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仮想高校ミネルバ【夢の高校生活を送りたい】  作者: C.S
普通に高校生活を送りたい。
2/2

第2話:友達っていいよね。

 入学式と書かれた看板のある校門をくぐると、桜並木が続いている。

 両側に等間隔で桜が並ぶ道は、敷地の奥にある広場に繋がっていた。

 広場にはテーブルやベンチなどが並び、その中央には一際大きい桜の木が1本立っている。


 桜、桜、桜。学校中薄いピンク色だらけだ。

 どうしてこんなに桜が多いのかと言うと、この辺りの土地が関係している。

 この地の名前。それはズバリ、桜ヶ海。


 初めて見つけたプレイヤーが、盆地一杯に広がる桜がまるで海の様だったからと名付けて、その美しさから観光地にもなっていたミネルバの名所。

 しかし、美しすぎるが故に拠点を構えたい集団チームが後を絶たず、支配権を巡っての争いが絶えなかった。

 最終的には大抗争が勃発して1株を残して全ての桜が焼け落ちるという悲劇が起こり、その後は残った桜を大切に保管する永世中立都市となる。


 と、そんな濃い歴史もあり、学校を作る際はかつての海を取り戻そうと桜だらけなったのだ。


 ちなみに、広場の中央に立つ桜が燃え残った最後の1本である。


 そしてその箔付きの桜を囲む中央広場だが、この広さに関わらず人が1人も居ない。どうやらまだ入学式の最中らしい。


 広場の正面には立派な校舎。右側にはステンドグラスが光る大聖堂がある。


 ほんの少しだけ、大聖堂の閉ざされた扉の向こうから人の声が聞こえた気がした。


 …………どうやら入学式は大聖堂の中らしい。

 あの重厚な扉を開けて途中参加すればさぞ目立つだろうが、皆すぐに忘れるだろう。それよりも入学式に間に合わないのが問題だ。


 大聖堂の前まで歩いて、その重厚な扉に手を掛けたその時。


 ――――ギギッギギギギッ。


 音を立てて勝手に扉が動き出す。


 その隙間から大人数が楽しそうに談笑する声が漏れていた。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 あっという間に、広場は生徒の活気で覆い尽くされている。

 そして何故だろうか、広場を囲む茂みの中に俺は隠れている。


 人見知りと言うわけではない。ただ、300人の進行方向に1人ポツンと俺が居るのはちょっと目立ちすぎだ。


 ………………しかし、隠れるなら扉の裏が良かった。もうこの場所から動くことが出来ない。

 ガサガサと茂みから現れて、何食わぬ顔で生徒の輪に混じるのは不可能だろう。


「はぁ…………」


 どうしてこうなった。学校生活のスタートダッシュは最悪と言っていい。


「ため息なんてついたら運が逃げちまうぞ? 折角めでたい日なのに」


 それもそうだ。気持ちの持ちようでなんとでもなる。スタートダッシュで少し差がついたなら、巻き返せば


 ――――えぇぇぇ。


 誰だ? 後ろに誰か居る。話しかけられた。

 いや、この学校で俺が知っている人など1人もいないのだから、当然知らない人だ。

 つまり、知らない人が、後ろにいる?


「にしても良かった。俺以外にも遅刻したヤツが居て」


 ポンっと肩を掴まれた。ダメだ、恐怖に支配された身体の自己防衛本能を止めることは出来ない。

 肩を掴む腕を払って、体重を載せて捻り、投げる。


 ――――ボフッ


 地面が土だったのが幸いだろか。下手すればダメージが入るところだ。


「申し訳ない。後ろからいきなりに掴まれたものだから」


 桜の花びらが積もる地面に向かって、すかさずの謝罪。

 ん、地面――――?


 そこにあるのは、文字通りの地面。投げた相手は居なかった。


「おお、この学校にも俺を投げれるやつが居たか」


 無駄に馴れ馴れしい『彼』は、着弾点から数歩先。片手と両足の3点を地面に着けて座っていた。

 受け身を取ったらしい。


「申し訳ない。後ろからいきなりに掴まれたものだから」


 今度はしっかり相手の目を見て謝罪する。


「ははっ。2回言わなくても分かってるよ。スマンな」

 

 彼は片目を閉じて、両手を合わせた。どうやらダメージは無かったらしい。


「お前強いな。名前は?」


「…………ラックツ」


「ラックツ? ああ、なんていうか変な名前だな。俺はヒサシだ」


 とてつもなく失礼なセリフを含んだ自己紹介。

 ヒサシ? 現実の名前をそのまま使っているのだろうか。

 確かに100万人が応募したのなら、そういうヤツが混じっていてもおかしくないが…………。


 チャラい金色の髪に黒色の目。背丈は俺と同じ170中盤でそこそこ高い。

 現実の顔をそのまま持ってきたかのような印象を受けるキャラクリだ。アクセサリーの類は着けていないが、それでもとてもチャラい。


「どれどれ…………。あれ? お前Lv.1なのか?」


 ――――コイツ、勝手にステータスを覗きやがった!?


 ステータスには名前、称号、職業などの情報が並んでいる。それを勝手に覗くのは名刺を盗み見るのと同じことだ。お互いの許可を取ってからが暗黙の了解である。

 そんな事も知らないとは…………、やはりコイツ初心者か。

 向こうが見たのなら、こちらも確認させてもらおう。


―――ヒサシ――――

Lv.12

職業:格闘士

称号:格上殺し(レベルスレイヤー)

3/22からプレイ中.....



「…………はぁ?」

「お、どうした」

 おかしい。思わず声が漏れるほどに。

 まず、Lv12だと? 《ミネルバ》はレベル上げがとても難しい。普通なら毎日ログインしても10を超えるのに2ヶ月は掛かる。

 しかし今日の日付は4月1日。つまりは始めてから10日で、Lv12になったわけだ。どんな手を使ったのか…………。

 職業は予想通りだからいいとして、1番の問題は称号。

 格上殺し(レベルスレイヤー)はレベルが20離れた敵を1000体倒すと入手できる。


 つまり彼のステータスを翻訳するとこうなる。


『私は始めてから10日の初心者ですが、レベルが20離れた敵を1000体倒しました』


 初心者…………。そう、日数だけ見れば初心者だ。ただ、他の事実が全力でそれを否定しに来ている。


「…………ヒサシ」


「ん、だからどうした?」

 初心者(仮)のヒサシは、とぼけたような…………いや、本当に何も知らないのであろう態度だった。






「………………勝手に人のステータスを見るのはマナー違反だ」


「え、まじ!? スマン!」


 この初心者(仮面)は心底驚いたようで、この世界に詳しくないことが丸わかりだった。

 つまりは、上級者に手伝ってもらったりはしていない。たった1人で、このステータスなのだ。


 ――――バケモノだ。

 恐らく、現実世界リアルで何かやっていたのだろう。そのリアルスキルで20ものレベル差を埋めている。バケモノ以外の言葉が出ない。


「ってか、お前何でそんな事知ってんだ? Lv1だろ?」


「…………ああ、それは」

 いやちょっと待て、これは言うべきだろうか?

 動揺してたので口が滑りそうになったが、イレギュラーは隠しておいたほうがいいだろう。ヒサシに比べれば小さな差だが、無駄に波風を立てる必要もない。

 そう、俺の目的は普通に高校生活を送ること。変に目立つわけにはいかない。



「――――――事前に調べて来たんだ。不安だったからな」


「なるほどなぁ。分かるぜ、その気持ち」


 どうやら信じてくれたみたいだ。まあ、半分は真実(・・・・・)だからな。


 ――――カーンカーン

 校舎塔の頂上に鎮座している鐘が揺れた。

 そして、ゆっくりとした放送が流れ始める。


『みなさま、入学おめでとうございます。只今より校舎を開放し、自由行動となります。1時間後にはホームルームですので、遅れないようご注意下さい』


「お、動き始めるみたいだぞ。俺達も行くか?」


 茂みからボスっと顔を出して、ヒサシは校舎を指差す。


「俺は全員が入り終わってから行く。ざっと300人は居るから、全員の意識が校舎に向くのは少し後だ」


「そうか、じゃあ俺もそうしよう。友達と一緒の方がいい」


 ―――――友達?


 その関係の大切さを身にしみて感じたのは、何歳の頃だっただろうか。

 少なくともその時、すでにそう呼べる人は居なかった。


「友達か…………。久しぶりに友達が出来たよ」


 初日で友達が出来るなんて、スタートダッシュの遅れをもう巻き返してしまった。

 友達。素晴らしい響きだ。


「なんだ? お前ボッチだったのか」


 ――――その一言で傷がついたが、高校生活の幸先は悪くない。

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