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重なる夢。輝き

ベストファイヴやスターティングファイヴ、ベストナインにべスト11イレヴン

一方、四天王など漢字になると何故こんなにもチープに感じるのだろう。やはり日本人だからなのか。

それとも奴は四天王の中でも最弱と言う残りメンバーも基本弱い流行のせいなのか。

(四点差。本当に頼れる後輩たちです)


 前半を終えて三十九対三十五と、初の全国舞台で大健闘して来た後輩たち。


 ベンチに身体を預けたその姿は、満足感と疲労感に包まれている。


 今回、美久と同じくマネージャー枠で、そんな選手たちのケアに動いている深雪も嬉しそうだ。


(後は任せて下さい。私たちで、決めて来ますから)


 静かに決意を込めて、席を立った。


 私立水無神楽坂学園 後半スターティング5

 4番 斎乃宮麗胡   3年 身長165(①~③)

 5番 彩瀬四季    3年 身長169(①~⑤)

 6番 轟静      3年 身長177(④~⑤)

 9番 空雅恵理衣   2年 身長159(②~④)

 10番 百乃千尋    2年 身長173(③~⑤)

 アベレージ         身長168.6



 きっかけは、初恋だった。


 バスケットをしている好きな男子と話すきっかけや話題が欲しくて、始めたミニバスケットというスポーツ。


 当時は、バスケットとミニバスケットの違いさえ分かっていなかった。


 始めたはいいものの、元来の口下手が災いし、話すことの出来ないまま時間だけが過ぎる。


 小学校の卒業式に頑張って告白するも玉砕。


 背が相手より高いとか殆ど話したこともないとか実は無口で怖いCとして見られていたとか、理由は色々あっただろう。


 中学生になり、ただでさえ体力的に辛いバスケットを続ける理由もなく、文化部にでも入ろうかなと見学にあちこち回っていたある日のこと。


「あの、轟静さん……ですよね? 私は、斎乃宮麗胡と申します。いきなりで申し訳ありませんが、女子バスケット部に入りませんか?」


 まだ外見も内面も幼さを残した麗胡に、恐る恐る勧誘された。


 後で聞いた話では、バスケットをしていた静の話を聞いた先輩に、勧誘して来いと押し出されたらしい。


「……」


 無言で首を横に振る静。


 初対面の相手への気恥ずかしさもあったが、正直、バスケットにはもう係わりたくなかった。


「そう、ですか。あの、見学だけでも構いませんので、宜しければ気が向いた際にでも体育館に足を運んで下さい」


 随分と丁寧な言葉遣いをする子だなと思いながら、静はその後姿を見送った。


 それから暫く日が経ち、静は未だに部活を決められないでいた。


 中学生としては高めの身長と、恥ずかしさで無口になることが重なって、見学を受けた側が怖がって上手く引き込めないでいたせいもあるだろう。


 そんな中、麗胡は挨拶をしながら女子バスケット部の近況を話しては、去って行くことを繰り返していた。


 ただ話すだけで、勧誘をして来る訳ではないので、静は拒絶するでもなく聞き役に回る。


 一年生は現在三人だけだが、その内の一人は結構上手いらしい。


 麗胡はと言うと、小六になってからミニバスケットを始めたらしく、技術はまだまだで特訓中なのだとか。


 いつか全国優勝するのが夢だと小さな子どものように話す麗胡を、静は好ましく思う。


 でも、それはあくまで麗胡個人への感情であって、バスケットをしたいという気持ちとはまた別である。


 だから、その日の放課後に寄ったのも、ただの偶然だった。


(まだ、やってるかな?)


 殆どの部活が後片付けに入るような時間に静が体育館へ近付くと、ボールの弾む音が聞こえた。


 気付かれないように顔を覗かせると、どうやら残った一年生三人で2on1のアウトナンバーの練習をしているようである。


(……え?)


 暫くして、静は漸くその異様さに気付く。


 監督者不在の中で、接触ありの勝負。


 何度か対戦をした後、二人組みの方が負けた麗胡に掃除と片付けを押し付けて帰り始める。


 慌てて静は身を隠した。


 二人組みが通り過ぎ、離れたのを確認してからもう一度体育館を覗き込む静。


 独りで用具を片付けるのはまだいい。


 だが、使用していた一面だけとは言え、独りで体育館を掃除するのは──。


 見ているのも辛くなって、静は自然と踵を返し、家へと帰った。


 次の日、あんなことがあっても、麗胡の様子はいつもと変わらなかった。


 それが悲しく、酷く静の心を締め付ける。


 もしかしたら、先生や先輩たちがいる間の女子バスケット部は充実した練習を送っているのかもしれない。


 それでも──。


 今度は、最初からこっそり女子バスケット部を見る。


 先生や先輩のいる内は、例の二人組みも昨日の一面が嘘のように真剣で、特に問題は見当たらず一先ずほっとする静。


 しかし──。


 先生が帰り、先輩たちもシュート練習を終えて帰ると、二人組みの態度が露骨に変化した。


 まだそんなに上手くない麗胡のためにと言いながら、負けた方が掃除と片付けを行う遠慮なしの2on1勝負を始める。


 自然と一歩、今度は前に足が動いた。


 ただでさえ体力的に辛いバスケットを、続ける理由など静にはない。


 だがそれは、悪い意味ではなかった。


 自分の初恋のために頑張って覚え、練習に取り組んだミニバスケット。


 初恋は叶わなかったが、少なくとも、それまでの日々は静にとって大切な宝物となっている。


 目標も何もなく続けることで、次第に辛いことや不満や後悔ばかり考えるのではという不安。


 その結果として、手に入れた輝きを失いたくなかった。


 だから、汚されていることに我慢出来ない。


 歩き出す。


 昨日は、目を背けた。


 それも一つの解決策。


 万人にとって絶対の正義がないように、万人にとって絶対の思想もない。


 労力と結果が見合わないなら、自分の時間を削ってまで一時の不快を消しに動く必要などない。


 でも、きっともう、静にとって麗胡はただの他人では済まなくなっていた。


 自分の時間を共有したい相手なら、結果のために労力は惜しまない。


 駆け出していた。


 麗胡が苦心して放つも外れたシュート。


 相手は一人が麗胡を抑え、一人が余裕綽々とリバウンドに向かう。


「っ……」


 相手より一歩遅れて跳ねた静がそのリバウンドを制し、続けてレイアップを決める。


「な……!?」


「静、さん?」


「……」


 無言で麗胡の側のゴール下に向かい、ディフェンスに構える。


「へぇ、そういうこと」


 二人組みが静を敵と見なし、攻撃に移る。


「──ありがとうございます」


 静より前でディフェンスに入る麗胡の背中越しに、小さな声が聞こえた。


(全国優勝──。友達の夢に乗るでもしないと、目指そうなんてきっと思わなかったけど。いつか、この子と一緒に──) 


 静のバスケットが、ここから始まった。




 あれから五年と数ヶ月。


 漸く掴んだ、あの日のいつかを叶えるための全国舞台のキップ。


(必ずものにします)


 十代の静にとって決して短くない時間を共に過ごした仲間たちと、この先を目指して走る。


 まだ数ヶ月しか交流のない一年生たちとも、いい思い出を作りたかった。


 人と心のままに話せない初夢。


 小学生の頃、初恋叶わず卒業式でも失恋した深雪。


 中学入学時、自分以外の夢に惹かれてバスケットに入った凛。


 そんな、何処か自分に似た後輩たちと、静はもっと親しくなりたいと思っている。


 最初はダイエットだけが目標だった深雪も、この舞台で優勝を目指す選手になれるよう、選ばれなかった時に泣くほど頑張ってくれた。


 その思いを、嬉しく思う。


 その思いに、応えたいと思う。


 ディフェンスリバウンド。


 ゴール下で相手と競り合い、跳ぶ。


(渡さない!)


 ここは静の守るべき場所だ。


 相手が誰であろうと、引けを取る訳にはいかない。


 リバウンドを取り即座にフロントターン、麗胡へと繋ぐ。


 中学の意地の悪い同期と過ごした中、唯一好かったのはすぐ側の敵に常に負けられない気持ちを抱けた点だ。


 おかげで、日々の練習や技術の修得にかなり真剣になれた。


 そしてそれは、結果として麗胡の開花に大いに貢献した。


 速攻で走る逆サイドの恵理衣に向けた麗胡のパスが、併走する麗胡自身のマークマンをフロントチェンジからのバックロールターンでほぼ抜きながら送られる。


 ターンでボールを突き出す前に放たれた後ろに目があるのかというパスを、マークマンを引き離した恵理衣がミートし、そのままランニングシュートを決めた。


 第三ピリオドを終えて五十五対四十七。


 そのまま優勢を維持した水無学が、一回戦を突破した。


区切りよさそうな所で(恐らく)毎日投稿していく予定です。誤字脱字やルビ振りミスのチェックで度々更新されるかもですが、一度投稿されたシナリオの変更はない予定・・・

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