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第17話

私は案内されるままに、エリカさんの後をついていく。

…彼女は相変わらず私の事があまり気に入らない様子を浮かべているけれど、最初の時と比べるとほんの少しだけ表情が優しくなっているように感じられた。

そして彼女が次に私を案内した場所は、難しそうな本がたくさんある図書室のような場所だった。


「それじゃあ次は、この侯爵家について勉強してもらおうかしら」


エリカさんはそう言うと、机の上にまるで辞書のような分厚さのある一冊の本を取り出した。

…角で叩かれたら相当痛そうなレベルの重さと分厚さ…。

その本の表紙や見た目から推測すると、おそらくそのそこには侯爵家の歴史やしきたり、貴族家としての政治的なルールなどが記載されているのだろう。


「あなたが本気でラクス様にお仕えするという気持ちがあるのなら、これくらいの事は簡単に覚えられるわよね?できないというのならそれはもう、あなたに情けをかけてくださったラクス様に対する裏切りと言ってもいいわ」

「あ、あの……」

「時間は……そうねぇ、1時間もあれば十分かしら?ラクス様に対するあなたの思いが本当だというのなら、十分な時間でしょう?」

「え、えっと……」

「……なに?まさかできないとでもいうつもり?ラクス様のために頑張りたいですっていうあの言葉はうそだったのかしら?」

「そ、その……」

「…そうよねぇ。ラクス様のやさしさに取り入って、彼にすり寄ろうなんて考えているあなたの事だものね。あなたのような女に期待する方が」

「じわ、私、その本に書いてる事もう全部おぼえてます!!」

「……は??」


…エリカさんは私の言葉を聞いて、完全に時が静止してしまっている様子…。


「え、えっと…。ずっとそう言いたかったんですけど、エリカさんがずっとお話を通づけられていたので、なかなか言い出せなくて…。ご、ごめんなさい…」

「そ、そんな嘘にだまされるとでも思っているのかしら??この場であなたに問題を出せばすぐにわかることなのよ?」

「はい!大丈夫です!」

「……」


私の言葉を一切信じられない様子のエリカさんは、分厚い本を手に取り、適当なページを開いて私に問題を提示した。


「…この侯爵家は、3つの大きな川に囲まれた領地を有しているわ。その川の名前をそれぞれすべて答えなさい」

「東側がローブル川、南西側が第二エルベ川、北側がトリトン川です」

「…正解」


私の答えを確認した後、エリカさんはそのまま違うページを開き、問題を続ける。


「ラクス様のおじい様の名前を答えなさい」

「ルフレッド・ランハルト様です」

「…侯爵の位を継がれた時の年齢は?」

「29歳の時です」

「…正解」


…まだどこか納得できていない様子のエリカさんは、さらに違うページを開くと、最後の問題を私に提示した。


「…それじゃあ最後。そのルフレッド様は、公爵様と伯爵様の仲が悪化してしまった時、どうやってその仲を取り持ったか答えなさい」

「えっと…。そもそも関係悪化の原因は、伯爵様が公爵家への攻撃を企てているのではないかという誤解が広まったためでした。そこでルフレッド様は、あえて護衛もつけずに伯爵様や貴族のお仲間たちと連日朝までパーティーを開かれ、飲み明かされました。伯爵家と公爵家が緊張関係にある中で、それを感じされない自由気ままな伯爵様の行動は、両家の緊張をほどくに至ったのです」

「……正解」


エリカさんはぼそっと一言そう漏らすと、広げていた分厚い本を閉じて机の上に戻した。

そして私の目を見ながら、こう言葉を発した。


「…どういうこと?あなたつい先日までベッドの上で寝てたじゃない。私、あなたに毎日食事を運んでいたけれど、勉強してる素振りなんて全くなかったじゃない。それなのになんで…??」


エリカさんからかけられたその質問に、私は思いのままに、正直に答える。


「こ、これからエリカさんにお仕事を教わるというのに、何も知らないままだったら失礼と思って…。それで昨日の夜、こっそりラクス様にお願いして、勉強するための本を貸してもらって、端から端まで全部覚えようと思って…」

「た、たった一晩でこの内容全部を!?ふ、普通なら1か月か2ヶ月くらいはかかるんですけど……」

「いえいえ、一晩あったら十分です!!前いたところなんて、一晩で10人分くらいの仕事をしないといけないのが普通だったというか、できなかったらさらに苦しい思いをさせられてたというか……」

「…あ、あなた今までどれほどすさまじい経験を……」


掃除のときに続き、やっぱり私の言葉を信じられないといった表情を浮かべるエリカさん。

…けれど今回彼女が見せてくれた表情は、さっきまでのそれとは異なっていた…。


「…ふふふ、ごめんなさい。私あなたのこと、ちょっと誤解してたかも…」


エリカさんはやや笑みを浮かべながら、私にそう言ってくれた。

さきほどまでの緊張感に包まれた様子とは全く違うエリカさんのその雰囲気に、私は少し驚きを感じずにはいられない。

でも、私はなんだかそれが無性にうれしかった。

私の思いが決してうそ偽りなんかじゃないと、エリカさんは分かってくれたと確信したからだ。


「わ、私、まだまだ役に立てることは少ないと思いますけど、一日も早くみなさかんからいただいた恩を返せるよう、もっともっと頑張らせていただきます!こ、これからもよろしくお願いします!」

「ええ、よろしくね」


私の言葉を聞いたエリカさんは、今まで私が知る中で最も穏やかで、可愛らしい表情を見せてくれたのだった。

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