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第75話

「(この場所…。あの時のままなにも変わってない…)」


セシリアは一段、また一段と、教会に続く階段をゆっくりと上っていく。

その様子はどこか、階段を一段上るごとに、これまでのセシリアとしての記憶をその脳裏によみがえらせているような、そんな雰囲気を醸し出していた。


「(約束を果たすのに、一体何年かかってしまったんだろう…)」


セシリアがレベッカとなり、その記憶を失ってしまった時、それでも教会の記憶だけは彼女の頭の中に残り続けていた。

ゆえに時間のカウントだけはレベッカの時も進んでおり、それを考えればクラインを待たせてしまった時間は彼女の中で非常に長いものとなってしまっていた。


「(でも、ちゃんと自分の思いを伝えたいと…。たとえどんな結末になっても、それが私のやるべきことなんだから…!)」


セシリアはその場で深く深呼吸を行い、意を決した表情を浮かべた後、そのままクラインに続く最後の距離を縮めていくのだった。


――――


「(この中に…クラインが…)」


セシリアは教会へと続く扉を前にして、その場で深く深呼吸を行い、気持ちを整える。

その後、彼女は意を決したように扉を開けると、一歩、また一歩と教会の中へと足を踏み入れていく。

するとすぐに、教会中央に立ち尽くす一人の人物の後ろ姿が目に入った。

最後に会った時とは姿もかたちも全く変わっていて、空白となった時間を考えれば初めましてと言ってもおかしくないほどの関係であるものの、それでもセシリアには一瞬でその背中が間違いなくクラインのものであろうことを理解することができた。

そして、扉が締められたことを背中越しに察したクラインもまた、ゆっくりと体を翻してセシリアの方を向き、その表情を彼女に見せた。


「セシ…リア…!」

「クライン…!」


他に誰もいない教会の中で、二人は非常に静かに再会を果たした。

もはや二人の間を遮るものは何もなく、そこにはただただ穏やかで、温かな空気が存在していた。


「た、ただいま…クライン…!」

「おかえり、セシリア」


セシリアはどこか恥ずかしそうな表情を浮かべながら、クラインにそう言葉を発する。

一方のクラインは普段と変わらぬ冷静な雰囲気であるものの、その心の中はなかなかに動揺を隠せないでいた。


「(な、なんて言葉をかけたらいいんだろうか…。こうしてセシリアに再会するのを夢に見て、心待ちにし続けてきたのに…。いざ目の前に彼女が現れると、何の話をしたらいいのか分からない…)」


再会までに非常に時間がかかったからこそ、なにから話したらいいのか分からなくなってしまっている様子の二人。

しばし二人の間は沈黙に包まれたものの、その沈黙を破ったのは互いの笑い声であった。


「ごめんごめん。話したいことはたくさんあるはずなんだけど、なんだか頭の回転が悪いみたいで…」

「フフ…。私も全く同じ…。こうしてクラインに会えているのがいまだに信じられなくて、夢の中にいるみたい…」

「…本当に、よく帰ってきたね、セシリア」

「うん。ずっとずっと待っていてくれたんだね、クライン。ありがとう」


2人はそのまま互いの距離を縮めていくと、そのままお互いの手を取り合う。


「手、すっごく大きくなったね」

「セシリアも。もう子どもじゃないね」

「…私たちの思い出は、子どものときで止まっているものね。あぁ、そういえばクライン、ラクス様にマルンを預けていたでしょう?」

「あぁ。大丈夫だったかい?」

「もちろん!それで、マルンと一緒に街に行ったときの事を覚えてる?」

「当たり前さ。忘れるもんか」


セシリアからかけられた言葉に、クラインは満面の笑みでそう言いながら答えて見せる。


「君がどうしても街を見に行きたいと言ってね♪」

「だ、だって…」

「最初は当たって砕けろって精神だったけど、行ってみて本当に良かった。あんな素敵な思い出になったんだからね。マルンもあの時以来、君の事を本当に気に入ったみたいでね。次に君に会えるのはいつかってずっと言っていたよ」

「マルン…」


マルンのその思いが決して嘘などではないことを、セシリアはよく知っている。


「お父様はお元気かしら?私がいなくなってしまっていた間、寂しくて泣いていたりはしていないかしら?」

「グローリア様はどんな時も変わらずだよ。でも、君の事だけはずっとずっと思い続けていたよ。どんな時もね」

「お父様…」


セシリアはそっと自身の顔を伏せ、その脳裏に在りし日のグローリア様の姿を思い浮かべる。

セシリアたる彼女の心の中にも当然グローリアは生き続けており、その感情の温かさは今なお変わりのないものだった。


「セシリア、聞いてほしい話があるんだ」

「…?」

「ほかでもない、あの時言えずに終わってしまった話が」


クラインはその表情を非常に真剣なものとし、セシリアに対してそう言葉を発した。

彼の言葉が何を意味しているのかは、セシリアも当然理解していた。


「うん、聞かせて。あの時の続きを」


セシリアははっきりとクラインの目を見据え、そう言葉を返した。

それを受け、クラインもまたセシリアの目を見つめながら、こう思いを告げた。


「セシリア、私は君の事をずっとずっと愛しているよ。君がまだグローリア様のもとにいた時も、今こうして再会を果たせた時も、ずっとずっと愛している」


そう言葉を告げるクラインの表情は、どこかすっきりしたような雰囲気であった。

この時間はまさに、長らく言いたくても言えずに終わってしまっていた思い、それをようやくこうして彼女に告げる、クラインが望みに望み続けていた時間なのだから。


セシリアはそんなクラインの言葉を笑顔で受け入れた後、美しい笑みを浮かべながらこう言葉を返した。


「私、セシリア・ヘルツも、あなたの事をこころから愛しています」

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