第1話『もう戻らない』
「それで、具体的にはどうするのかしら?」
「帰すの。傍に居て帰すの」
「……」
「ゆあなら大丈夫と思うかしら」
「問題とか?」
「まあ、そんな所かしら」
「そもそも詳しいこと知らないのよね」
「んー、まあ……いつか話すわ」
知らなくていいことなのかな?
それか、他に理由があるとか。
まあ、いっか。
「ちなみに、今出来るかな?」
「やってみるといいわ」
…………。
「何も起きない……」
「当たり前かしら」
分かってるなら先に言って欲しかった。
意地悪だなあ。
「拗ねないで欲しいわ。愛しいゆあ」
「……」
「まあ、なるようになる、かしら」
「なるようになる、かあ」
…………。
「じゃあ、始めるかなあ」
「ねえ、これでよかったの?」
「いいの。十分幸せ」
確かに外に出たってどこにも行けないけれど……。
家でよかったのかなあ。
「他の皆は?」
「お出掛けしてるよ」
「どこに?」
「遊園地」
「冬だけど……」
「オールシーズン楽しめる、と思う、よ? ……わたしは」
「そう、なんだ」
1度も行ったことないから分からないや。
……家の外なんて、あの日以来出てないなあ。
まあ、出られないから仕方ないけどね。
「で、何をするの?」
「愛してる」
「……バレてたかあ」
「分かるよ。当たり前」
「あと――」
「皆も分かってるからね」
「……」
何で皆は分かるのかなあ。
どう見たって、聞いたって、考えたって分からない時でも、皆は分かっていたなあ。
「愛してるから、だよ」
「そうだね」
「だけど、それだけじゃないよ」
「いつの間にかそんなに話さなくなった」
「うん。あの時間を除いて、だね」
「それは仕方ないじゃん」
「というかそれは皆もじゃん」
「ゆあちゃんには負けるかなあ」
「むう……」
そんなにかなあ。
「何も知らない人が見たら不思議な光景だよね」
「あたしが話さないのに、会話が成り立っているからね」
「いいの。わたし達だけが分かっていればいいの」
「うん」
…………。
あ、そうだ。
「少し……少し歩かない?」
「じゃあ、これ着てね」
「これは……?」
「お出かけ用の洋服。作っていたの」
「ありがとう」
「おいで」
あの日から作ってくれているけど、本当に良く出来ている。
だけどこれはどうしたって隠せないね。
「変、じゃない?」
「とても似合っているよ」
良かった……。
「後は……こうして…………出来た」
「ありがとう。でも、ご――」
「めっ。約束でしょ?」
「うん……」
まあ、何度言われても、あの日から毎日ずっと、ありがとうとごめんを繰り返してるんだよね……。
「よし、行こう」
「お願い」
「任せてね」
久しぶりだなあ……出かけるの。
さて、どうしよう。
「凪の好きにしていいからね」
「先に言われちゃった」
「えへへ。あたしはこうして居られるだけで……」
「じゃあ泉に行こう」
にしても、意外と綺麗だなあ。
誰がしてるのかな?
「時々お願いしているよ」
「じゃないと駄目になっちゃうからね」
「ありがとう」
「このままだと余る位わたし達は持ってるからね」
「恵まれているよね、あたし達」
「さあ、着いたよ」
変わらないなあ。
ここで……。
………………。
「愛してる」
「愛してる。いつまでも、どこに居てもずっと」
「もう……もう、戻らないから」
「これが最期」
「うん。知ってる、分かってる」
淡く鈍く光る――それを、離した。
そして、帰した。
「ねえ」
「うん」
「貸して」
「おいで、凪」
「あ……」
「どうしたのー?」
「帰って来たのだろう?」
「ええ」
「じゃあ次は明だねー」
「ああ」
「よし、どんどん行こー」
「少し休まないかしら――って言ったって無駄ね」
「もう過ぎたね」
「どうしようか?」
「任せてね」
「うん」
ゆっくり、ゆっくりとお家へ帰る。
「どうぞ」
「早いね――ってこれ……」
「懐かしいでしょ? でも、流石にあの時と同じには出来なかったけどね」
そりゃあ、あの時は初めてで、今はもう何度もしているのだから。
そうじゃなくても、同じは難しいよ。
「どう?」
「美味しい」
あの時よりも、だけど。
「知ってたよ」
「そう?」
「当たり前」
「あの時と違って他にもあるからね」
うん、知ってる。
作り過ぎじゃないかな?
「そう?」
「いつもより多いかも?」
「で、この後はどうするの?」
「ゆあちゃんの――って言っても仕方ないもんね」
「お互いに言い合っちゃうからね」
思い付きや気の向くままとかだったのに、衝突はなかったなあ。
戻る事がないのは良かったかも。
「おいで」
「流石にほんの少し、ほんの少しだけ疲れたねー」
「相変わらず元気ね、まどか」
「負けないよー」
「まあ、クロは底が無いからな」
「言われてみればそうね。毎日実感してるかしら」
「帰るー?」
「んー、そうだな……帰るか」
「皆が居ないと、寂しいね」
「言われてみれば一緒だったものね」
「特に、円叶が居ないと、ね」
無限と言っても過言じゃない位だからなあ。
「今、帰ってるみたいよ」
「2人きりも良いけど、やっぱり皆と一緒がいいね」
「そうね。だけどしなきゃね」
「何をしようかなあ」
「いつもと変わらないんじゃない?」
「だよね」
どうしようかなあ。
「また、いいかな?」
「うん、行こう。おいで」
着せ替え人形も悪くないかも。
「あれ?」
「実はまだあるの。後何着かあるから、もし出る時は任せてね」
何着作ったのかな?
全部着られるかなあ……。
「よく似合ってるよ」
「ありがとう」
「そこまで行かない?」
「おいで」
もう少しで夕方かな?
流石に寒いなあ。
「あちら側に行ってみたい」
「勿論」
「こうして過ごすの何年振りかな」
「10年以上、ゆあちゃんだけ出られなかったね」
「あたしが選んだ事だから」
「それに皆が居るから」
「愛してるからね」
「まあ、それだけじゃないけどね」
「そうだね」
変わらない。
本当に変わらない。
だけど――
「あちら側は流石に違うね」
「そうね」
「寒いね」
「こうしてたら暖かいでしょ?」
うん、とても。
そうだ――
「ここまで来たら逢えるかな?」
「もう着くと思うから、逢えると思うよ」
びっくりするかな?




