表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/169

第1話

「今日は皆に大切な話がある」


 朝、いつものように冒険者ギルドに行くと俺が所属しているパーティー「メルクネメシア」のリーダー、カイリがやけに神妙にかしこまった態度でそう言ってきた。


「どうしたんだよ。急に改まって」

「私からも、話があるの」


 俺の問いにカイリは何も言わず、なぜかカイリの隣にパーティーの紅一点、リリサがやってきて、カイリの腕を愛おしそうに抱きながら口を開いた。真正面に立っている俺に、見せつけるようにしながら。実際見せつけてるんだろうが、こいつら一体何を「今日を以ってメルクネメシアは解散する」


「ぬぇ、あえ、あ、え? は?」


 カイリが真っすぐに放ってきた言葉を俺は飲み込むことが出来ず、こう返すことが精一杯だった。えっと? 解散……つまりパーティーはもう無くなるってことだよな? そういうことだよな?


「随分と突然ですが……理由を聞かせてもらっても?」


 俺が呆然としながらもなんとか脳内で考えを整理している最中、もう一人のメンバーであるレグリアが眼鏡を持ち上げながらそう尋ねてくれた。カイリはしばらく天井を見つめた後、ゆっくりと語り始めた。


「冒険者は一生続けられる仕事じゃない。生涯冒険者ということは最期は魔物に敗れてしまったということに他ならない。だからいずれはこういう決断をしなければとは思っていた。そしてそれがなぜ今日であるのかという話だが――」

「私たち、結婚するの」

「け、けけけけ、けけけけけけけ!?」


 カイリの言葉を継ぐように、リリサがとんでもない爆弾発言をぶちかましてきた。最早俺はけけけとしか言えなかった。結婚か、いや、うん。確かにただの仲間としてはこの二人は若干、いやかなり距離感が近かった気がするけど、まさかもうそんな段階まで話が進んでいたとは……。


「それでね、田舎で孤児院を開こうと思ってるの」


 孤児院ね……。いや開くのは別に構わないし大いにやってくれと言いたいんだが、いかんせん唐突すぎる。


「けけけけ!」

「今まで色んな所に行って、親を失って、助けを求めてる子をたくさん見てきて、何か出来ないのかなって思って……それで、カイリに相談して、決めたの。……えっと、アルドリノール、けーとか何とか言った? 経費のことなら大丈夫。ちゃんと用意してるから」


 リリサに妙な誤解をされてしまった。そうじゃなくてねとか俺には相談してくれなかったんだね悲しいよとか言おうとしたところで、カイリが再び続ける。


「とにかく、孤児院を開くなると各地を飛び回る冒険者のままではいられない。だからこうしてこのような決断に至ったという訳だ。二人には、申し訳なく思っている。本当にすまない」


 カイリは深々と俺たちに頭を下げた。それに合わせて、リリサも頭を下げる。


 とりあえず、二人はもう冒険者を続ける気は無いということは分かった。


「仕方ない、これからはふた「ちょうど僕もそろそろ、実家の食堂を継ごうかなと思っていたところだったんです。もしかしたら、丁度良い時機だったのかもしれませんね。すみませんアルドリノールさん、何か言いました?」」

「あー……いや、俺もそろそろ冒険者辞めようと思ってたんだよ。これで、満場一致だな。うん」


 こうして俺は魔物ではなく、同調圧力に負けた。


 そして間もなく解散届が提出され「メルクネメシア」は正式に解散となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ