表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/102

24話


「ナタリーさんは、なんでワタクシの連絡先を知っておりましたの? 教えた記憶なんてありませんが」


「ラウランに聞いたぁ〜。3ドル取られたけどぉ〜」


「ワタクシの個人情報は3ドルの価値ですか……」


 タッ君が電話してくると言って席を外し、この場には、私たち三人が取り残された。


 感情的になっていたシェリーちゃんも、今は大分落ち着きを取り戻し、穏やかな口調でナタリーちゃんと会話をしている。


 普通に話す二人は本当に可愛い……こうやって見ると絵画みたいだ。


「まぁいいですわ。それより、こちらの淑女とはどのような関係になりますの? ワタクシにも紹介して欲しいのですが」


 見惚れてる私の方を向き、ニッコリ微笑むシェリーちゃん。


 これ……普通の男だったら、今の笑顔でノックダウンしてたよ……ふぅ〜、危ない、危ない。


「タカスィのお姉ちゃんだよぉ〜。超ブラコンだけど、すっげぇ優しい人なんだせぇ〜」


「まぁ! タカシ君のお姉様でしたの! それはそれは! ご挨拶が遅れましたわ!」


 そう言って正座し、三つ指ついて頭を下げるシェリーちゃん。


 外国人とは思えないほど自然な仕草。女子力が高すぎて震える。


「ワタクシ、混合十一種・Y種特殊生体兵、シエル・アイスランドと申しますわ! みんなにはシェリーの愛称で呼ばれておりますので、お姉様もワタクシの事はシェリーと呼んで下さいまし!」


「あ……て、丁寧にありがとうございます。私は四分咲(しぶさき)花梨(かりん)です。よろしくお願いします」


 丁寧な彼女に(なら)って、私も頭を下げる。


 混合? Y種? ちょっと早すぎて聞き取れなかった。


「シェリ〜。お姉ちゃんに型式名乗っても伝わらないよぉ〜」


「え? ドズ化の説明はしておりませんの?」


「タカスィの方針でぇ、アタシ達の体については簡単にしか説明してないんだよねぇ〜。軍に目をつけられたら困るって心配しててさぁ〜」


「ふ〜ん……相変わらず真面目ちゃんですわねぇ。軍が何か言ってきても、叩き潰せばいいだけですのに」


「アタシもそれ言ったぁ〜」


 ドズ? 何の話だろう?


 体の事を言ってるから、もしかして改造のことなのかな? 


 それなら二人に聞きたい事があった。ちょうどいいタイミングだから聞いてしまおう。


「あ、あのさ。さっき二人が喧嘩してた時、体に薄暗い煙のようなモノが(ただよ)ってたよね? あれってなんなの?」


 ナタリーちゃんは赤黒く、シェリーちゃんは青黒く、そしてタッ君は銀色に発光した煙のようなモノが体を(おお)っていた。


 正直、かなり気になっている。


 アレを見た瞬間、恐怖で息が止まりそうになったし、絶対にヤバいものだって本能が警鐘を鳴らした。


 そんなものに包まれる、タッ君たちの体が心配でしょうがない。


「え、えっと……ナ、ナタリーさん! お姉様にフィルムの事を勝手に話したら不味いですわよね? 後でタカシ君に怒られますわよね?」

 

「さぁ? 試しにチャレンジしてみればぁ〜?」


「チャレンジするメリットがねぇですわよ……ワ、ワタクシからはお話し出来ませんわぁ。タカシ君に直接聞いてもらえます?」


 シェリーちゃんが口を(つぐ)み、視線を逸らす。


 はぐらかすつもりだ。それじゃ困る!


「タッ君は大丈夫って言うだけで、それ以上詳しく教えてくれないんだよ! お願いシェリーちゃん! ナタリーちゃん! タッ君には言わないから教えてくれる!?」

 

「うぅ……ワタクシ個人としては全然話してもいいのですが……ただ、タカシ君が伏せている情報を、ワタクシの口から伝えるのは……」


「フィルムまで見せたアタシ達が言うセリフじゃ無いけどさぁ〜、聞いて楽しい話じゃ無いし、聞くだけ損だと思うよぉ〜」


 二人とも口が重い。


 話そうとしない二人に、私は最終手段、土下座を繰り出した。


「この通り! お願い!」


「ち、ちょっ! お、お姉ちゃん!? な、何してるの!?」


「か、顔を上げてくださいまし! こ、困りますわ!」


「別に興味本位で聞いてる訳じゃないの! ただ、みんなの体が心配なだけなの! 本当に体が大丈夫なのか知りたいだけなの……お願い……教えてぇ……」


 動揺する二人に、素直な気持ちを打ち明けた。


 私は、タッ君とナタリーちゃんに大きな借りがある。


 大神君の件は勿論そうだし、そもそも彼女達がいなければ、人類は滅亡していたかもしれない。


 全ては私達を救う為、彼女達は犠牲になったのだ。


 だからこそ平和になった今、みんなには幸せになってほしい。


 そこまで人類に尽くしてくれたんだ。彼女達は幸せになる義務がある。


 その為にも改造の所為で体に不調が無いか……どうしても知りたかった。


 私に出来ることなら、何でもするつもりだったから。


「お姉ちゃん。顔をあげてくれる?」


 ナタリーちゃんの優しく諭す声。


 恐る恐る顔をあげると、彼女達はどこか困ったような、嬉しそうな顔をしていた。


「な? アタシの言った通りだろ? お姉ちゃんは優しい人だって」


「正直……驚きましたわ。ワタクシ達の喧嘩を間近で見てますのに……恐れるどころか心配してくれるなんて……」


「軍のノーマル連中にも見せてやりたいよ。少しはお姉ちゃんを見習えって」


「特殊機械兵が聞いたら泣いて喜ぶでしょうね……あの人たち、人間扱いに飢えてますから……」


 そう言って私に向き直る二人。


 美しい顔で、穏やかに笑っていた。


「何から知りたい〜? 本当に話せないこと以外は、何でも答えるよぉ〜」


「タカシ君には内緒にして下さいましね。怒られるのだけは勘弁ですから」


 優しく、本当に優しく笑う、ナタリーちゃんとシェリーちゃん。


 私の気持ちが伝わったのか、二人とも快く了承してくれた。


「あ、ありがとう! ナタリーちゃん! シェリーちゃん!」


 彼女達の心意気に、私は心の底から感謝した。



───────────





「じゃあ後遺症とかは全く無いんだね?」


「全く無いよぉ〜。敢えて一つ挙げるとするなら、お腹が空きやすくなってる事くらいかなぁ〜」


 私の質問に、お煎餅を食べながら呑気に答えるナタリーちゃん。


 寿命が縮んだり、体に不具合があるのを心配していたけど、そういった心配は全く無いらしい。


「フィルムって言ったっけ? 凄く禍々しい感じだったけど、アレはなんなの? 体に影響ないの?」


「アレは体の一部みたいなモノですから、特に影響はありませんわ」


「そ、そっか……それなら良かった」


 ホッと胸を撫で下ろす。


 話を聞く限り、改造による問題は無いみたい。


 一番聞きたいことが聞けて安心していると、ナタリーちゃんとシェリーちゃんが、どんどん軍事機密を暴露し始めた。


「基本的にぃ〜、改造兵を総称して生体兵って言うんだけど、正確には機械兵、生体兵、特殊機械兵、特殊生体兵の四つに分けられてて、タカスィや、アタシ達は特殊生体兵に(くく)られるんだよねぇ〜」


「生体兵というのは、ある試薬の投与に成功した兵士の事を指しまして、膂力(りょりょく)や回復力、再生能力などの身体能力が大幅に向上する、といった特性がありますの」


「機械兵に比べて戦闘能力が高い反面、適性を持ってる人間って少ないんだよねぇ〜。生体兵化の成功率って何割だったっけぇ〜?」


「たしか五割弱ですわね。ちなみに失敗したら拒絶反応で即死ですわ」


「………………え?」


 な、なんか、とんでもない事を言わなかった? 即死ってどういう事? あ、ありえないんだけど……。


 絶句する私に気づかないまま、二人の呑気な暴露は続く。


「特殊生体兵になるにはねぇ、薬の投与を何度も繰り返す必要があって、最低でも五回は投与しなくちゃならないんだよぉ。五割を五回だから、結構な割合で死んじゃうんだぁ〜」


「それ以外にも条件がございますわ。生体兵の試薬は、A〜Zの二十六種あるのですが、特殊生体兵にもなりますと最低でもその内、五種類を投与する必要がありますの。この成功率が、とにかく低くて、低くて…………ちなみに、一度でも拒絶反応が出れば勿論死亡となりますわ」


「ちなみにシェリーの十一種投与って、かなり多い方なんだぜぇ〜。まぢで異常なんだからぁ〜」


「A種を百回以上投与した人が良く言いますわね。なんですか三桁って。そりゃあデブリも、ナタリーさんの姿を見たら逃げ出す訳ですわ」


「シェリーもデブリにビビられてたじゃんかよぉ〜。半身吹っ飛んでも直ぐに再生とか、人間じゃねぇよぉ〜」


「H鋼を素手で引きちぎるナタリーさんにだけは、言われたくありませんわ」


 化け物、化け物とお互い罵り合うナタリーちゃんとシェリーちゃん。


 軽い口調で喋ってるけど、結構ハチャメチャな話をしてない?


 戦地で戦う前に死んでる人もいるって事でしょ? みんな、ホントよく無事だったよ……。


 私がドン引きしていると、電話を終えたタッ君が戻ってきた。


 同時に、ナタリーちゃんとシェリーちゃんが目配せしてくる。


 この話お終いね……そんな顔をしていた。


「シェリー。後で軍に口座番号伝えてくれる? 全額支払うことを約束させたからさ」


「ほ、本当ですの!? 金額が金額なのでちょっと諦めておりましたが……よく了承しましたわね。誰にお話ししましたの?」


「総監の嘘なんだから、総監にケツ持ってもらうようにした。なんか、ぐぬぬ……とかほざいてたけど」


「ざまぁねぇなぁ〜」


 凄惨な過去を持っているのに、一切表に出そうとしない三人。


 笑えない状況の中を生き抜いてきたのに、誰よりも笑い合っている三人。


 もしも私が……タッ君の代わりに戦地へ向かっていたら……こんな風に笑顔で戻って来られたのだろうか……?


 多分……無理だと思う。


 絶対に心が壊れたに違いない。


 戦争に行く前と、なんら変わらないタッ君の様子を見て、





 彼の心が変わらなかった事に、





 一抹の不安を覚えた。

 



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
タカシは全種いってるとかなのかな。
軍に徴兵された人達がほとんど軍に殺されてたとか草も生えんなぁ
[良い点] 一抹の不安 [一言] おーぅ。。。 明るく暴露してるけど悲しいねぇ 最低でも1人生み出すのに31人犠牲か。。。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ