45話 四章エピローグ 第一部最終話
「ほら、さっさと事情を説明しろよ。聞いてやっからさ」
「…………こんなの横暴だよ横暴。僕達が勝てるワケないじゃないか」
「力尽くを最初にチラつかせたのはお前らだろ? 勝負に負けたんだから、諦めて説明しろって」
「僕はこんなの納得出来ない。断固拒否するよ! ぷんぷん!」
「ナタリ〜。ちょっとポートマンを押さえつけてくれない? 男らしくねぇから、去勢するわ」
「は、話す! 話すから! だから怖い事を言うのは止めてくれ!」
戦闘が終わった俺たちは、カーソン姉妹と、ある程度再生したポートマンを地面に正座させていた。
ちなみに、特殊機械兵の飛龍は再生出来ないので、その辺に転がしてある。しゃーないね。
「で? 誰に脅されてるんだ? 言ってみろよ。俺が代わりに、ぶっ飛ばしてやるから」
俺の言葉に、ポカンとするポートマン。
何その顔……俺が変な事を言ったみたいじゃないか。
「あー……あのな、別に誰かに脅されてるワケやないんやで。基本的に俺達は、自分の意思でココに来たんやから」
「え? だって飛龍言ってたじゃん。大切なモノを守る為なら何でもやるって。人質でも取られてるんじゃないの?」
「いや……まぁ……そうなんやけど……」
たははー、と苦笑いをしながら、飛龍が申し訳無さそうな声で呟いた。
「実はな、俺らが命懸けで守ろうとしたんは、タカシの日常なんや」
「ん? 日常? どゆこと?」
「タカシ、戦争中よく言うとったやん。『この戦争が終わったら、普通の生活を送りたい』って」
「うん」
「今、軍の内部がどうなっとるか、知っとる?」
「え?」
急に話題を変えられ、戸惑う。
軍の内部? どゆこと?
「軍でなんかあったの?」
「ありまくりっすよ……軍に残った兵士達が今、何をしてるか分かるっすか?」
下唇を突き出しながら、リオが、フゥ~と溜息を吐く。
「分かるワケないじゃん。何してんだよ?」
「荷造りっすよ! みんな日本へ来るために、荷造りしてんすよ!」
「……………………え?」
荷造り?
え?
なんでみんな日本へ来ようとしてんの? え? なんで?
固まる俺に、ポートマンが話を続ける。
「タカシ君は知らないと思うけど、君が日本へ帰還した後、軍でちょっとした暴動が起こったんだよ。タカシは何処に行った! タカシを出せ! って……」
「あぁ〜……ありましたわね」
そ、そういえばシェリーが、家に来た時そんなこと言ってたっけ……覚えてる……。
「その暴動を収める為に、軍はタカシ君が戻ってくるって嘘を吐いたんだ。タカシ君と仲の良かったシェリーも、一緒に暮らす為の家を買っていたから、みんなそれで一旦は納得したんだよね」
そ、それも知ってる……シェリーが言ってた……。
「でもさ、いつまで経ってもタカシ君は帰って来ないし、シェリーもいつの間にか日本へ向かったから、みんな不信感を覚え始めたんだ……もしかしたらタカシ君は、帰って来ないんじゃないか? って」
乾いた笑みを浮かべながら、ポートマンは小さく呟いた。
「そのタイミングで、シェリーの買った家をガーネット総監が買い取ったから……みんな察するだろ。タカシ君は戻ってこないって」
「ち、ちょっと待ってよ! じゃあアレか? ナタリーとシェリーを軍へ送り返すっていうのは、俺がいつか、軍に戻るってカモフラージュをする為なのか?」
俺の言葉に、ポートマンと、カーソン姉妹と、飛龍の言葉が重なった。
「「「「YES」」」」
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話を要約すると、悪党は居なかった。
みんな、俺の日常を守る為に、行動した結果がコレらしい。
誰よりも仲の良かったナタリーとシェリーが軍に戻れば、いつか俺が帰ってくる、軍に残った兵士達にそう思わせる事が目的だった。
頑なに理由を話さなかったのは、理由を話せば、俺は普通の日常を諦め、日本に来る頭のおかしい兵士達を全て受け入れるだろう、と判断したからだと言われた。
俺の性格を良く分かってるね……だってもう、諦めかけてるし……。
「僕達は、タカシ君に何度も命を救われてきたからね。君が望んだ日常だけはどうしても守りたかったんだけど、タカシ君の決意には勝てなかったよ。残念だ」
「ホンマ、残念やわぁ〜。命を懸けてでも、タカシの日常を守りたかったんやけどなぁ〜。でもしゃ〜ないかぁ〜。タカシが決めたコトなんやからぁ〜」
「エミリーは必死で隠し通そうとしたんすよ? それなのに……タッチャンが強引に聞き出すから……」
「タッチャンが望んだ道っすからね。仕方ねぇっすわ」
「て、てめぇら……」
ぐぬぬ、と悔しがっていると、シェリーが鼻で笑って煽りだした。
「いけしゃあしゃあと、良くそんなことが言えますわね? 概ね、貴方達の予定通りだったんじゃありませんの?」
「な、何を言い出すんすか……」
「だって、こんな面倒でガバガバな作戦を取らなくても、もっと手っ取り早い方法が、幾らでもあったじゃありませんか」
シェリーの言葉に、ナタリーが眉を寄せた。
「冷静に考えると、別にタカスィを巻き込む必要は無かったんだよねぇ。直接、アタシ達を呼び出せば良かったんだしぃ」
「更に言うなら、わざわざ日本語を覚える必要はありませんのよ。コイツら絶対、日本で暮らす事を前提に動いてますわ」
洞察眼の無い、俺にだって分かる。
ポートマン達は、完全に図星の顔をしていた。
「お、お前ら……作戦通りってワケか? お、俺をイジメて、そんなに楽しいか!?」
「ちゃうねん! 俺らはホンマに、タカシの日常を第一に考えとったんや! た、ただ、最悪の結果になってしもうた時の事も考えて、日本語を……」
「なんでちょっと笑ってんだよ! 俺の目を見て言えよ!」
「わ、笑っとらんて……やめーや……」
「笑ってんじゃねぇか!」
俯きながら、肩を震わせる飛龍達に、必死で詰め寄る。
嬉しそうに、それはそれは嬉しそうに、彼らは笑いを堪えていた。
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「どうすっかなぁ……一度、軍に戻った方がいいのかなぁ……」
「戻った所で、どうにもならないと思いますけど」
「だよなぁ……」
ポートマン達と別れ、家路へと帰る俺達。
ショボくれながら肩を落とす俺に、ナタリーが抱きついてきた。
「うふふ〜。安心しろよタカスィ〜。アタシが守ってやっからさぁ〜」
「…………えらい機嫌いいじゃん。どうした?」
「タカスィ言ってくれたじゃ〜ん。アタシ達を幸せにするってぇ〜。すっごいすっごい嬉しかったんだからなぁ〜」
ナタリーにしては珍しく、スキンシップが一線を超えている。
なんだこれ? 発情してんのか?
「お前……服の中に手を突っ込んでくんじゃねぇよ。なに? 襲われたいの?」
俺の言葉に、ナタリーが顔を真っ赤にして笑う。
「の……のぞむところだぁ……ばっちこぉ〜い……」
「なに勝手におっ始めようとしてるのですか……ワタクシが居ることも、思い出して下さいまし」
冷ややかに返すシェリーに、ナタリーが財布から、何枚かお札を取り出す。
「ほら、十万あげるから、四時間くらいどっか行っててよ。タカスィと愛を育むからさぁ〜」
「やっす。百万渡しますから、ナタリーさんがどっか行ってて下さいまし。正直、ワタクシだってムラムラしてるんですからね!」
「しゃ〜ね〜なぁ〜。一千万あげるよ。それならいいだろぉ〜?」
「ふっふっふっ……全財産差し上げますわ! なんなら、借金してもいいですのよぉ?」
「無駄遣いすんなっつってんだろ」
バカ共にアイアンクローをブチかます。
今日何度目だよコレ……コントじゃねぇんだよ……。
自宅に到着すると、姉さんが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「タ、タッ君! 良かった! 無事だったんだね!」
「無事……?」
そういや、もう八時を過ぎているんだな……。
色々あって、姉さんに連絡するの忘れてた。
「ごめん。遅くなるって言ってなかったね。次からは気をつけるよ」
「………………え?」
姉さんがキョトンとした顔になる。
何を言ってるのか分からない、そんな顔。
「ん? どうしたの?」
「タ、タッ君……ニュース見てないの……?」
「ニュース?」
「さっきから緊急速報で、何度も同じニュースが流れてるんだよ……」
そう言って、持っていたスマホをコチラに向ける姉さん。
画面には、国際的歌姫、オリヴィアが映っていた。
「オリヴィアじゃん。相変わらず、クッソ生意気そうなツラしてんなぁ……」
「タッ君…………オリヴィア・ステージアと面識があるの……?」
「戦地の慰安ショーで、一方的に絡まれた事があるんだよ。クッソ生意気で、ムカつくヤツだったわ」
思い出しただけでムカついてくる。
ま、俺は大人だから、大人の対応してやるけど〜。ふふん!
「タッ君……こ、これ、聞いてくれる……?」
姉さんがおずおずと、動画サイトの動画を再生する。
オリヴィアの歌声が聞こえてきた。
『何処にいるの……貴方は私を残して何処に行ってしまったの……今も私は……人混みのなか……貴方の姿を探している……』
ラブソングか?
メロディが聞きやすくて、中々いい曲じゃん。
歌姫って言われるだけある。ムカつくけど。
『戦場で……貴方は私を救ってくれた……襲ってくるスペースインベーダーを……貴方が退けた……』
いい曲はいい曲なんだけど、コレを聞いて何になるんだろ。
姉さんの顔が、切羽詰まった表情になってるし。
『あぁ……私の愛するタカシ……好き……私の全てを奪った貴方は……何処にいるの……』
「……………ん?」
ちょっと待って。
なんか、歌詞がおかしくなかった?
タカシとか聴こえてきたような気が……。
『あぁ……タカシ……シブサキ・タカシ! 何処にいるんだよ!? 出てきなさいよ!! 日本!? 日本に居るの!? 行くよ!? ワタシ、行っちゃうよ!?』
「ちょぉぉぉぉぉぉ!? なに言ってんだこのバカ!! アタマおかしいんじゃねぇの!?」
思わずスマホにツッコむ俺。
姉さんの顔が、どんどん引き攣っていく。
「あ、あのね……さっきからシブサキ・タカシは誰? って言うニュースが、ガンガン流れてるんだよね……世界の歌姫が、新曲でぶっ飛んだ曲をリリースしたから……」
「い、嫌がらせか……? こんなの……収拾つかなくなるじゃん……」
がっくりと肩を落とす俺に、ナタリーとシェリーがニタニタと笑った。
「所詮、無理な話だったんだよぉ〜。世界を救った英雄が、平凡に生きようとするのはさぁ〜」
「これからもっと騒がしくなると思いますわ。軍のバカ共も、どんどん来日するでしょうし」
「楽しい日常が始まるよぉ〜、タカスィ〜」
「楽しみですわね、タカシ君」
おちょくってんのかコイツら……何でそんなに楽しそうなんだよ……。
どうにかして、この状況を打開しようと悩む俺に、シェリーの呑気な声が響き渡った。
「戦地から帰ってきたタカシ君。普通に高校生活を送れない」
本作はこれにて完結となります。
沢山のブックマーク、評価、感想、大変ありがとうございました。2021年8月から投稿を始め、約9ヶ月間、筆を折らずに執筆を続けられたのは、皆様のおかげでございます。感謝しかありません。
三章終了時点で、七千人もの方にブックマークをして頂いておりました。
七千人の期待は裏切れないと、胃痛に耐えながら必死に執筆しました。
一話ごとに何百回と書き直しをしました。睡眠時間を削って、どう書いたら面白い作品になるか、悩みに悩みながら書いてきました。
そんな私の、胃痛と睡眠時間の結晶『戦地から帰ってきたタカシ君』はどうだったでしょうか?
少しでも笑ったり、楽しんでもらえたなら幸いです。胃が癒えてくってモンです。
最後に、ここまで私の作品を読んで頂き、本当にありがとうございました。
小説家になろうで、色んな素晴らしい作品を拝見して、自分も執筆してみたいなぁ……と思い書いた小説を、これだけの人達に見て頂いた事は、奇跡だと思っております。
本当にありがとうございます。何度も言いますが、それしか言葉が出てきません。
また、適当に投稿するかもしれませんので、その時は宜しくお願い致します。それでは (^^)ノシ
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と、ここまでが、事前に用意していた後書きになるのですが、最終話? うそ? といった感想が多かったので、その辺について、少し説明します。
元々タカシ君は、この四章で終わらせるつもりでした。
理由としては、一つの作品として、しっかり完結させたかったっていう事と、ここまでしか構想を練ってなかったという事があります。
……………………というか、そもそも、こんなに続きを要望されたり、人気が出るなんて思ってなかったんですよ。
最終話っていうのも、ハイハイお疲れさんお疲れさん、ってな感じで、サラッと流されると思ってましたし。
感想欄に並ぶ、続きを望む言葉……めちゃんこ嬉しかったです……マジで……。
ただ、続きの執筆については、すみません。保留にさせてください。
ここで完結すると決めておりましたので、正直、今の段階で何も思いついておりません。
クオリティ重視で執筆してきたので、下手なモノは投稿出来ないって考えております。
中途半端な形で投稿して、ガッカリさせるのが一番嫌ですからね。
無事に完結出来て、ちょっと燃え尽きてますし……。
あ! そうだ! 続き書いて欲しいなら、評価いっぱい下さい! ブックマークも! 感想も! レビューも大量にお願いしゃす! モチベーションも上がるしウィンウィンやんけ! へっへっへ…………(死んだ方がいいカスの微笑)
ごめんなさい。
嘘です。
本気にして怒らないで下さいね?
嫌ですよ? これが原因で、感想欄が荒れに荒れるなんて。
と冗談はこの辺にして、今まで本当にありがとうございました。さっきの下りは嘘ですが、冒頭に書いた後書きは本心であります! 皆様あってのこの作品でございます!
ここまで応援して下さってありがとうございました!! また何処かでお会いした際には、宜しくお願い致します!!
(^o^)ノシ