グレートアースサバイバル!社会的に死ぬデスゲーム
デスゲームなのですぅ
『GREAT-EART-SURVIVAL』───通称 GESと呼ばれている、同時接続人数が百万人を越える大人気VRMMOがある
所謂剣と魔法のフルダイブ型ゲームなのだが、自由度が高過ぎて、通称と同じゲスい行為が横行するゲームだ
例えば大規模なゴブリンの集落があり、そこのゴブリンキングを討伐しろというクエストがあったとする
普通のゲームならば、色々と作戦を考えたりレベルを上げて物理でボスのゴブリンキングを倒すのだろうが、GESは一味違う
ゴブリンの集落に続く川に毒を流して「解毒剤が欲しかったらキングの首を差し出せ」とやれるのがGESだ
因みに俺はゴブリンの子供を何匹か拐って「子供達を返して欲しかったら、キング一人で指定の場所まで来いや」と誘い、ノコノコ一人で来たキングを落とし穴に落として、毒と岩を投げ込んで倒した
ここまで説明したら分かるだろう───そう、このゲームの運営は性格が悪い!
今、性格悪いのはお前らだ!と聞こえたような気がしたが、酷い言い掛かりだ
水は低きに流れるということわざを知らないのか?あの黄色い人も言っている、「楽してズルしていただきかしら」と!
人はゲスい事が出来るならゲスい行動を行うものなのだ、だから悪いのは、ゲスい事が出来るゲームを作った運営だ!
兎に角そんな性格悪いゲームだから、千人のプレーヤーを隔離して「今から君達にはデスゲームをやってもらう」と言われても
(あー、この運営ならいつかやると思ってた)という感想しか出なかった
いつもなら人で賑わっている中央広場が、不気味な程静まり返っている
ゲームを遊んでいるプレイヤーはおろか、街の住人や店番をしているノンプレーヤーキャラクターすら居ない
居るのは強制転移で連れてこられ、行動とスキルと喋るのを封じられた千名のプレーヤーだけだ
そして俺もその千人の一人だったりする、一応名乗っておくけど、名前はマコト、ジョブは忍者だ
フレンドと狩場でのレベル上げ中にいきなりシステムウインドウが開いて、この隔離サーバーまで転移させられたのだ
現在動けない俺達の前では、一人の茶色いスーツを着た三十代くらいの伊達男が、不敵な笑みを浮かべてデスゲームの説明をしている
「期限は五年間だ、それまでにこのゲームをクリアするか私を倒せたら解放してあげよう。ただし……クックックッ、この世界での死は、リアルでの死でもあるから気を付けるように」
それはもう楽しそうに説明している
これはクリアさせる気ないな、と直感的に感じる程のニヤケ顔だ
とりあえず何か出来る事はないかと色々やってたけど、システムウインドウが開けるくらいだった
当たり前のようにログアウトは出来ない、チャットで助け呼ぼうと思ったけど、外のサーバーとは繋がらないし、喋れないから呼びようがない
インベントリは開けるけど、手が動かないから使えない
結果、フォトモードを起動して録画するくらいしか出来なかった
「もっともこの五年間というのは君達に施した精神加速の限界でもあるのだがな。早くクリアしないと脳ミソがボロボロになってしまうから注意して欲しい、リミッターを無視して限界以上に君達の思考速度を加速してるからね……クックックッ」
笑ってる所申し訳ないんだけどさ、それお前もボロボロにならね?
物凄く突っ込みたいけど、眉一つ動かせないから突っ込めない
「さて、最後に質問を受け付けてあげよう」
男はそういうと、システムウインドウを開いて何かを操作した
…………おっ、右腕だけ動く!スキルや声は相変わらず出せないけど、これは───チャーンス!
「今右手だけ動けるようにした、質問がある者は挙手しなさい」
三百人くらいが一斉に右手を挙げた
それに紛れるように俺はインベントリから小型爆弾を取り出すと、男へ向かって投げた
おっ、他の奴らも一斉に投げてるな、スキルは封じられているがこれなら……だが不発!
大量の爆弾や毒薬が入った試験管は、どれも発動しない
男はこんもりと足元に山になった爆弾を見て、頬をピクピクさせた
「爆弾を投げるな爆弾を!おいそこっ!松明投げても誘爆しないからな!」
ちっ、非戦闘エリアに設定してあるのか……ここで殺るのは無理だな
ならばせめて鑑定だけでもしてやるか、スキルは封じられているけど鑑定用の片眼鏡(昔の貴族が付けてたような、片目に嵌めるチェーンが付いてる眼鏡)ならいけるだろ?
……どれどれ……げっ、こいつ姿は違うけどチート疑惑があるトップランカーじゃねーか!どれだけ通報されてもBANされないと思ってたら運営側かよ!
俺の驚愕とは裏腹に、男は顔を真っ赤にして爆弾の山を蹴飛ばすと、松明を投げているプレイヤーに向けて指を突きつけた
さっきまでの余裕が見る影もない、煽り耐性は低いみたいだ
「もういい!質問して来た奴を見せしめに殺してやろうと思っていたが止めだ!」
おいおい物騒だな
大方これが本当のデスゲームだと信じさせる為に、誰かを試しに殺そうとしてたって事か?
手を挙げなくて良かったー
「おいっそこの二人!松明を俺に向かって投げてるお前らだよ!効かないの分かってるよな?嫌がらせか?嫌がらせなんだよな!先ずはお前らから殺ってやる!」
男は肩を怒らせながら前に進むと、無表情でポイポイ松明を投げてる一組の男女の頭を鷲掴みにした……あ、男の方が剣を抜こうとしたけど抜けなかったから、指を男の鼻に突っ込んだ……女は目に指を突っ込んでる……えげつねー(笑)
「痛くないけど、すっげームカつく!あーもー本気で怒ったからな!お前らには最大級の絶望を味あわせてやる!……管理者権限『強制転移』」
二人を消すと男はシステムウインドウを操作して、上空に映像を映し出した
何処かのダンジョンみたいだ、崩れかけた神殿の広間みたいな場所に今消えた二人が立って居る
見たことないステージだけど、多分レイドボスのステージだ
大人数で戦うレイドボスは戦闘場もそれなりの広さになり、同じような形状になりがちなんだ
と思っていたら、予想通り天井から巨大サソリが落ちて来て……あ、二人が潰された……はやっ!死ぬのはやっ!
最大級の絶望どころかあの二人、状況を掴む前に死んだぞ
「…………」
男が唖然としているが、想定外だったのだろうか?でも自分で選択したボス戦だよな?
なんかちょくちょく段取りが悪いな、さっきから想定外を連発してるし……こいつ絶対に会社では使えない社員なんだろうな
もしかして、日頃の鬱憤を晴らす為に、こんなデスゲームを始めたとか言わないでくれよ
「と、兎に角死んだのだから、現実の彼らにも死んでもらう!」
無理やり話を進めるみたいだ
空中のスクリーンが切り替わり二つに別れると、右に男、左に女の顔が映し出された
さっき死んだ二人だな、下に名前やジョブが書かれている……あっ、男の顔が女に、女の顔が男に変わった
なんか野暮ったくて証明写真みたいだけど、もしかして中の人か?顔写真の下には、本名や住所まで記されている
それにしても、個人情報を晒して何がやりたいんだ?殺すんじゃなかったのか?
……もしかして、住所を知ってるという事は、そこに爆弾でも設置してるのか?
俺の不安を他所に、男は映像を気持ち悪い笑顔で眺めている
どうやら自動でこれから何かが起こるようだ
パパパッ!と新たな映像枠が表示された……有名掲示板に動画サイト、ニュースサイトに警察の掲示板に著名人のSNS、手当たり次第に目立つ場所を探したって感じだ
そして二人の個人情報が、それらに一斉に投下された
「よしっ!よしっ!プログラムは正常に動いてるな、これであの二人は終わりだ」
喜んでる所悪いが、いい年した男が背広でガッツポーズする姿は、痛々しい
特にそれが、今から殺す人間の個人情報を拡散出来たからかと思うと、一つも笑えない
「お前ら見てみろ!これが死んだ者の末路だ!」
末路も何も、今からお前が殺すんだろ?と冷めた思考をしていると、男がシステムウインドウを操作して、表示されている二人の情報をスクロールさせた
そして現れたテロップと画像に、俺はドン引きした
…………うわぁ……死ぬってそういう意味
テロップには【歪んだ動物愛】と書かれている
下に罪状が書いてあるが、どうやら二人は盗撮魔だったらしい、趣味が合うからペアを組んでいたのだろうか?シェアしている写真が多い
大量の写真が羅列してあるが、これは酷い、俺には理解出来ない世界だ
他人のフェチには寛容だと思っていたけど……動物の股間や尻の画像は、精神的に来る!
うん、あの二人は死んだな───社会的にだけど!!
なるほど、死ぬと言っていたのは、社会的にか
確かにあんな趣味が露呈したら、周りから敬遠されるな……特にペットを飼っていたら、絶対に近付かせたくない!
ハァー、ビックリさせるなよ、デスゲームと言うからビビってたのに、死ぬと言ってもリアルじゃないのかよ
それなら………………
いやいやいやいや、ちょっと待て!ちょっと待ってくれ!
もしかしてここに集められた千人って、社会的に死ぬような秘密を隠してる奴らばかりなのか!
動物の股間のアップを集める奴らと同類なのか!
違う意味で身の危険を感じるぞ!
俺は違うからな!俺は異性愛者だから!
普通に女が好きで、アブノーマルな性癖とか無いからな!
だいたい俺には社会的に死ぬような秘密なんて…………一つあるわ
バレたら本気で洒落にならない秘密がある
こ、これは不味いな、絶対に生き延びてクリアするしかない!
決意を固めていると、ピピピっとフレンドコールが響いた
慌てて右手で展開されたウインドウを前の人間の背中に移動させて隠し、チャットをオンにする
相手はフレンドのヘラみたいだ、短いコメントが書いてある……そうか!ボイスチャットは出来なくても、キーボードでのチャットは出来たんだ!普段まったく使わないから忘れていた
『マコト作戦会議しましょう』
『それは不味くないか、あの男にログを見られるだろ?』
普通は他人のチャットは見られないけれど、あいつは運営側だ、見ようと思ったら見れるはずだ
だけどそんな俺の心配は、ヘラに軽くあしらわれた
『それを言ったら、普通に喋っていてもボイスログは残りますよ、今さら気にするだけ無駄です』
『それはそうだが』
『それにあの男は、そんな面倒な作業が出来る人間には見えません』
『それには同意』
あの男、さっきからミス連発してるから、かなり抜けていると見た
それによく考えたら言動から他に仲間がいるとは考えづらいし、一人で千人のログ確認するなんて不可能だな
……でも、アカウントを遡ったとはいえ、他人のパソコンをハッキングして、自動で投下させる技術はあるんだよな
さっきの喜びようから凄腕とは思えないけど、危険なワードくらいはプログラムに監視させている可能性はあるか
『ではさっそくですが、行動方針を決めたいと思います』
『ちょっと待ってくれ、クリア方法や男に関係する言葉なんかは、プログラムに監視されている可能性がある、濁して話そう』
『その可能性は限りなく低いと思いますが、確かにゼロではありませんね。分かりました、ならば集まって話ましょう。文章と違い、危うい言葉は止められますから』
『了解した、噴水の北で落ち合おう』
『はい、動けるようになったら、すぐに向かいます』
ウインドウを消すと、ちょうど男の話も終わる所だった
一応横耳で聞いていたけど、脅しと侮辱しか言ってないから聞き流していた
喋れない相手にマウント取ってイキがる姿が痛々しくて、見てられなかったんだ
「お前らのようなクズにはクリア出来ないだろうが、せいぜい足掻くんだな!」
まるで三下のような捨て台詞を最後に、男は転移して消えた
直後に脱力してた身体がガクッと傾いて倒れそうになる、どうやら身体の自由が戻ったみたいだ
同時に周囲も賑やかになったので見渡すと、ノンプレーヤーキャラクターが現れていた
「ゲームスタートって事か、さてどうしようかな」
公園中央の噴水へ向かって歩きながら、システムウインドウを開いて、念のためにスキルやアイテムが使えるか確認する
相変わらずログアウトや外との連絡は取れないけど、他は普通に使えるみたいだ
非戦闘エリアも解除されたみたいで、今頃になって爆弾も爆発していた
「悪い遅くなった」
「いえ、こちらも今来た所ですから」
噴水に着くと、杖を持った司祭服の女が待っていた……ヘラだ、二人の男と一緒にいる
ヘラ以外は初めて見る顔で、四十歳くらいの冴えないおっさんと二十歳くらいのチャラい男だ
「彼らは?」
「このデスゲームに参加していたフレンドです、若い方が呪術師のサムで、もう一人が魔法使いのアドンです。人数が多い方が意見が出易いかと思い、声を掛けました」
「そうかよろしくな、俺はマコトでジョブは忍者だ」
「アハハハ……サムだ、よろしく」
「ふふふ……アドンです、よろしお願いします」
俺が握手を求めると、何故か笑いながら手を握って来た
そして男二人と握手する俺を、ヘラがニヤケながら見ている……こいつ腐ってるんだよな、隠す気がないから質が悪い
「自己紹介も済んだし、対策を練ろうぜ」
ヘラのねっとりとした視線に耐えきれず、先を促す
というか、男二人が俺を見て笑うのを我慢してるんだけど、何を吹き込んだ!
「ならば最初に、情報の共有をいたしましょう」
言いながらヘラは地面に杖で名前を書いた、とても見覚えがある名前だ
『クロノス』さっきまで演説していた背広の男の名前だ、正確にはトップランカーのチート野郎だが
俺は片眼鏡を取り出して頷いてやる、どうやらヘラも鑑定していたようだ
「あの背広の男を倒してもゲームクリアになるんだよな」
「はい、ですが困難な上に、約束を守るとは思えません」
「困難か?全員でかかれば殺れるだろ」
「難しいと思いますよ、あの手の輩は絶対にチート装備ですし、不意を突いても管理者権限で転移しそうです、第一自分の負けを認めるタイプとお思いですか?」
「あー……全部ありそうだし、確かに見えないな」
「ですので、他の手を提案致します」
「他のって言うと、ゲームのクリアか?」
「いえ、それも不可能に近いでしょう……死んだ二人のレベルはご覧になりましたか?二人ともテイマーでしたけど、レベルはカンストしていました」
げっ、すぐに画面が切り替わったからよく見てなかったけど、テイマーでレベルカンストしてたのかよ!
近接職でそこそこ耐久高いのに、あのサソリの攻撃では一撃死って、ゲームバランス崩壊してるぞ
だいたいレベルをカンストさせている奴は少ない、ガチ勢でもない限りカンストさせるのは苦行だからだ
今日集まった奴らも、ほとんどが中位の装備だった……かくいう俺もエンジョイ勢だ
「……あのサソリで九割は死にそうだな」
げっそりする俺とは裏腹に、ヘラはとても良い笑顔を作り
「安心してください、私に策があります。先ずは……」
とても外道な作戦を語り始めた
───
──
─
広場に残っていたプレーヤーに声を掛けまくり、なんとか二百人程集まった所でヘラの作戦を話した
本当は全員と話たかったのだが、気の早い連中がさっさと効率の良い狩場へ向かったのだ、他にもレアアイテムが復活しているかもと、回収に向かったグループもいるらしい
そいつらがクロノスに会っても、手を出さないでくれるのを願う
絶対俺達以外にも鑑定使って正体見破ってる奴いるだろうから
「……という訳で、直接攻撃をするにしても、この作戦が終わってからにして欲しい」
話終えて見渡すと、不安そうな顔が目立った
「それ本当に上手くいくの?」
「肝心の男がログインして来なかったら無意味だよな?」
「逆ギレされて、全員の秘密を暴露されたら洒落にならないぞ」
「あれが人の話を聞く人間には見えないんですが」
不安じゃないな、不満な顔ばかりだ
もっともな意見だと思う、不安要素が多過ぎるのだ……だけど俺はヘラを信じる、何故ならばあいつは……最低最悪な詐欺師だからだ!
「みんなの言う事も分かるけど安心して欲しい、この作戦を考えたのは、ターゲットと同じギルドに所属した経験があり、人を騙すのが天才的な【ヘラ】なんだから」
ヘラの名前を出した瞬間にザワつくプレーヤー達
凄いな、初心者装備の者まで顔をしかめているぞ
「ヘラって、あの男狂わせのヘラか……」
「セ◯クスしないと出れない部屋を作って、男性だけのパーティーを騙して入れた、あのヘラなの?」
「幻術でゲイバーをキャバクラに変えて、一晩で数十人の犠牲者を出した、あのヘラが考えたのか!」
「オークの軍団を男性の尊厳だけで退けた、あのヘラ様の作戦なのね!」
「おい、この作戦は本当に大丈夫なんだろうな……俺の貞操的な意味で!」
「お、俺は降りるぞ!これも本当は薔薇色な作戦なんだろ!」
「最近は名前を聞かないからBANされたと思ってたのに、なんでされてないんだよ!」
凄いな、ヘラの予想通りの展開だ、名前を言っただけで抜ける人間が続出した
いや凄くはないか、俺だって関わりたくないからな、リアルで幼馴染みだからフレンドになっているけど、そうじゃなかったら絶対に近付かない!
だけど今は人手がいるんだよな、可哀想だけど逃がすわけにはいかない
俺は男達に向かって、忠告を発する事にした
「あー、動かない方がいいぞ、後ろを見てみろ、ヘラが逃げた者は次の犠牲者にすると言って見張っているからな」
二百人が一斉に振り向くと、片眼鏡をかけたヘラがニコニコと手を振っていた
逃げ出そうと男達が、怨みがましく俺を見る
「ヘラ曰く、ターゲットの性格は熟知しているから高確率で成功するそうだ、だからみんな諦めて協力してくれ……希望者には、ヘラ秘蔵のお宝映像を提供するらしいから」(俺は絶対にいらないけどな!)
一部から黄色い歓声が響いたけど、みんなの顔は暗い
まさに、これからが本当のデスゲームだ!と言わんばかりだ
───
──
─
それから三十分程経ったが、すでに作戦は開始している
と言っても駄弁ってるだけなんだが……お題は背広の男の馬鹿さ加減と対策だ
やはりと言うべきか、俺以外もあの男にはツッコミ所が満載だと思っていたみたいで、怒涛の勢いで語られている
ヘラの作戦に強制参加させられた憤りは背広の男に向けられたみたいだ、大変盛り上がっている
「じゃあ最終的にはそれをやるとして、誰かツテがある人居るか?」
「私の叔父がそうだから、相談してみるわ」
「うはっ、夢広がりんぐ」
「あの男には感謝だな……もっとも、作戦通りに行ったらだけど」
「本当に来るのかしら?私なら絶対に来ないけど」
「ヘラの読みでは、俺tueeeeeeeを見せ付けて、ちやほやされる為に来るんだよな?」
「みんな俺に付いて来い、俺がこのデスゲームをクリアしてやる!みたいな感じ?」
「本当にやったら馬鹿だろ?怪しいってレベルじゃないぞ」
「アニメや漫画とかで、あっこいつが黒幕だな、と言われるタイプよね」
もう好き放題言っている
いや、俺も同意見なんだけどな、背広の男は自分の作戦に夢を見すぎてるんだよ
千人も居るんだから、そりゃ対応策を思い付く人が絶対出るって
因みにこの話し合いも作戦と言ったが、もし会話を監視されているならば、この時点でデスゲームは終わるはずだ
その位このデスゲームの欠点をみんなで喋って、非道な企みを話し合っているのだから
でも終わらないということは、ヘラの予想通り会話は監視されていないみたいだ……いやしとけよ!お前千人も隔離しといて放置かよ!
喋っている内容が悪口大会になって来た所で、ついに待ち望んでいた人物が現れた
そう、話題の中心クロノス本人である!
さも偶然通りかかった風を装って、こちらに近付いてくる
見たこともないきらびやかな装備を身に付けているけど、全部チート装備なんだろうな
(本当に来ちゃったよ……いや、作戦通りなんだけどさ)
(どうする、誰か代表で対応する?)
(そんなのマコトに決まっているじゃない……私は笑いを堪える自信がないわ)
(マコト頼んだぞ、俺も笑うと思うから)
(頑張れマコト、お前は笑うなよ)
(お、お前らなぁ……)
やっぱりこいつらもGESのプレーヤーだ、性格がゲスい!
でも他に適任者がいないのも事実だ、俺がみんなを集めた手前、進行役みたいな事をしていたから、話はだいたい頭に入っている
本当は口の上手いヘラにやらせたいけど、あいつは悪評が高いから警戒されそうだしな
仕方がないので俺は集団から抜け出すと、クロノスの前へと進み出て笑顔で語りかけた
「初めまして、クロノスさんですよね?トップランカーの」
「おや、僕の事を知っているのかい、まいったなー」
ウザっ!
でも話をしなければならないから、我慢して笑顔で接する
ここで最後まで会話する事が、計画の肝なのだから……まあ、失敗してもヘラに任せれば何とかなりそうだけど
「もちろん知ってますよ、クロノスさんはトップランカーの中でも目立っていて有名ですから(チート野郎としてだがな!)、それより何かご用ですか?クロノスさん程の人がわざわざ来られるなんて」
「あーそれそれ、みんなで集まって何をしてるのか気になってね……レベル上げをしなくてもいいのかい?」
デレデレな顔から一変、訝しげに問いて来た
一応は、警戒する程度の知能はあるみたいだ……もう遅いけど
「そこは大丈夫ですよ、ちゃんと考えてますから」
「大丈夫ならいいけど、なんなら僕がパワーレベリングしてあげようか?」
「は?」
「僕がここに居る全員のレベル上げを手伝って上げると言ってるんだよ」
クロノスは二百人のプレーヤーに向けて胸を張ると、芝居かかった口調で宣言した!
「みんな僕を信じて付いて来てはくれないか!僕がこのデスゲームをクリアしてみせるから!」
俺が呆気に取られていた瞬間、クロノスのカッコいい決めポーズと言葉に
「「「「「ぶっあはははははははははははははははははははは!!」」」」」
二百人の爆笑が大気を震わせた
(ちょっ、マジで言ったぞ!)
(ま、待って、笑いすぎてお腹痛い!)
(あっこいつ黒幕だな)
(ぶはっ!だからこれ以上笑わかせるな!)
(ひー、ひー、ひー!)
(おい過呼吸で死ぬな!これからが面白いんだから!)
(き、期待を裏切らないとは、嫌いになれないぜ)
「え、な、何で笑うんだい!」
「ぷっ……す、すいません、ちょうどそれは悪手と言っていた所だったんですよ」
「はあ?悪手も何も、レベルを上げてクリアするしかないだろ!」
お怒りのようだ、よっぽど自分の計画を笑われたのが堪えたらしい
「レベル上げはしませんよ、俺達はこれから全員死ぬつもりですから」
「は?」
間抜け顔で固まった
さあここからがヘラの作戦の醍醐味だ、気合い入れろよ俺!
「死んでリアルに戻ったら、全員で運営を告訴するんですよ、もちろんクロノスさんも御一緒出来ます、みんなで慰謝料を分取りましょう」
「え?………………ま、待つんだ!慰謝料とか取れるはずがない!犯人が誰かすら分かってないんだぞ!」
いやバレバレです、証拠の片眼鏡越しの動画もあるから、あなたの顔も名前マル映りです
とはいえ、クロノスには最後まで聞いてもらわなきゃならないから、バラすわけにはいかない
「いや、間違いなく運営の人間でしょう?仮に運営が関与してなくても、俺達を危険にさらした責任はありますよ」
「そ、それでも、たかが個人情報の流出くらいでは、告訴は難しいんじゃないのか」
「何を言ってるんですか、個人情報は元より監禁、脅迫、殺人未遂で役満ですよ」
「さ、殺人未遂ってなんだ!そんなのやってないだろ!」
「え?最初に言われたじゃないですか、五年以内にクリアしないと脳ミソがボロボロになるって、これは間違いなく殺人予告ですよ」
「違う!あれは……」
「違いませんよ、第一あの背広の男はログアウトを封じてデスゲームをすると言っているんですよ、完璧なサイコパスじゃないですか、みんな死を覚悟しましたよ」
クロノスがうっかり口を滑らせそうになったかろ、慌てて口を挟む
こいつ、ヘラが言ってたよりメンタル豆腐だな
「いや、あれは社会的な死の意味で……そ、そうだ!死んだら社会的に死ぬような秘密が撒き散らされるんだぞ!それでもいいのか!」
「大丈夫ですよ、あれは背広の男の捏造ですから」
「は?」
「先に死んだ二人も、背広の男が盗撮した写真を張られた被害者ですよ、俺達の秘密も、全部背広の男がやった事なんですから」
「……ま、まさか」
「はい、全部背広の男に擦り付けます、俺達のパソコンにはハッキングされた痕跡が残っているでしょうから、身に覚えがないと言い張ります!」
ニッコリ笑う俺に、クロノスの顔から一気に血の気が失せた
「ま、待ってくれ!そんな事をしたら」
「まぁ、背広の男は破滅でしょうね、自分の変態行為を他人に擦り付ける為に、千人を監禁して殺そうとしたんですから……普通に極刑になりそうですね」
「そ、そ、それは、男が、か、可哀想じゃ、な、ないかな」
真っ青な顔で言ってるけど、悪い、可哀想なんて欠片も思わない
でもここで全員死ぬのも、本当はリスクが大きいんだよな
クロノスは気付いていないけれど、状況証拠から秘密が真実だとバレる可能性が高いんだ
先に死んだ二人なんかモロにそうだ、普段から動物の写真を撮っていただろうから、絶対にバレる
だからこのデスゲームは、背広の男に負けを認めさせる必要があるんだ
「そうですかね?まあ、一度だけチャンスをやろうという意見も少数だけどありますけど」
「そうだチャンスをやるべきだ!どんな人間にも更正する機会を与えるべきだと僕は思うぞ!」
「うーん、クロノスさんがそこまで言うなら、一度だけチャンスをやりますけど……駄目だったとしても恨まないでくださいね」
「大丈夫だ恨まない!それより早くチャンスをくれ!」
もう言動だけでアウトだよ
こんなんでよくデスゲームやろうと思ったな……どんだけお花畑なんだよ
「分かりました、と言っても背広の男が聞いてるのを前提で叫ぶだけですけどね、十回叫んでも開放されなかったら告訴します」
「絶対に聞いているから、早くやってくれ!」
了解ですと言って、俺は大きく息を吸い込んだ
【背広の男ぉぉ聞いてるかぁぁぁぁぁぁ!今すぐ俺達を解放しろぉぉぉぉぉ!しないなら殺人未遂で告訴するぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!】
ふぅー、と叫び終わってクロノスを見ると、走って去って行く所だった……あ、転移した、エフェクトが無いから管理者権限の転移だな……もう隠す余裕もないみたいだ
さてどうするんだろ?と思っていたら
一時間後、全員にメッセージが届いた
『今回はGESの新サービス《デスゲーム》βテストへの御協力ありがとうございました。テストプレイの報酬としてSR確定ガチャチケットを十枚進呈致します。』
「「「「え?馬鹿?」」」」
二百人の呆れ声が綺麗にハモった
これで誤魔化せると本気で思っているんだろうか……頭を抱えながらもメールを閉じると、俺達は元のサーバーへと転移させられた
たった数時間のデスゲームは、こうして終わりを告げたのであった
───
──
─
あれから半年、デスゲームに参加した千人は運営から示談金を貰う事になった
正直思っていたよりも少額だったけど、一人当たり一年は豪遊出来る金額を手に入れた
うん、俺は一言も解放したら告訴しないとは言ってないんだよな
というか、大量のリアルマネーが手に入るのに、それをしないGESプレーヤーはいない!表沙汰にしなかっただけ温情だと思ってくれ
もっとも俺達の秘密のデータは回収したし、男がGESのバージョンアップに紛れ込ませていたバックドアは塞いでもらったけどな
犯人はクロノスのアカウントから特定が楽勝だったとだけ記しておく
その後クロノスがGESに現れないから、ようやくBANされたみたいだ……リアルの男がどうなったかは知らないけど、運営の社長がマジ顔で「沈めます」と言っていたから、只では済んでいないだろう
……うん、あれは怖かった、示談金が少なくても誰も文句を言わないのは、絶対にあれのせいだ
さて、そんな済んだ話よりデートだ!
GESは自由度が高いと言ったのを覚えているか?そう、このゲームではお互いがOKしたらエッチな事が出来るのだ!
フルダイブとはいえ仮想現実だからか、お遊び感覚でやらせてくれる女性が多い
これが俺の秘密だったりする
リアルに彼女いるけど、ここで関係を持った女性は両手じゃ数えきれない……バレたらリアルで刺されかねないな
一応言っておくけど、中身は間違いなく女だ、ナンパに成功したらリアルの声を聞かせて貰って確認しているから
身近にヘラみたいな女がいると、用心深くもなるんだ
という訳で、今日は昨日ナンパした女の子とシッポリするんだよ
ふっふっふっ、相手も乗り気だしたっぷり可愛がってやるからな、覚悟しとけよ!
★★★
とある喫茶店の片隅で、鼻息荒く動画を見ている三人の女性がいた、ヘラとデスゲームに参加した女の子二人である
二人はヘラに頼み込んで、秘蔵の動画を観賞中なのである
「ヘラ様、これって攻めてる男性は全部、あの人ですよね!私何回かナンパされたことがあるから、女性しか興味ないのかと思ってました」
「クロノスを嵌めた人ですね、確かマコトと名乗ってましたけど、知り合いじゃなかったんですか?」
「ええ、知り合いと言うか……リアルで妹の彼氏なんですよ」
「え!妹さんの彼氏をこんな目にあわせてるんですか!」
「なるほど……彼は両方いけたんですね」ゴクリ
「ふふふ、これ、マコトには全員女性に見えているんですよ」
「見えているって……まさか、幻術ですか?」
「でも、触感でバレるんじゃ」
「むしろバレる事を前提にしているのですけど、中々気付いて貰えないんですよ……ほらここなんて、お尻に胸の映像を投与してるんですよ」
「ぶふっ!お尻にむしゃぶりついてるのは、そういう事だったんですね!」
「ひ、酷い……でも捗る!」
「ゲームと言えども、妹に不義理を働く彼に罰を与えたくて始めたのですけど……いい加減、私から真実を告げるべきなんでしょうか?」
「ぶふふふっ!確かにこんなもの見せられたら、二度と浮気しませんね」
「もう少しだけ続けません?ストックが多い方が、きっと彼も目覚めると思うんですよ!」
「目覚められたら妹に怒られるのですが……そうですね、なら、お二人のお声をお借りしても宜しいかしら」
「声ですか?」
「いくらでも貸します!」
「はい、関係を受け持つ男性は二人いて、アバターを毎回似た体型にしてもらっているのですけど……出会った時に中身も女性だと信じて貰う為の、リアルの声を担当してもらう女性が不足してまして」
「そんな事で良ければ喜んで協力します!」
「私もです!ですから新作もよろしくお願いします!」
「ふふふ、こちらこそお願いしますね」
ニッコリ微笑むヘラによって、マコトは最低あと二回は騙されるのが確定した
知らぬが仏ということわざがあるが、マコトにとって、これは救いなのであろうか……色々な意味で、ゲスい話である
……もっとも、身から出た錆と言ったらそれまでだが
マコト氏ねは、ナイスボートされなかっただけ温情。また一部フェチに対してディスる表現があった事を謝罪します