テレビ番組
『さて、本日のゲストはこの方です』
モニターに映し出される宇宙空間。
その画が歪み、マーブルになっていく空間の中を歩くコート姿の男。
突然の画ブレ大と共に爆発が起こる。
〈な、なんだよ! どうしたんだよ!?〉
男の周囲の風景が次々と移り変わって定まらない。
セピア色の荒野、不思議な石の塔、触角の生えた人々が暮らす蟻塚のような町……。
〈どうやら次元装置が破壊されたようです〉
〈だめじゃんそれ!〉
秋葉系メイド服をクラシカルに寄せたデザインのメイド姿の女がする事務的な報告に、男はオーバーに頭を抱える。
襲い掛かるエイリアン風の怪物。ダイナミックなアクションで怪物たちを倒していくメイド。頭を抱えて脅えている男。
〈もうやだあ~! 帰ってもいいかな!?〉
バーーーン!!
《劇場版 次元探偵メビウス~いつもより多くねじれています!~》
『秋に公開の映画《次元探偵メビウス~いつもより多くねじれています!~》 ヒロイン役の馬上さくらさんです』
『《次元探偵メビウス》でクロエを演じています。馬上さくらです』
『ドラマ本編もですが、今の特報すごいアクションでしたね!』
『はい。クロエは実は戦闘メイド、という設定なので、アクションシーンがちょいちょいありますね』
『実は(笑)? いや、ヒーローのメビウス君より断然アクション多いですよね!?』
『そうですね。メビウス様は元々ビビりキャラって設定があって』
『実は?』
『はい実は(笑)。 で、普段はビビりでもいざという時はバシッと決めるヒーローっていう。それは本編でもそのままなんですけど、1話2話の時点でメビウス様役の伊織君のビビりっぷりがものすごい人気を博しまして』
『メビウス君のあわあわ、可愛いですよね! OA中は毎週楽しみにしていました!』
MCの局アナの女性が前のめりで訴える。
『ペット枠やな』
『いえ、ふつうは大の男の人があわあわしていたらイラっとするだろうとの想定で、でも事件を解決して「やるじゃんこいつ」ってなるはずだったらしいんですけど……』
『それが人気出ちゃったと』
『はい。伊織君の絶妙なあわあわがお姉さま達のツボに入ったみたいで』
『いやだって、あんなクール系のイケメンがあわあわしてたら女子はみんなキューンってなりますよ!』
『でも、Gが出た時に男の人が自分よりきゃあきゃあ騒いでいたらイラっとしません?』
『あ! なりますなります! それでいろいろ除外されます自分の中で。その人が』
『怖っ! 女子怖っ!』
『そういうとこですよ』
『……じゃあ、あざと女子の様にあわあわしていてもイラっとしないのはメビウス君の絶妙な演技があってこそって訳ですね』
『イケメンは得やな~』
お笑いタレントの男の的外れなコメントをスルーしてさくらが話を繋げる。
『そうですね。で、あわあわと狼狽えるメビウス様で想定外に人気が出たので、ギャップを出すためにメビウス様は極力戦闘させないという方針になって、一緒に戦うはずだったメイドが最終回まで独りで戦うという……』
『最終回どころかさっきの特報でも独りで戦ってましたよね!?』
『メビウス君あわあわして隠れてましたね!』
『あ、いえ。劇場版では独りではないんです。ここだけの話ですが』
『え、テレビですよ。言っちゃっていいんですか!?』
『ここだけの話にしてください(笑)』
『なるほど。馬上さん演じるクロエの戦闘シーンが見どころのひとつにもなっている《次元探偵メビウス》ですが、馬上さんは元々アクション俳優だったんですよね?』
『元々っていうか、はい。アクション俳優として活動しています。メインで本業で副業なしです』
『あ、そうですね。失礼しました』
『あれ? たしか踊ってみたとかコスプレとか……』
『それは趣味で』
『あっ、じゃあこのあとの配信ではその辺りもたっぷり聞かせていただいて……。この番組では、各業界にまつわる怪談を取り上げています。今回は馬上さんが体験した、《業界で本当にあるある、怖い話》』
再現VTRが流れ始める。