平民だ。くれぐれも忘れないようにな」
「あたしが……平民……」
普段貴族貴族言ってるからか、ウェリカが少し戸惑いの顔を見せる。
「ま、さくっと楽しもうぜ。ウェンディ」
「そ、そうよね……お兄ちゃん……」
ウェリカ――ではなくウェンディが照れながらも俺を呼んだ。お兄ちゃん、か。フィオラは俺を兄さんって呼んでたからなんだか新鮮だ。
「私の事もお姉ちゃんって呼んでください!」
「別にメーデル先生はそのままでいいでしょ。花嫁と知り合いですし」
「私一人っ子で! 弟や妹がいたらいいなって思ってたんです! だから試しに! 一回だけでも!」
メーデル先生が両手を合わせてお願いしてきた。
「……もしかして。俺も呼ばなきゃいけない感じですか?」
「だってアルドリノール先生、私よりも年下でしょう? ですからほら! 私をお姉ちゃんと!」
と言われてもメーデル先生は淡いピンクのドレス姿とはいえウェリカよりも背が低く童顔なので末っ子か何かにしか見えないのだが、それを言ってしまったら普通に悲しみそうなので言わないでおく。
「じゃあ……お姉ちゃん?」
「めへへへへ……」
メーデル先生が恍惚の表情で変な笑い声を上げた。
「ほらほら! ウェンディさんも!」
「……お姉ちゃん。ねえこれめっちゃ恥ずかしいんだけど! そこまでする必要ある!?」
「あります!」
「ないわよね!?」
なんだか本物の姉妹みたいだなと、二人のやりとりを見て思っていたところで、勢いよく振り向いたウェンディに指をさされる。
「あんたも何か言いなさいよ!」
「…………お兄ちゃんだ」
「もおおおおおおおお!」




