第100話
「冒険者だった頃、俺はダンジョンの奥深くでとある魔物と出会った」
「ダンジョンで?」
「ああ。本来は廃墟や路地裏なんかでひっそりと暮らしていたりするのが多いらしいんだけどな」
寮まで向かう道すがら、俺はウェリカに冒険者時代の昔話をしていた。ウェリカには、しないといけないと思ったから、こうして歩幅を合わせて、話をしている。
「その魔物の名前は『シェイプシフター』……いや、厳密には名前というか通称なんだけど、とにかく、自在に姿を変えられる能力を持っている魔物だったんだ」
「姿を変えられるって……あたしの姿になれたりもするの?」
「ああ。姿を変えられるだけならまだ良かった。見てくれが変わったところで気にせず倒せば良いだけだからな」
「……そうじゃなかったの?」
「ああ。俺たちが出会った魔物は、変身した相手の姿だけでなく、記憶や人格、思考や技術まで取り込んでしまうような、凶悪な魔物だった」
もっとも「シェイプシフター」と呼ばれる魔物全部がそんな恐ろしい能力を持っている訳では無いみたいだが、不幸にも俺たちが出会ったのは恐ろしい能力を持っている方だった。
「結局仲間に変身されて、戦いにもならずに仲間が瞬殺されたから撤退を余儀なくされたっけな」
「瞬殺って、大丈夫だったの!?」
「俺がいたからな」
「ま、まあ、そうよね。あんたがいるなら大丈夫よね……」
むしろ魔物に負けたカイリを運んでいるリリサとレグリアがとんでもなく下らない理由で揉め始めた方が大丈夫じゃなかった記憶がある。
「ところでなんでこの話をあたしに…………ちょっと待って。もしかして……」
「……ああ」
言い淀むウェリカの言葉の先を察した俺は、静かに首を縦に振った。
学生寮の出入口の扉を開け、微かな光だけが路を照らす廊下を歩いていく。後ろにはウェリカと、モンブランとガランス、そして不安げにきょろきょろとしているミツキさんがいた。やがて二階にあるとある部屋のドアの前で立ち止まると、俺はコンコンと軽くノックする。
「レイノ。俺だ」
ドアに向かってこう呼び掛けるが、果たして次に何と言うべきか。
言わなければならない事は何か。それはわかっているつもりだ。
だけど、俺は。
「先生……ですか……?」
考えがまとまりきる前にドアが開き、中からいつもより少しぼさぼさの髪をしたレイノが顔を見せた。
「あなたは……レイノじゃ……ない……」
そして俺が何かを言う前に、ミツキさんが、レイノに向かってそう言った。