第3話 コミュ障
頭と腰が痛い…土の上や洞窟のそのまま寝そべるよりは安全な環境で眠れたとはいえ、やはり布団も無しに寝るのは元日本人の俺には辛いものがある…
しかしこれからどうするか?この小屋も荒れ果てていない以上、定期的な手入れが入っているように思える…つまりはそれなりに人が来ていると考えられる。現に女性が一人、椅子に腰かけているし…。ここで待てば誰かに助けてもらえるだろうか?しかし今まで考えるほどの余裕はなかったが、この世界では身を寄せる相手もいない…身分を証明する手段もないのだ。
元の世界から来た証明はこのシャツとジーンズ、充電切れのスマホ…その他は何もない。与えられたスキルでどうこうできるとは思えない…そもそも、異世界の言葉など分かるのか?人に会えたとて、話が通じなければどうしようもn
「あっ…あのっ大丈夫ですか?」
「っ!」
「ひゃあっ!?」
????????誰だ?俺以外に人がいた?いや、最初からいた!起きた時には既に椅子に座っていたのだ!どうして俺は気にしなかったんだ?疲れていたからか?いや、そんなことが…?
「こんなところに一人で寝てるなんて不用心ですよ…それに、妙な格好ですね?同業者…って感じでもなさそう…かといってただの村人って感じでも…」
そう言葉を続けるのは、黒を基調としたローブに身を包んだ、眼鏡をかけた黒髪の女性。シックなコーデに身を包んでいるが、やや童顔であり、俯いて独り言を言う姿はどこか幼さを感じさせた…
いやそんな分析をしている場合じゃない。この世界に来て初めての遭遇者だ。多少怪しまれてはいるが、寝ている間に縛られているなんてこともない。見たところ、冒険者、あるいは魔法使いといった風貌だ。コミュニケーションを取り、人里に行く算段を付けなければ…
「こんにt「あなたh」
「「あっそちらからどうぞ」」
「じゃあわt「わたs
「「ごめんなさい!」」
なんてことだ・・・互いにコミュ障だ!非日常的な出来事で少し麻痺していたが、俺は初対面の人が苦手だった…会話のテンポがかみ合わない!
相手も動揺しているのが丸わかりだ…「あっ」「えっ」みたいな音を出しながら、こちらの様子をうかがっている…なんかメモ帳みたいなの見てるし、深呼吸もしてる!俺より重症だな⁉
コミュ障同士…小屋で二人…会話が進むはずもなく…暫し俺たちはコミュニケーションの難しさを再度認識したのであった。
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「どうも、鈴木 総司です」
「d、どうも、セラと言います。銀級冒険者をやってます……先ほどは失礼しました。少し会話が苦手で…」
分かる。めっちゃ分かる…しかし銀級冒険者とは、どのくらい凄いのかは分からないが…言動によらず強いのだろうか?それに先程まで気配に気づかなかった、いや気づいていても意識が向かなかったというべきか?スキルとやらをセラも持っているのだろう…
「ところでソウジさんはどうしてこんなところに…?ここは丸腰の人がいるような場所ではないですよ?奴隷商人から逃げた…というのも首輪がないから違いますね。何があったんですか?」
滅茶苦茶怪しまれている…正直に話すべきか?信じてもらえるかはこちら世界の価値観次第となるが…
いや、ここは話してみよう。どのみち一人では人里に行けるかも分からないのだ、賭けてみるしかない。
こうして俺は、ここに来るまでの経緯、スキルについて出来る限り説明した。ただ、邪神を倒す云々のところはぼかして説明した。そもそも大まかな説明だけしかされておらず、邪神がどのような相手なのかすら分からない、セラがその邪神の信徒である可能性すらあるのだ。もう少し情報を仕入れてから判断しても遅くはないだろう…
「女神ホワイト様…?申し訳ないのですが、そんな神様、聞いたことないですね…」
「えぇ…(困惑)」
なんて事だ…早速躓いてしまった。あの女神知名度低すぎる…真の邪神はあっちなんじゃないか?そう思うくらい碌な目に合ってないぞ俺。
「でも身に着けている服の差材は見たことないものですし、『掃除』といったスキルも聞いたことが無いですね?どんなことが出来るのですか?」
「ああ…例えばそこの床に埃が積もっているだろう?」
「ええ」
「これを…こう!」
俺がスキルを発動すると、かざした手から1m以内の床に積もっていた埃が取り払われ、一ヶ所にまとめられた。
「あっ便利…!」
「その他にも…オラァッ!」
壁のシミがきれいになった。
「おおー…これは便利…!便利…ですが…?」
「それ以上は言わないでくれ…。」
「ご、ごめんなさい。で、でも本当に便利ですよ!戦闘向けじゃないですけど…」
下手な慰めが逆に辛い。
「でもスキルは持っているだけ恵まれているんですよ!100人に1人持っているかいないかくらいと本に書かれていました!!
「そうなのか…セラさんは…」
「セラでいいですよ!」
「あっはい、セラs、セラ…の存在に全く気付けなかったのもスキルってやつなのか?」
「!!ええ!ええ!そうですよ!私のスキルは『薄影』と言って、視界に入っても意識を向けられない、その名の通り影を薄くする能力なんです!……たまに勝手に発動しちゃうので、行列に割込みされたり、人とはぐれやすいのが難点ですが…でもでもでも!」
「ちょ、近い近い…」
「あっごめんなさい…」
なるほど、メリットだけじゃないんだな。それにしても急にテンション上がったな…そして急に距離感の詰め方が凄くなったなこの子。コミュ障ってそういうところあるよな。ブーメランにも程がある思考だが…
「まあここで話し続けるのもなんですし、この辺に村があるんですよ。そちらに行きませんか?お腹も空いてきましたし…より詳しい話はそこでしましょう。もしかしたらホワイト様?って女神のことも知ってる人もいるかもわかりませんし…ね?」
「本当ですか?ありがとうございますセラさん!」
「………」
「あっ…行こう!セラ!」
「はい!」
さっきまでの警戒心はどこへ行ったんだ?と思うくらい押しが強い!童貞にはきついて…
こうして俺は、元の世界の事と、こちらの世界の差異を話しながら、セラの先導に従い村へ向かうのであった…