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第26話

「(レ、レベッカが皇帝の隠し子だと…?グローリア・ヘルツの一人娘だと…?)」


クラインに言われた信じられない内容の言葉が全く脳裏から離れず、リーゲルは自身の頭を抱えて脳内問答を繰り替えす。

…それもそのはず、もしもその内容が本当の事であったなら、自分たちはもはやどうあがいても一生許されないだけの愚行を何度も何度も行ってきたことになる…。

リーゲル自身はもちろん、一緒になってレベッカを虐げ続けてきたセレスティンやマイアとて、ただでは済まないことになるだろう…。

レベッカに対する過去の行いを思い起こせば思い起こすほど、リーゲルはその体を震え上がらせ、生きた心地がしない思いだった…。

…しかし、考えすぎてもいたずらに自分を苦しめてしまうだけに過ぎない。

リーゲルは一旦それらの事実から目を背け、楽観的に考えてみることにした。


「(お、落ち着け落ち着け…。あのガキの言っていることがすべてただのでっち上げである可能性はある…。普通に考えれば、なんでもないただの捨て子だったレベッカが実は皇帝令嬢であったなど、絶対にありえない話だ。頭の切れるグローリアが父親であるならなおの事…)」


クラインから揺さぶりをかけられたリーゲルは、生き残るためには自分自身にそう言い聞かせるほかなかった。

…しかし、リーゲルとて馬鹿ではない。

自分が直に感じたクラインの言葉、その雰囲気に真実味が強く感じられたことなど、自分が一番よくわかっていた。


「(…あのガキがそんなでっち上げをする理由が見当たらない…。引き連れてきていた近衛兵の連中も本物だった…。現実を見れば、この一件に皇帝が関与していることは疑いようのない事実…。クソッ!!!)」


王宮に仕える近衛兵がこんなところまで来たということは、その背後には必ず皇帝がかかわっているということになる。

皇帝がかかわり、レベッカの事を嗅ぎまわっているということは、あの二人にはやはりなにか特別なつながりがあるということになる。


「(クソッ!クソッ!!)」


リーゲルは先ほどまで以上に頭を抱え、心の中の焦りを隠せない。

そんな彼に、1人の人物が声をかけた。


「お父様、大丈夫?ずっとどこかが痛そうですけれど…」

「あ、あぁ…。大丈夫だ、なんでもない…」


そう声をかけたのは、リーゲルとは血のつながりのない娘であるマイアだった。

リーゲルは何でもないと答えたものの、マイアの隣に座るセレスティンにも続けて声をかけられる。


「ほんと、大丈夫ですか?何日かまえからずっとそんな様子ですけど…。もしかして聞き込みが来た時、何かあったのですか?」

「!?だ、大丈夫だと言っているだろう!!しつこいぞ!!」

「っ!?」


食事を3人で囲む場において、リーゲルは二人に対して大きな声でそう言葉を返した。

そんなリーゲルの雰囲気を前に、二人はやや驚きを隠せない様子…。

…というのも、リーゲルから強い口調で言葉を返されるのは、レベッカに対しては日常的であったものの、二人にとってはこれまでに経験したことのないものだった。

明らかに動揺し、イライラしている様子のリーゲルを前に、二人は互いに視線を合わせて感情の共有を図った。


「(な、なになに!?なんでこんなお父様怒ってるの??)」

「(わ、私にもわからないわ…。けど、この人を怒らせる原因っていったら一つしかないんじゃない?)」

「(…あぁ、またレベッカお姉様…。もしかして生きていたのかしら?だから何か面倒なことになっているのかしら?)」

「(生きてたんなら、これからもいじめて楽しめるかもしれないけれど、面倒なことになるくらいなら死んでてほしかったわねぇ…)」


あの場にいなかった二人は、レベッカの真実を何も知らされていない。

ゆえに、自分たちがどれほど愚かなことを考えているのかなど、気づく由もないのだった…。

そして、二人の言葉に対して強く当たってしまったリーゲルもまた、その内心を大きく動揺させていた。


「(い、言ってしまった…。以前、相手が誰であろうとも、この俺がこの手で倒してやると二人に言ってしまった…。あれほど自信満々に威張っておいて、今更引き返すことなどできるはずがない…)」


自分の事を尊敬しているに違いないと確信しているセレスティンとマイアの前で、情けない姿などリーゲルは絶対に見せたくはなかった。

これまではレベッカを虐げる事で保たれていた彼のプライドだったものの、それを失ってしまったばかりか、そのレベッカによって人生を終了させられそうになっている現実など、リーゲルは二人に打ち明けられるはずもなかった。

…ただ、打ち明けたとことでレベッカに対する3人の罪が消えるはずはないため、どのみち同じではあるのかもしれないが…。


「(こ、こうなったらもう手など選んではいられない…。たとえ相手が皇帝であろうとも、何とかしてその鼻をへし折ってやろうじゃないか…)」


こうして、皇帝を相手にするという絶対に勝てるはずのないリーゲルの戦いが幕を開けたのだった。

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