60話 五章エピローグ
読んで頂きありがとうございます。
今回の徴兵詐欺の件で、色々と疑問に思っていた事を柳川から聞き出した。
なぜ柳川が、本物そっくりの令状や、第1期選抜兵について、詳しい情報を知ってたのか不思議に思ってたんだけど……なんてこたぁねぇ。あのカス、地球防衛省のサーバーをハッキングしてやがってた。
元々は、個人情報を盗む為にハッキングしたらしいんだけど、その時に国家機密となっている選抜情報を知り、今回の悪事を思いついたそうだ。
ある程度リアリティあるのが、この詐欺のよく出来た所だな。不安を煽り、思考停止させて、金を騙し取るとかよく考え込まれている。
身近に徴兵された人がいたら、信じてしまうのは無理無いんじゃないのかな。それくらい良く出来ている。
もっと違うことに知恵を使えや……クソ野郎共め……。
ってか、地球防衛省も地球防衛省だろ。簡単にハッキングされてんじゃないよ。セキュリティ、ガバガバ太郎やんけ。
もし国連復興軍が今回の事でなにか言ってきたら、全部、地球防衛省の所為にするからな。
そうすりゃ腹切らなくて済むわ。そうしよ。
──────────
解放された、俺とナタリーとシェリーは、グッタリとした声で呟いた。
「めっちゃ時間かかったな……」
「やっと帰れるぅ……」
「半日潰れてしまいましたわ……」
警察署から外へ出ると、周囲はもう薄暗くなり始めていた。昼前にココへ来たから、かれこれ七時間近く経過したことになる。
小便漏らした犯罪者集団を、高校生が引き連れていったのは不味かったんだろうな。刑事さんに、やたら長い時間、事情を説明するハメになった。
めっちゃ答え辛かった。
「だから通報するだけにしとこうって言ったじゃ〜ん。アタシ達が連れてったら、絶対ややこしい事になるってぇ〜」
「実は…………俺も途中から、ちょっと失敗したなって思ってた♡」
「思ってた♡ じゃねぇですわよ。気付くのおっせぇですわよ」
シェリーが特徴的な三白眼を細めながら、ポカポカと肩パンをかましてくる。
仰る通りっす。気付くの遅かったっす。
「でもまぁ……正直に言いますと、タカシ君がブチ切れてくれて助かりましたわ。あのままいったら、ワタクシちょっとヤバかったですから」
「ヤバかった……? どゆこと?」
「そりゃぁねぇ……」
ナタリーとシェリーが、顔を見合わせて苦笑した。
「タカスィが先にブチ切れてなかったら、たぶんアタシがプッツンしてたと思うよぉ〜。今頃アイツ、グッチャングッチャンのハンバーグになってただろうなぁ〜」
「あれだけ、文香さんをおちょくった発言をしてくれたのです。タカシ君がブチ切れなかったら、ワタクシ、徹底的に柳川の脳を弄んでいましたわよ」
「怖ぇこと言うなや……」
柳川、九死に一生を得てんじゃん。
コイツらがこんな顔してるのに、生きてるとか奇跡だぞ。マジで。
戦地にいた頃のような、危ない目つきに変わっていくナタリーとシェリー。
不穏な空気を払拭するように、俺は明るく二人に声をかけた。
「あのさ! これからパーっと遊びに行かない!? せっかくの土曜日だし、こんな感じで終わらせたら勿体ないって!」
凭れ込むように、二人の肩を抱き寄せる。
ナタリーとシェリーから、サイコパス臭が消えていった。
「パーっとってぇ、何処に行くのぉ〜?」
「カラオケ行かね!? ストレス発散にもなるし!」
「おぉ! カラオケぇ! イイねぇ! アタシ行ってみたかったんだよぉ〜! おっちょこちょいのタカスィにしては、中々いいチョイスすんじゃ〜ん!」
「だろぉ? もっと褒めろ」
んふふぅ〜、褒めるぅ〜と言って、頬ずりしながら俺の頭を撫で回すナタリー。
カラオケ作戦、大成功だな。ナタリーめっちゃ喜んでる。
そんな中、シェリーがキョトンとした顔で首を傾げた。
「カラオケってなんですの?」
「カラオケっていうのは、防音設備の整った個室で、大音量で歌をうたう娯楽施設の事だよ。高校生に大人気のスポットだ!」
「お、お歌………………?」
歌と聞いて、アワアワと動揺していくシェリー。
白い顔が赤く染まっていく。
「ん? どうした?」
「お歌をうたうって……ひ、人前でですか?」
「そうだよ。まぁ人前って言っても、大した人数じゃないけど」
「は、恥ずかしいですわ! ワタクシ、人前でお歌をうたうなんて、恥ずかしくて出来ませんわぁぁぁ!」
キャッと顔を両手で隠して、しゃがみ込むシェリー。
なんか言い出したぞ……このバカ……。
「歌うのが恥ずかしいって……お前、そんなタイプじゃねぇだろ……なにぶりっ子してんだよ……」
「そ、そんなタイプじゃねぇって……どういう目でワタクシを見ておりますの!? ワタクシにだって、恥ずかしい事の一つや二つくらいありますわよ!」
「よく言うわ」
休戦中、みんなの前でよく一発芸やってたじゃねぇか。ロシアンルーレットをやりますわぁ〜、弾しか出て来ねぇですわぁ〜、とか言って。
アレ見せといて、今さら恥ずかしいはねぇだろ。どういう価値観してんだよ。
「よく言うわってなんですの!? ワタクシ、こう見えて結構恥ずかしがり屋さんですのよ!? 人前でお歌とか、裸になるより恥ずかしいですわ!」
「ナタリー、時間も時間だから来るか分かんないけど、文香も誘っていい? ここ数日、ひどい目に合ってたから楽しませてやりたいんだよね」
「おっ? いいじゃ〜ん。それなら文香ちゃんのお母さんも誘おうぜぇ〜」
「ち、ちょっと待って下さいまし! ワタクシはまだ、カラオケを了承したワケじゃ────」
「それならいっそ、凛子と巴ちゃんも誘おっか。錬児は……看病してるって言ってたから無理か」
「ふっへっへ〜。いいじゃんいいじゃん。大人数でのカラオケ、楽しみだねぇ〜!」
「ち、ちょっ!? 二人ともスルーしないで下さいまし!! こ、こっちを見ろぉぉぉですわ!!」
騒ぐシェリーを無視して、スマホを取り出す俺とナタリー。
早速みんなに、誘いのメッセージを送信した。
その後、なんやかんや全員誘いに応じてくれて、俺たちは存分にカラオケを楽しんだ。
春椿親子も、ここ数日の出来事が嘘だったかのように、楽しそうな笑顔を浮かべていた。
悲しそうな表情だった二人は、もう何処にもいない。
引きずってないようで安心した。これならもう大丈夫だと思う。
盛り上がる親子の姿を見て、心底ホッとした。
ちなみに、カラオケを嫌がっていたシェリーは、最終的に一番ノリノリで楽しんでた。
オリヴィアの新曲『I LOVE タカシ。マジで子作り5秒前』を、ナタリーと一緒に振り付きで熱唱するくらい楽しんでた。
なにが恥ずかしがり屋さんだ。いい加減なことばっか言いやがって。
ってか、その曲歌うんじゃねぇよ。ゾワゾワして恥ずかしいだろうが。
そんな悪態を飲み込みつつ、やたらクオリティの高いダンスを踊る、ナタリーとシェリーを眺めた。
嬉しそうに遊ぶ彼女達を、微笑ましく眺め続けた。
着々と、外堀が埋められている事も知らずに。
五章完結となります。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。また、沢山のブックマーク、評価、感想、レビュー、大変ありがとうございます。
続きを投稿するのにあたり、設定の練り直しなどで一年以上、間が空きましたが、たくさんのご反応を頂けた事に大変嬉しく思っております。忘れ去られてなくて良かったです。ほんと良かった。
今後も章ごとにまとまったら投稿するスタイルを取っていきますので、気長にお待ち頂けると幸いです。
次章は、クラスメイトのお話でも出来ればなぁ……って思ってます。
あ、再開時にちょろっと言いましたが、書籍化が決定致しました!
現在、加筆を行っていますので、なろう版にはないタカシ君が見れるかと思います。軍でのタカシ君の様子とか、その辺の話とか。
ちなみに日程等については、まだなにも決まっておりませんので、分かり次第、活動報告や本編でご報告するように致します。宜しくお願い致します。
最後に、ここまで読んで下さってありがとうございました。書籍化も、ここまで執筆出来たのも、皆様のおかげでございます。
少しでもいい作品になるよう、今後も頑張って執筆していきますので、またお会いした際には宜しくお願い致します!








