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第112話

「先生。やはりボクは天才なのかもしれない」


 ある日の夕暮れ、俺は言われるがままストレリチアの部屋に連れ込まれた。そして開口一番そんな事を言い放ってきた。


「そうか。よかったな」

「まさにたなぼ――天の配剤だね」

「何で言い直した」


 俺のツッコミを無視し、ストレリチアはドヤ顔で魔法陣が書かれた紙を床の上に置き、その上に銀色の糸のようなものをパラパラといくつも散らしていく。


「素晴らしい素材だよこれは。これさえあればボクの野望が実現出来る」

「そうか。よかったな」


 そんなに素晴らしい素材なのかこれは、と思いながら魔法陣に置かれたそれをじっと見つめていると、何か違和感がある事に気がついた。


「これ……髪の毛か……?」

「ああ。この前ここに来た魂壊竜からこっそり頂戴させてもらったよ」

「抜いたのか……?」

「うん。本当にいいよこれは。ボクの思うがままになってくれる、完璧な素材といっても過言では無いね」


 ストレリチアはどこか恍惚としたような表情でモンブランの髪を手に取り眺めている。全くこいつは命知らずというか何と言うか……。


「天才だよボクは」

「どうやって抜いたんだよ」

「簡単だよ」


 とりあえず質問すると、ストレリチアが不意に近寄ってきた。亜麻色の髪からは白い花畑のような匂いがし、整っていると認めざるを得ない顔を間近で見させられると、左胸が高鳴――らなくていいから下を見ろ!


 と目線を下げると、制服越しにでもはっきりと主張する双丘――も見なくていいから!


 と慌てていると、頭にポン、と何か温かいものが乗った感覚が走った。ストレリチアの手の平だと遅れて気がついた後、それは俺の頭を前後左右に移動する。


「ほら……こうやって撫でてる振りをして…………して……」


 ストレリチアと、至近距離で目が合う。目を動かしても逃れられない距離で、互いが、互いの視界を覆いつくす。


「えっと……」


 ふっと頭上が軽くなり、とにかく口を動かそうと思い、声を出す。ストレリチアは、呆けたような顔で俺をただ、見つめてくる。


「わぁぁぁあ!?」


 ややあって、ストレリチアが悲鳴を上げて猫かよと言いたいくらいに跳んで俺から遠ざかった。


「違うんだこれは! 放送事故だこれは!」

「放送事故って何だよ」


 ストレリチアは慌てた様子で謎の単語を口走った。必死に動かす口の上にある頬は、紅葉の如くほんのりと赤く染まっている。


「……ところで、俺は何をしたらいいんだ」


 お互い一旦落ち着こうという思いを込めながら、俺は壁に背中をつけてへたっているストレリチアに尋ねる。


「えっと……うん……もしボクに何かあったときに助けてもらえたらなって……」

「わ、わかった……」

「先生が……その……ちょうどいいんだ」

「ちょうどいいのか……」

「うん……」


 何だろう、この微妙な気まずさは。別に気まずく感じる必要なんてどこにもないはずなのに。


 ……あ。


「……あった」

「何が……?」


 不意に漏れた呟きに、ストレリチアがおどおどした様子で首を傾げる。


 今のこいつの服装は制服で、下半身はスカートだ。そして今、俺の正面にある壁に背をつけ座っている。照れているからだろうか、露わになっている太ももで上半身を隠すような姿勢になっていて……つまりは、まあ、うん。


 俺は立ち上がり、白衣を脱ぎ、ストレリチアに近づく。


「せ、先生!? こんな場所じゃ駄目だよ! こんな場所じゃなくても駄目だけど!」

「ちょっと大人しくしてろ」

「ぼ、ボクはその……純潔なんだ……だから……」

「だったら尚更だ」


 俺はそう言いながら、毛布のようにストレリチアに白衣を被せてやった。するとようやく、ストレリチアも気づいたらしく、白衣をぎゅっと抱きしめながら、白衣の中で姿勢を正した。


「もう少し……気を付けた方がいい。お前はその……美人だしな」

「あ……うん……」


 潤んだ瞳で見上げられ、再び鼓動が高鳴る。一体どうして俺はこいつとこんな雰囲気になっているんだ俺は……。とりあえず自分の頬を両手で叩き、改めて口を開く。


「で、今日は一体何をするんだ?」

「もし……先生がボクとしたいというのなら……」

「そうじゃねえよ!」


 俺は後ろにある魔法陣を指さす。ストレリチアは「あうっ」と妙に可愛い声を漏らした。


「あの……それは……」

「それは?」


 ややあって、白衣で口を覆っていたストレリチアが、小さく口を開けた。


「先輩のいる場所へと、意識を飛ばす魔法……」

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