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第59話

「さて、それでは話を始めましょうか」

「「っ!!」」


クラインの発した声とともに、あたり一帯はどっと緊張感に包まれる。

その重苦しい雰囲気ゆえか、それとも自分たちのレベッカに対する過去を知られることを恐れてか、リーゲルたちは自分たちの口をつぐんだまま言葉を発することができない。

そんな彼らに対し、まずクラインが先に言葉を投げかけた。


「さて。リーゲル様、まずあなたに確認させていただきたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「…なんだ?」

「あなたは以前、セシリア様を含む自分たち家族は大いに幸せな毎日を送っていた。にもかかわらず、心なき侯爵様が強引にあなたたちの元からセシリア様を奪って行き、その関係は粉々にされたと言っていましたが…。今もその言葉に変わりはありませんか?」

「そ、それは……」


…その時、リーゲルはこれまでの人生で最もと言ってもいいほどに自身の頭をフル回転させ、この状況で何を言えば助かるのかを必死に模索した。


「(こ、これはこのガキのカマかけに違いない…。今ごろ王宮ではノルドが暗躍して、俺たちの思惑を叶えているはずなのだ…。ゆえにこのガキは俺に失言をさせたいだけで、その実俺たちを追い詰める証拠など何も持っていないはずなのだ…!)」

「どうしました?お考えに変化がありましたか?」

「べ、別に…(いやちょっと待て!!マイアとこのガキとの婚約の手筈てはずを整えるとノルドは言っていたのに、それは全く実現していなかったらしいじゃないか!という事は、計画を進める段階でノルドがなにか不手際をしてしまったのか!?だからこのガキがわざわざここまで押しかけてきたのか!?)」

「…リーゲル様?」

「う……」


…考えれば考えるほどにドツボにはまり、いったい何を言うのが正解なのか分からなくなるリーゲル。

その様子はさながら、自分が怒らせた親の出方を伺う子どものような滑稽こっけいさだった。


「では質問を変えましょうか。リーゲル様、あなたを含むご家族とセシリア様が円満なご関係を築かれていたというお話は、《《事実》》ですか?」

「(っ!!!!)」


クラインのその質問に最も心を震えさせた人物、それはリーゲルではなくマイアだった。


「(あぁもうなんでこうなるのよ…!お父様がそんなこと言ってたなんて知らないから、私はお姉さまに一方的にいじめられ続けてたって言っちゃったじゃない…!お姉さまがいなくなったものお姉さまの自業自得だって言っちゃったじゃない…!も、もう取り返しが…!やっぱり全部お父様のせいじゃないのよ…!)」


自分を悲劇のヒロインに映すため、悲観的な雰囲気を醸し出しながらクラインにそう言い放ったマイア。

…しかし彼女がそんなことを言っていたことは知らないリーゲルに、今更彼女と口裏を合わせることなど不可能であった。

クラインの言ったことを事実だと認めようとも、事実でないと言おうとも、すでに彼らに助かる選択肢は残されていないのだから。


「さぁ、お答えください」

「あ、あぁ事実だ!!俺たち家族はみんなセシリアの事を実の家族だと思い、素晴らしい関係を築いていたんだ!そこに嘘などありはしない!」

「そうですか…。おかしいですね、そこにおられるマイア様からは、全く正反対のお話を聞いていたのですが?」

「「(っ!?)」」

「マイア様のお話によれば、セシリア様はマイア様の事を長きに渡っていじめ続けていたのだとか。そしてその果てに、セシリア様は自らの行いに収拾がつかなくなり、自分から家を出ていったのだと。…円満な関係にあった中で、侯爵様に連れ去られたというあなたのお話とは、随分と違うみたいですが?」

「(マ、マイア…!お前余計なことを…!)」


マイアがそのような嘘をついた理由、それは少しでも自分の事を”可哀そう”に見せるための計画だったであろうことを、リーゲルは瞬時に察した。

それゆえにリーゲルはマイアの事をにらみつけたが、マイアはマイアで「それが何なのよ、全部あんたのせいでしょ」とでも言わんばかりの表情を浮かべていた。


「…もはや、あなたの話を信じる方が無理な話ですね。この期に及んでまだ言い訳をされるおつもりですか?」

「い、言い訳なものか!俺の言っていることはすべて事実だ!マイアや侯爵が嘘を言っているだけで、俺はなんの嘘も言っていない!王宮の中の人間にあたってみろ!俺の言っていることが事実だと証言してくれる者がいるはずだ!」

「ノルド、のことですか?」

「っ!?」


…自分とノルドの関係はバレてはいないと自信を持っていたリーゲルにとって、クラインの発したその言葉は盛大にクリティカルヒットした。


「な、なんで…近衛兵のノルドの事を…」

「あぁ、彼はもう近衛兵ではありません。おそらく今頃はろうの中にいて、あなたと手を組んだことを心から後悔していることでしょう」

「っ!?」


リーゲルはここでようやく、自分たちの計画が成功していなかったことを察した。

自分とノルドのつながりを知られてしまっている以上、クラインの発したその言葉は決してハッタリやカマかけではないであろうことは明らかであるためだ。


「(ノルドのやつ、まさか俺の事をばらしたのか…?裏切ったのか…?ちくしょう!マイアといいノルドといい、どいつもこいつも役立たずばかり…!!)」


次第に焦りの色を濃くしていくリーゲルに対し、クラインのほうはむしろこの状況を楽しんでさえいるような雰囲気を発していた。


「さぁ、まだまだ時間はいくらでもあるのです。ゆっくり話を進めましょう、リーゲル様?」

「ひっ……」


…リーゲルたちに対する断罪は、まだまだ始まったばかりである…。

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