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第15話

私がこの侯爵家に来てから、早1か月の時が経過した。

痛みきっていた体はかなり回復して、あの家にいた事を思わせる傷跡はかなり癒えていた。

自分の手や足を見ることさえ憂鬱だったあの時とは違い、今は何の苦痛を感じることもなく鏡に映る自分の姿を見ることができる。

それもこれも、すべてラクス侯爵様とレベルク様のおかげだ。


「は、はやくここで仕事を始めて、少しでも恩を返さなきゃ…!」


二人に良くしてもらっているという思いがあるからこそ、私の中ではその気持ちがより一層強く芽生えていた。

ラクス様は『気にする必要はない』と言ってくださるけれど、それでも私は少しでもはやく二人のために働き始めたかった。

…私なんかにできることなんて全然大したことはないかもしれないけれど、それでもそう思わずにはいられなかった。


「(…スープが温かくておいしい…。パンも全然痛んでなくて、隣に添えられてるフルーツも新鮮できれい…。本当に、今でも夢みたい…)」


そして私の目の前には、あの家にいた時から考えたら信じられないような光景が広がっていた。

スープは冷たく冷え切ったものが当たり前で、与えられるパンは傷んだものだけ。フルーツなんてあの家で食べたことがあっただろうかというレベル。

それが今や、こんなにも素敵な食事をいただくことができるようになったなんて、過去の私に言ったところで絶対に信じられないような内容だ。

そして味も絶品で、気づいた時にはすでにお皿の上は空っぽになっている。

…おなか一杯に食事をとれることがこんなにも幸せなことなんて、もしもあの時ラクス様に見つけてもらえなかったら、私は死ぬまで知らずにいたかもしれない…。


「失礼します、レベッカ様」


その時、使用人のエリカさんが私の元を訪れてきた。

彼女は私の身の回りの世話を担当してくれていて、今も私が食べ終えた食器を下げに訪れてくれた様子。

年齢は侯爵様と同い年の幼馴染らしく、容姿は綺麗で端正な顔立ちをされている。

私とも年齢が近いから話がしやすいかと、最初のころは思っていた。

…でも私は、このエリカさんに快く思われてはいなかった…。


「エリカさん、おいしい食事をありがとうございました。お世話になってばかりで、なんとお礼を言ったらいいか…」

「ほんとね。侯爵様の気持ちに取り入って、そのやさしさに甘えて、そのくせなにもせずここで寝てるだけ。うらやましいわ」

「ご、ごめんなさい…」


…彼女にそう思われるのも無理はない。

だって彼女が言っていることは本当なのだから…。


「で、でも私、すぐにエリカさんのお役に立てるように、頑張りますので…!!」


それは私の本心だった。

エリカさんは私に鋭い言葉を連発してくるけれど、私のお世話をきちんとしてくれていることに違いはない。

私は彼女にだって、絶対に感謝をしなければならないし、絶対に恩を返さなきゃいけないのだから。


「…私はそれが嫌なのよ。あなたの世話をするだけならまだしも、侯爵様に色目を使うような女と一緒に働くなんて、今から吐き気がするわ…」

「ご、ごめんなさい…」

「はぁ…。謝ればいいだけなら楽よね、あなたは。そうやって弱気を演じて、彼に近づいて、いったい何を企んでいるのかしらねぇ………あぁ恐ろしい」

「わ、私はそんなつもりは…!」

「いいわいいわ。言い訳なんて聞きたくもないから」


彼女はそう言いながら、慣れた手つきですべての食器を片付ける。

ベッドに添えつけられていた机の上はあっという間にきれいになり、エリカさんがタオルでふき上げたその机はまるで新品のような輝きを放つ。


「…それではなにかあれば、遠慮なく私をお呼び出し下さい。失礼します」

「あ、ありがとうございます…」


私の言葉を聞き届けたのかそうでないのか、エリカさんは私と目を合わせることなく静かに部屋から去っていった…。


「(こ、怖い…。けど、私が悪いんだから…。私がしっかりしないといけないよね…)」


彼女の言った通り、私はラクス様のやさしさに甘えているだけにすぎない…。

このまま何の役にも立たない生活を送っていたら、それこそどこかでラクス様の足を引っ張ってしまうかもしれない…。

それだけは絶対に嫌だった。


「(…よし、もう体は大丈夫だから働かせてくださいって、ラクス様にお願いしよう…!)」


私の本当の気持ちを知ってもらえたなら、きっとエリカ様だって私の事を認めてくれる!

私は自分の心にそう言い聞かせ、考えを行動に移すのだった。

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