伸一熱く、熱く、熱くカレーを語る
伸一熱く熱く熱くカレーを語る
伸一はごく普通の勤め人だ。だから毎月給料日がある。そして給料を貰うと必ず行く所がある。それはCoCo壱番屋という、カレーチェーン店だ。
彼に言わせるとCoCo壱番屋は割高なんだそうだ。そして時々私も誘われ、都合と「カレーが食べたい」と思う時は同行する。
初めてCoCo壱番屋に誘われた時はちょっと面食らった。何故わざわざ給料日にカレーなんだと思ったからだ。
「カレー食べたかったの?」
「給料日はここって決めてるんだ」
「え?何で?お金入ったら何かいいもの食べたくない?」
私が言った瞬間、伸一の頬が少しひきつり私は柄にもなく緊張した。彼のこんな反応は見たことがない、何か琴線に触れたのだろうかと少し身構えた。
「俺さぁ……」
ここから彼は怒涛の如く自分を語り出す。こんなにしゃべるの彼は初めてだ。軽くパニックになりつつ彼の自分語りに耳を傾けると、カレーには様々な思い入れを持っている様だった。
「本当にカレー好きでさぁ、小学生の頃ね………」
「キレンジャー?」
「何で分かったの?」
「分からいでか!!(笑)」
矢張外見のぽっちゃり具合とカレー好きで「キレンジャー」と呼ばれていた様だった。
「そんなにカレー好きなん?」
「もう365日3食カレーでもいい」
そう言う彼の顔は心なしかうっとりしている風に見えて、何故か私はカレーに軽い悋気を覚えた。
「カレー好きは分かったけど、何で給料日にCoCo壱なん?」
「フッ………これだからお嬢様は」
なんだその言い種は、私が世間知らずみたいな事を言うなと立腹しつつ次の言葉尻を掴んでやろうと私は臨戦体制に入る。
彼は大きく息を吸った。
「高いの!!CoCo壱さんは高い!!」
そっちか、思いもよらない答えだ。
「普段はレトルトか立ち食いそば屋のカレー」
私は失礼を承知で彼に聞かねばならない様だ、聞くことは多分凄く失礼にあたってしまうが、どうしても確かめずにはいられない。私は思い切って尋ねる。
「嫌だったら答えてくれなくてもいいけど、本当、嫌だったら拒否してもいいんだけど、気になったから、気になったから聞くけど………ゴメン、失礼だったらゴメン………給料って月、手取り幾ら?」
「言ってなかった?」
「前に安月給だとは言ってた様な………?」
「うん、安いよ、幾ら位だと思う?」
質問を質問で返すんじゃないと思いながら当時の私の周りの人の年収を考えながら適当な答えを見付けようとするが、同じ業種の知り合いがいないせいもあり皆目見当がつかないが、同い年の伸一だから私の手取の半分を答えた。
「そんなに貰えないよ」
多分私が知っている人間で一番年収は低いのかも知れない、これ以上追及するのは絶対に失礼もいいところだ。そう思った矢先に彼は手取の金額を告げた。
金額を聞いた時はかなりショックを受けた、あまりにも少ない。これは搾取され過ぎてないかと心配になった。
「あ〜そうね、それだとCoCo壱は高いかぁ」
「でしょでしょ?カレーにサラダ付けて、トッピングすると千円超える」
「なんか、ゴメン」
「全然気にしてないよ、俺ミイちゃんが超高給取りなの知ってるし」
「人に収入聞くのって失礼だよね」
「大丈夫大丈夫、でも俺みたいなボンビはCoCo壱高いって分かって貰えたら嬉しい」
こいつ、間違いなくいいヤツだ。多分性善説を地で行ってしまって痛い目に遭わねばいいのだがと私は益々心配になる。私は次の休みに本格的インド料理店を予約する事にした。伸一を招待して少しでも喜んで欲しい、そう思った。
「それでね、そうそう、カレーなんだけど、俺はここに来るのメッチャ楽しみなのよ、トッピングも色々あるし今度はこれをトッピングしようって思って夜勤頑張ったりする」
何でこんなに健気なんだろうか彼は。
「カレーは普段自作するけどやっぱり沢山作らないと美味しくないんだよ、だから一度で一週間分位作るよ」
「やっぱり寝かせたカレーって美味しいと思う?」
「そりゃ勿論!!」
「確かにカレーは失敗する方が難しそうだよね」
「ルーにも色々あるんだよ……」
彼はS&B食品とハウス食品のカレーのルーの蘊蓄を語った。本が一冊書けそうだ。流石、離乳食終えてからカレーで育った男だと思った、と同時に彼にカレーを語らせると時間が幾らあっても足らないと痛感した。
確かCoCo壱番屋に入ったのは午後7時で今既に日付を超えてしまっている。どれだけカレー愛に溢れた男なんだ、ちょっと呆れ気味に日付超えたからそろそろ帰ろうと言った。
「あ、本当だ明日も仕事なんだよ俺」
「私もだよ」
「ゴメンよ早く帰って寝ないとね、送るよ」
「おお〜ありがとう」
帰りのルート16は妙に空いていた。(続)
次回 伸一悲しみのインド料理店
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