授業5 魔法道具について
「今日は魔法道具についての解説をする」
ウェリカとの墓参りを終えて学校へと戻ってきた翌日、俺は再び教壇に立ち、いつも通り席に座っている四人に授業を始めた。
「まずは杖だ」
俺は教壇の下に置いていた杖を手に取って四人に見せる。
「前にも軽く説明したり迷宮でも使わせたから知っているかとは思うが、杖を使えば体内に取り込むマナを調整する事が出来る。わかりやすく言うならば、火属性の魔法を使おうとした際に火属性のマナを大気中から選別して効率的に取り込める、って感じだな」
「でもあんた杖使ってないときも多いじゃない。あたしだってあんまり使わせてもらえてないし」
ウェリカが指摘してきたので、俺は答える。
「慣れれば杖を使わなくても特定の属性のマナを意識して取り込む事が出来るようになる。それに最初から杖に頼ってしまうとかえって上達が遅くなったり、杖が無いと魔法が使えないって事にもなってしまうんだ。だから実践のときはともかく、普段の授業だったり練習のときは使わないのが常とされている」
「そうだったのね」
「ま、杖はあくまで補助器具として認識しておくって事が大事だな」
俺は杖の解説をひととおり終えた後、黒い衣服と帽子を教壇の横に置いていた鞄から取り出す。
「ウェリカ、こっちに来い」
「わかったわ!」
呼ぶとウェリカは意気揚々と立ち上がり、教壇の前へとやってきた。
俺はウェリカにとんがり帽子を被せ、ローブに袖を通させる。
「ジャストサイズだな。なかなか様になってる」
「そ、そう?」
ウェリカがとんがり帽子に両手を掛けながら、露骨に嬉しそうな顔をする。杖も持たせると、まさに美少女魔法使いと言うべき姿となった。
「帽子とローブは持っている魔力を増大させるものだ。魔術師の基本装備は大抵これだな。現に俺も冒険者だった頃はそうだった」
「じゃあもしかしてこれあんたの!?」
「いや、学校にあったやつだけど」
「ああ、そう……」
俺のだともっとブカブカになってるだろと思いつつ、解説を続ける。
「魔力が含まれた特殊な繊維で仕立てられていて、この帽子とローブは合わせて並の魔術師の二倍の魔力量が含まれているとされている。つまり今のお前は九百二倍の女だ」
「九百二倍……どうせなら千八百倍が良かったわね」
「そうなったら本当に世界滅びそうだな」
世界のどこかには本人が持つ魔力量を二倍にするってやつもあるみたいだけど、俺はまだ噂レベルの認識でしかない。
俺はウェリカから帽子とローブと杖を回収すると、代わりに彼女の身長と同じくらいの色の濃い木材で出来た箒を手渡した。
「箒に乗れば空を飛ぶ事が出来る――んだが」
「だが?」
ウェリカが跨ろうとしていたので手で制止しながら、俺は説明する。
「操縦するには常に魔力を箒に流し込ませ続けないといけない。ついでに操作をミスれば建物や木に衝突するし、途中で魔力が尽きれば転落して死ぬ」
「なにそれめっちゃ危険じゃない!」
「だから箒に乗って上空を飛び回る――みたいな事はほとんどしない。するとしても低空飛行で短距離移動をする程度だな」
と、俺が言うと、オルシナスが無言で立ち上がりながら近づいてきた。
「……わたしなら問題なく扱える」
オルシナスはウェリカから箒を受け取ると、教室の窓を開けた。
「ちょ、オルシナス!?」
「……よく乗っていたから……安心して」
オルシナスは俺にそう告げると、箒を片手に躊躇なく窓から飛び降りた。
「おい!」
俺が慌てて窓に駆け寄ると、オルシナスは窓の外で箒に跨り、優雅に空を飛び回っていた。
「……どう」
オルシナスは空中で静止しながら、俺の目の前で感想を尋ねてきた。
「すごいな……」
としか言いようが無い。これほどまでに箒を乗りこなせる人を、俺は今までに見た事が無かったから。
「……このまま魔法も使える」
オルシナスはそう言って宙返りをした後、空に向かって氷魔法を放った。箒から離れた彼女の両手から無数の氷の粒が空に舞う。
「……すごい?」
「すごい」
やっぱりこの子、絶対俺より強いよな。
*
「あとは、こんな道具もあったりする」
ウェリカとオルシナスを席に戻した後、俺はストレリチアを教壇に召喚した。
「なぜボクなんだい」
投げかけられる疑問を無視して、俺は後ろからストレリチアの首にチョーカーを付けてやった。墓参りのとき、ウェリカに一瞬で壊されたのと同じものだ。留め具でしっかりと留めたが、チョーカーは壊れる事なくストレリチアの首に残った。
「なんだこれ――って魔力が……」
「このチョーカーは魔力を封じる道具だ。魔法を使わないという意思表示のときや、敵の魔法使いを無力化したいときに使う」
「どうしてこんなものをボクに!?」
「お前じゃなきゃダメなんだよ」
「どういう意味だ!?」
「そのままの意味だ」
「先生ってば……大胆……!」
「多分レイノが思っている意味ではないな。うん」
なぜかレイノがうっとりとした顔をしたのでとりあえず否定しておく。
「じゃ、戻っていいぞ」
俺はチョーカーを外してやると、ストレリチアに言った。
「あ、いいのか……わかった」
なぜかストレリチアが戸惑ったように席に戻った。するとオルシナスがまた席を立ち俺の元へと寄ってきた。
「……わたしにも付けて」
「いや、でも、これは……」
「……いいから」
「わ、わかった」
嫌な予感がしてならないなと思いつつも、俺はオルシナスの細い首にチョーカーをつけてやろうとしたが、その瞬間チョーカーがバラバラになり周囲に弾け飛んだ。嫌な予感は的中し、見事ウェリカと同じ結果になってしまった。
「……わたしは強い」
「そ、そうだな……」
表情の変化は相変わらず薄いものの、どこか自慢げにも見える顔で俺を見るオルシナス。
やっぱりこの子、絶対俺より強いよな。




