101話 番外編 乙女の断念
読んで頂きありがとうございます。八章終了後のエピソードになります
軍事演習場を後にした私達は、知る人ぞ知る、美味しいと噂されるお好み焼き屋さんで夕食を取っていた。
楽しい筈の夕食。食べておいしいお好み焼き。
それなのに私は、お好み焼きに手をつけるワケでも無く、どんよりとした瞳でタカシとシェリーさんを眺めていた。
「シーフードミックスが焼けたよ。たくさん食べれよ」
「ひ゛っ゛く゛……う゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛……うめっ……うめっ……うめぇぇですわぁぁぁ……わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛……」
「泣くのはいいんだけどさぁ……綺麗に食べれって……口の周りが青のりまみれになってんだよ……」
向かいに座るタカシが、面倒臭そうにシェリーさんの口を拭っている。
まるで出来の悪い妹をあやすように、甲斐甲斐しくお世話をしている。
………………いや、頭では理解してるのよ?
シェリーさんの境遇を考えたら、今日くらい優しくしてあげなきゃいけないってのは分かるのよ?
実際、その気持ちは強いし、彼女の為に力になりたいって思っている。
だからタカシとイチャイチャしていても我慢するし、文句を言うつもりもない。
言うつもりはないんだけど…………。
ないんだけど…………。
このザワザワとしたドス黒い感情を、誰か止めておくれ……。
隣に座る花梨お姉さんが、同じようにどんよりとした瞳で呟いた。
「凛子ちゃん……あの二人の間に割り込んできていい? そろそろ限界っていうか……」
「ちょっと……大人になりなさいよ……この中で一番年上なんだから……」
「年上とか関係ないわい……日和ったヤツから負けヒロインになるんじゃい……」
「気持ちは分かるけど……血の繋がった姉の発言じゃないわね。本当に花梨お姉さんはどうしようもないわ」
文句を呟くブラコンを制止しつつ、ナタリーさんに視線を移す。
彼女は彼女で、頬をぷくっと膨らませていた。
「タカスィ〜。アタシのお好み焼きも作ってくれやぁ〜。はよはよぉ〜」
「もうちょい待ってろ。もうすぐ焼き上がるから」
「出来上がったら、あ~んしてくれやぁ〜。アタシ猫舌だから、ちゃんとフ〜フ〜もするんだぞぉ〜」
「まぁた面倒臭ぇ絡み方しやがって……園児かお前は」
「アタシ三歳と百二十六ヶ月。まだまだ未熟なんでよろちこね♡」
「じゃかぁしい。そのけしからんブツ、揉むぞコラ」
タカシが悪態を吐きながら、ナタリーさんの胸を凝視する。
彼女は顔を真っ赤にして、両腕で胸を隠した。
「ち、ちょ!? えっちはダメだぞ! 人前でえっちなことはダメなんだぞぉ!」
「何そのセリフ。人前じゃなかったらいいんかい」
「そ、それは別に……二人っきりなら……やぶさかじゃないっていうか……」
「やぶさかじゃないのか……」
なんかタカシが、ナタリーさんにセクハラをかましている。
私があれだけ扇情的な格好をしても、全くえっちな雰囲気にならなかったのに、ナタリーさんにはセクハラをかましている……。
私にもやれよ……そういうのを求めてるんだよコッチは……。
再び花梨お姉さんが、私に耳打ちする。
「なんかタッ君ってさ、ナタリーちゃんには踏み込んだことを言うよね。揉むぞ、なんて絶対に言わない子なのに」
「ちょっと止めて。嫉妬で狂いそうになるから止めて」
「これってつまり……ナタリーちゃんを性的な目で見てるってこと?」
「だから止めてって……本当に不安になっちゃうから……」
──────────
お好み焼きも食べ終わり、そろそろお会計をして帰ろっかというタイミングで、
このまま終われない私は、パンッと両手を合わせた。
「ここは私が奢ってあげるから、そろそろ解散しましょうか。あ、タカシは私と一緒に帰るから残ってなさいよ。お泊まり会の続きをするんだからね!」
そう告げた瞬間、女性陣の顔色が変わる。
信じられないといった表情で、「おいおい……ぶっ込んで来やがったぞこの女……」って視線を向けてくる。
シェリーさんが、おずおずといった様子で手を挙げた。
「あ、あの……今日は色々ありましたから、これからみんなで一緒にパーッと遊びにでも行きませんか? ゲームセンターとか、ボーリングとか」
シェリーさんの提案に、ナタリーさんと花梨お姉さんも便乗する。
「そ、そうだよねぇ〜。今日は変なトラブルがあったから、お泊まり会はまた今度にして遊びに行こうぜぇ〜!」
「うんうん! 予定を変更してみんなで楽しもっか! お姉ちゃんはボーリングに行きたいかなぁ〜!」
居候泥棒猫と変態ブラコン女が、なんか言ってる。
まるで私のお泊まり会を、有耶無耶にするかのようになんか言ってるっ……!
タカシもタカシで、珍しく困った顔で固まっていた。
どっちの意見に従えばいいのか、キョロキョロと私とシェリーさん達の顔を見比べている。
困らせちゃってごめん。
ワガママなこと言って、本当にごめん。私はガチで面倒臭い女だと思う。
でもね、譲れないの。
今日は『する』って決めていたの。
私が『する』と決めた以上、今日は絶対に『する』のっ! そしてその様子を沢山撮影するのっ!
文香さんのことだ。温泉旅行でエッチなことを計画しているに違いない。絶対にタカシをペロんちょしようと画策しているだろう。
だからこそ、今日のお泊まり会は絶対に実行するの! 私はタカシの恥ずかしいところを、いっぱい動画にするのぉぉぉぉぉっ!
「私とタカシは遠慮するわ。みんな、たくさん楽しんできてね」
「い、いや……り、凛子さんとタカシ君も来て欲しいですわ……みんなで遊びてぇですわ……」
「そ、そうだよ凛子ちゃ〜んっ! お泊まり会はまた今度にして遊ぼうよぉ!」
「全部奢るから! 領収書さえ持ってきてくれたら、ボーリング代もゲームセンター代も私が払うから!! 好きなだけ飲み食いしてもいいから! だから今日のお泊まり会だけは見逃して!! お願いだかりゃぁぁぁぁ!!(半ギレ)」
「凛子さんも大概だよね……さっきまでお姉さんになるとか言って格好つけてたのに……」
私達のやり取りを見た巴さんが、ボソッと呟く。
それとこれとは話が別。私の人生がかかっているの。譲るワケにはいかないの。
「お泊まり会は別日にして、今日はみんなで遊ぼうよ。ボクもこのまま帰るのは寂しいし」
「それじゃあダメなの……っ! 文香さんに……文香さんに先をイカれるの……っ!」
「先を行かれるって、どういうこと?」
「文香さんが温泉旅行で獣になっちゃうのっ! 私のタカシが大変なことになっちゃうのぉっ!!」
「自分のことを棚にあげて良く言うね。抜け駆けしようとしているのは凛子さんじゃないか」
呆れた様子でジト目になる巴さん。
それでも同情してくれたのか、少しだけ慰めるように笑った。
「杞憂だから安心してくれよ。どうせ文香さんも失敗すると思うし」
「………………ん? どういうこと?」
「温泉旅行って家族ぐるみで行くんでしょ? ってことはタカシさんのお姉さんも行くんだよね?」
そう言って花梨お姉さんに視線を移すと、どこか引きつったような表情に変わっていった。
「この人が傍にいるのに、手を出せるワケないじゃないか……ボクの調べだと、この人は違う意味でモンスターなんだし……」
結局、その言葉が決め手となって、なし崩し的にみんなで遊ぶことになった。
お泊まり会が延期になったのは残念だけど、無くなったワケではないので我慢することにした。
巴さんの言う通り、花梨お姉さんの前でタカシに手を出すのは不可能だと思うし。
だから今回だけ、みんなのワガママに付き合ってあげることにした。
おあずけを喰らった分、次のお泊まり会は、速攻で襲ってやると心に誓いながら。
八章終了時にちょろっとお話ししました、番外編を四つほど書き上げましたので投稿していきたいと思います。
投稿にあたり、毎度のことで大変恐縮なのですがご報告させて下さい。
なんと、1月9日にコミカライズの2巻が発売します!
紗和先生の超絶画力で、暴走するヒロインを楽しく描き上げて頂きました。私が言うのもなんですが、素晴らしい出来栄えで、たくさん笑わせてもらいました。
目次や各話下部にリンクを載せましたので、ご確認頂ければと思います。
こちらも毎度のことではございますが、いつもいつも、たくさんの応援ありがとうございました。皆様のおかげでタカシ君は成り立っております。
本年も頑張らせて頂きますので、引き続き宜しくお願い致します。









