葬礼童話 ナイフと人形
作者不詳。未完の童話。
むかしむかし、雪に覆われた大地の、険しい険しい山の奥で一本のナイフが生まれました。
ナイフの誕生はお父さんとお母さん、そして一族のみんなの悲願でした。
ナイフはとても役立たずでした。
ほんとはなんでも切れるのに、なんでも守れるのに、賢くて怖がりなナイフはナイフとして求められたことは何一つできないポンコツでした。ガラクタでした。欠陥品でした。
どうしようもない欠点を抱えた出来損ないのナマクラでした。
みんながっかりしてナイフになにも望みませんでした。でも、ナイフを嫌いになったわけではありません。どれだけ大切な願いでも叶わないときは叶わないと、みんな知っていたからです。誰もナイフを責めませんでした。
ナイフはひとりになりました。
山を降りたからです。生まれてからそれまで生きてきた山を、世界の全てだった一族と山を離れて、あてもなく飛び出しました。
ナイフを可愛がってくれた、お兄さんからのプレゼントだけ持って。
あてもなく、はてもなく、ゆめもなく、ただぶらぶらと彷徨いました。いろんな国を渡りました。
何度か気まぐれに自分を磨いてみましたが、結局ダメ、なまくらなままでした。
そうしてこうして、ふらふらぶらぶらした果てにたどり着いたのは、ナイフの生まれ故郷によく似た、寒くて空気が澄んでいて、綺麗なオーロラの見える場所でした。フィンランドという国です。
ナイフはここが気に入りました。この地で静かに錆びて朽ちていこうと思ってしまうくらいには、気に入りました。
そうして根無し草な日々を送っていたナイフがこの地に根を生やして、すくすくと根を伸ばしていた日々の中で、ナイフは人形に出会いました。
その人形は死に場所を探しているというのです、 『オーロラを見ながら死にたい』
という願いを叶えるために。もうすぐ死んでしまうから、と。
そしてナイフは、なんの因果か人形の願いを叶えるための旅についてくことになったのです。
人形との旅は、とても大変でした。
弱くて、死にかけで、面倒なことばかり引き寄せる人形の困難だらけの人生の終わりに付き合うのは簡単なことではなくて、苦労ばかりしました。
山の中で生まれ育って、世界中をふらふらしていたとはいえ世間知らずで無駄なことができないようになっていたナイフには世間の中で生きてきて、無駄なことまみれの人形にはいつも驚かされて、振り回されたからです。
―――――でも、人形は言いました。
ナイフとの旅は、とても楽しいと。
ナイフも、同じ気持ちでした。
この時間がいつまでも続けばいいのに、と願ってしまうくらいに。