第119話
「ふぇんふぇいふぉふぇいへはふふぁふぃへふぉふふぇふぁふぉ」
「何言ってんだよ」
授業終了後、俺はオルシナスとともにストレリチアの部屋に招かれた。理由は当然、俺が持ってきたお菓子を食べるためだ。そんな訳で早速部屋の主は俺が手渡したクッキーを食べながら何か言ったが全く聞き取れなかった。
「ん……先生のせいでとんだ辱めを受けたじゃないか」
口に含んでいたクッキーを急いだ様子で飲み込んだ後、ストレリチアは改めて口を開き、俺に指をさしてきた。
「だけど、最終的にやると決めたのはお前だろ」
「そうやって今までにも似たような事をやってきたじゃないか。ボクの裸を見たりとかさ!」
「ちょっと待て、別に裸は見てないだろ!?」
下着姿は見たけども。
「実際見たようなものだろあれは!」
「えぇ……」
「……アルとストレリチア……ただならぬ関係……?」
俺の膝の上で俺の手からもそもそとクッキーを食べていたオルシナスが俺の顔を見あげ、小さな声で囁くように呟いた。可愛い。
「ただの関係だ」
「ボクからしてみればキミたちの方が幾倍もただならぬ関係だよ」
「…………だって」
オルシナスはストレリチアの言葉を否定する事もせず、ただただ可愛らしい表情で俺の顔を見つめてくる。俺は黙って彼女の頭を撫でた。そうすると気持ちよさそうに彼女は目を閉じた。可愛い。
「ほらほらただならないただならない!」
ストレリチアが声を徐々に荒げながらビシビシと俺に指をさしてくる。
「はいはい」
まあ別に否定しなくてもいいかと思い、俺は適当に返事をした。
「そこは否定してくれ!」
しかしどうやら否定して欲しかったらしい。仕方ないな……。
「…………否定しない」
否定してやるかと俺がため息をついた途端、オルシナスが小さな声で、しかしながらはっきりとストレリチアにそう言った。
「ふぁあ!?」
「な!?」
俺とストレリチアが同時に驚きの声を上げる。
「ふぇあ、ちょ、オルシナス!?」
「……」
動揺しまくる俺とは正反対に、オルシナスは至って変わらず無表情のまま、俺をじっと見つめてくる。
「そうか。つまり先生とボクは身体だけの関係だったんだな! ボクとあんな事をしておいて心はずっとオルシナスに傾いてたって事だな!」
「なんでそうなる!?」
ストレリチアがなんかとんでもない事を口走った。ていうかあんな事ってどんな事だよ。色々心当たりはあるけども。
「また脱げばいいのか!?」
「脱ぐな!」
ストレリチアが制服の裾を自ら捲り素肌を露わにし始めたところで、俺は慌てて――オルシナスを抱きかかえながら部屋を後にした。
「お前はもっと自分を大事にしろ!」
既に閉め終わったドアに向かって、俺は声を張り上げた。とりあえず、オルシナスがいるのにあいつのあんな姿をまた見せられたら色々と大変すぎる。
「…………」
「あーっと、これは……」
オルシナスが説明しろといいたげに俺をじっと見つめてくる。が、一体どうやって説明すればいいのだろうか。誰か助けてくれ。
「……説明……して……」
しかし、誰も助けてはくれなかった。