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第62話

「おいおい、話には聞いていたがほんとにただのガキ二人じゃねえか」

「リーゲルも落ちたもんだねぇ。こんな奴らに追い詰められるなんてなぁ」

「最近いろいろとうっぷんがたまってたんだ。ここでスッキリさせてもらうとするか♪」

ぞろぞろと表れたリーゲルの仲間たちは、かなり余裕の笑みを浮かべながらクラインとラクスの事を取り囲んでいく。

見るからにならず者な彼らの姿を見て、クラインはこう言葉を発した。

「みなさんも、この国の前の王の《《お友達》》だった方々ですか？探す手間が省けてうれしく思います。ぜひとも詳しいお話を聞かせていただきたいのですが？」

「構わないぜ。お前たちをボコボコにした後でな」

「おいリーゲル、こいつらほんとにやっちまってもいいんだろ？手加減はしないぜ？」

「あぁ、もちろんだとも。この場でこいつらを蹴散らして、それと同時に俺たちはグローリアに反逆を起こしてやる。そうすれば俺たちにかけられる罪もすべて…」

「そんなのダメよお父様！！！」

リーゲルの言葉を聞いたマイアが、大きな声でその考えを止めにかかる。

「クライン様に暴力を振るわないで！勝手なことしないで！！」

「お、おい暴れるな…！」

「離して！離してよ！！」

「ちょっと！マイアに乱暴しないで！」

「お前も静かにしてろ！！」

「キャッ！！！」

リーゲルのもとに駆けようとしたマイアの体を、リーゲルの仲間の一人が拘束して動きを封じる。

そして、マイアをかばおうとしたセレスティンの体も同じく封じられ、仲間はリーゲルに対してこう言葉を発した。

「おいリーゲル、こいつらはどうするんだよ？」

「もう必要ないんだろ？なら別にどうなったっていいよな？」

…二人の体を嫌らしく見つめながら、舌なめずりをする仲間たち。

その光景を見たリーゲルは仲間たちに対して、こう言葉を返した。

「あぁ、好きにすればいい。俺に協力してくれたことへのお礼の品だとでも思ってくれ」

「さすがリーゲル！そうこなくっちゃな！」

「ラッキー！こんな上物はなかなか経験できねぇぜ！」

「ちょっと！触んないでよ！！」

「やめて！！やめなさいって！！！」

リーゲルの合図とともに、複数の仲間たちがマイアとセレスティンの体をまさぐり始める。

リーゲルはそんな二人に構わず、そのままクラインたちの方に振り返ると、こう言葉を発した。

「おっと、だからといってお前たちを逃がしたりはしないぞ？こんな状況を見られてしまったんだから、きちんとガキたちを《《教育》》してやらねぇとな」

「おい、相手が子どもだからってあんまり油断するなよ。こいつはれっきとした近衛兵なんだからな」

「分かってるって。まずは俺がその生意気な態度を…」

ドガアァァッ！！！！

「がぐっ！！！！」

複数の男たちがクラインとラクスの事を取り囲み、まずクラインの胸倉につかみかかったその時、すさまじい衝撃が一瞬のうちに男を襲った。

…そのカウンターを目で捕捉できた者はこの場に誰もおらず、男たちは一体何が起こったのか理解できない…。

「お、おいしっかりしろ！！」

「うぅ……い、いってぇ…」

「い、一体なにをしやがった！！」

男たちがそう言葉を叫んだその刹那。

ガギイイィィィッ！！！

「どはぁっ！！！！」

今度はラクスが目にもとまらぬ速さで一人の男の体を蹴り上げ、一瞬のうちにその男をダウンさせる。

その攻撃を隣で見ていたクラインは、思わず関心の声を上げた。

「机の上が主戦場の貴族様と思っていましたが…。鍛えておられるのですか？」

「さぁね」

「隠さずとも。誰かのためですか？」

「う、うるさい！！」

ラクスは何かの感情をごまかすかのように、追撃を行うべく男たちの方に向かって駆け出す。

男たちはいよいよ一切の油断を捨て、攻撃を当てられないよう細心の警戒態勢をとったものの、それでもラクスの攻撃を防ぐことは叶わなかった。

ドンッ！！！！

「ぎゃはっ！！」

ズバアァァッ！！

「あがっ！！」

そしてそんなラクスに続き、クラインもまたその攻撃に参戦し、自分よりも体の大きい男たちを次々になぎ倒していく。

「マイアとセレスティンは後回しだ！全員でかかれ！」

「わ、分かってるよ！！」

二人のもとにたむろしていた数人の男たちも駆り出され、ラクスとクラインの鎮圧に必死にとりかかろうとするものの、焼け石に水といった惨状であった。

そんな中にあって、美しいふるまいを見せながら戦うクラインの姿はまさに優雅に戦う近衛兵の姿そのもので、気づいた時にはこの場で無事な男はリーゲルただ一人の身になっていた。

「お、おのれ……グローリアにクラインに侯爵に……どこまでもどこまでも俺の邪魔をしやがって…！！！」

「あきらめろ。もうお前には仲間も逃げる場所も…」

「まだだ！！！！」

リーゲルは完全に切羽詰まった様子を見せながらも、最後の気力を振り絞ってラクスとクラインめがけてとびかかり、それまで背中に隠し持っていた短刀をさやから引き抜いた。

「生意気なガキども、二人まとめて死ねっ！！！！！」

大きな声と大きな気合を入れ、振りかぶった短刀を全力で振り下ろしにかかったリーゲル。

しかし、いよいよその剣先が二人の体に命中することはなかった。

「さようなら、リーゲルさん」

「続きはグローリアによろしく」

「がっ！？」

二人はその剣先をいとも簡単にかわして見せると、クラインは腹部に、ラクスは後頭部にそれぞれ蹴りを命中させた。

…その攻撃はリーゲルからの攻撃に対するカウンターとして行われたものではあるが、その裏には、リーゲルに対する二人の憎しみや怒りがふんだんに詰め込まれていたことだろう。

二人から双撃《そうげき》を受ける形となったリーゲルは、そのまま自身の体から意識を手放し、糸の切れた人形のようにバタンと体を地に伏せた。

「やれやれ、これがこいつの最後か。ずいぶんとあっけなかったな」

「あぁ」

ともに力を合わせ、諸悪の根を断つことが叶った二人。

この場でその手を重ねて喜びを分かち合いたいところではあるものの、それぞれが心の中に抱く思いはすでにすれ違いを起こしつつあったのだった…。

「(ようやく……これで……セシリアに……)」

「(…そうか、これでもう俺はセシリアとは…)」