表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

序章、或る日の追憶(終)

 「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!! 『断・罪・剣』ッッ!!!」

 「ぐぅおおおおああああぁぁぁぁッ!?」


 ジオの大剣がより一層に強い光を放ち、その刀身を伸ばす。

 ジオの繰る退魔の剣・キャリヴァーの真なる力が魔王アルデバランの身体を飲み込み……

 その場の誰もが目も開けていられぬほどの眩い光が収まると、そこには。

  

 __剣を振り切った体勢のジオと、地に倒れ伏したアルデバランの姿があった。


 「ぜぇ……ぜぇ……やった……のか?」


 剣を杖代わりに、ジオが荒い息をつく。

 何やら不穏な発言に聞こえたが……魔王の身体が、光の粒子となり消え始めていた。


 「ぐ……ぅ、やってくれたな、勇者ども……!!」

 「何ッ!?」


 だが、魔王はまだ喋る。

 五人はその体に鞭打ち、戦闘態勢をとるが……


 「はッ……もう身体など動かん。そう構えるな……」


 魔王は立ち上がることはなく、ただ心底悔しそうな声を絞り出すだけであった。


 「……今回、我は敗北した……お前たち五人の奮戦もあるが……一番大きかったのは、その扉の前で一人戦った男だ。まさか、城の戦力全てを相手取り、あそこまでやるとはな……

 ……まったく、イレギュラーな存在だった」


 ここでようやく、再びアランの身を案じる思考の余裕が、五人に生まれる。

 今すぐにでも安否を確かめに行きたいが……目の前の魔王がある限り、油断などできようはずもない。

 だが、そんな警戒しきった五人に、呆れたような視線を送る魔王。


 「まったく……我のことなど構わず、ヤツの所に行ってやれ……

 ヤツは敵だが、敬意を払うべき人間だ___」


 そう言い残すと、魔王アルデバランの身体は急速に光の粒子と化し、その身体を消滅させた。

 瞬間、ジオは、バネが圧力から解放されたかのように、玉座の間から外に出る唯一の扉に駆け出す。

 他の四人も、その後をついて行く。

 全員満身創痍で、何故まだ動けるのか疑問なほどであったが、そんなことはもはや些事。

 アランの安否の確認が、今何よりもやるべきことなのだから。


 

  

 「アラン……ッ!!」

 バンッ、と乱暴に開け放たれた扉の音が、静寂が支配する廊下に響く。

 ジオたちは恐る恐る、廊下の様子を確認して……


 「す……ごい……何、この数……!?」

 ミリアムの口をついて出た言葉が、五人の共通認識だった。

 廊下を埋め尽くすのは、死体、死体、死体__

 数百……ひょっとしたら千以上もの魔人・魔獣のバラバラ死体。

 その断面は非常にきれいで、ずっとアランの技を見続けた五人は、それがアランの仕業であることが一目瞭然であった。


 「……ッ!! そうだ、アラン!!」

 いち早く我に返ったジオが、アランの姿を探す。

 その言葉に、同じく我に返った四人も、その地獄絵図を見渡す。

 すると、少し遠くの、ひときわ大きな魔獣__その首から先が近くに転がっている__を背に座り込む、見覚えのある人影が。

 その人影は、自分たちの怪我が可愛く見えるほど全身ボロボロであったが、五体満足で、その肩を呼吸で上下させている。


 「アランッ!!」

 ジオたちは死体を踏み越えて、アランの下へ向かう。

 近くで見たアランの姿は、遠くで見た時よりも弱弱しかった。

 全身血まみれ、傷だらけ。

 そんな赤黒い光景の中映える純白の手袋が、この軍勢の大半を滅したなど、彼を知らない者には思いもよらないだろう。


 「ジオ……その声は、ジオか……?」

 その見た目通りの弱弱しい声と共に、俯いていたアランが顔を上げる。

 その双眸には、何か鋭利なもので切り裂かれた跡があった。


 「嘘……アランさん貴方、まさか目が……!?」

 「エリスか……ああ、まるで見えん。気配だけで戦うのは少々、無理があったな……」

 

 その衝撃発言に対する驚きもつかの間、ミリアムがあることに気づく。


 「あ、アンタ……もしかして、毒くらった……!?」

 「ああ、やっぱり毒だったのか……あの蜂かな……いや、あのさそりかも……」


 人間よりも嗅覚の優れた獣人が、毒のにおいを嗅ぎつける。

 その毒は何重にも重複されていて……まだ生きているのが、不思議でならなかった。


 「お、お前……え、エリス、回復魔法を!! ありったけ……!!」

 「は、はい……!!」


 そんなアルトのあまりに弱い命の灯を何とか繋ぎ止めようと、エリスが回復魔法を使おうとするが……


 「エリス、やめろ……お前、もう魔力限界だろ……お前が死ぬぞ」

 「で、ですが……!!」

 「はは……死に場所くらい選ばせてくれ。俺はもう……十分だ。お前たち、だけでも……」

 「「「……ッ!!」」」


 その言葉に、五人は息をのんだ。

 アランの要求……それは即ち、自分以外の全員の無事帰還。

 その表情はどこまでも穏やかで、心からそれを望んでいることが伝わる。

 そして五人の動揺はどこ吹く風と、アランの言葉は弱弱しく……しかし力強く紡がれる。

 

 「そうだ……ごほッ……!! 最期に、お前らに言いたいことが……」


 「やめろ……」


 「さっさと片付けて加勢に行きたかったんだが……しくじった。悪い……」


 「やめてくれ……」


 「……だが、お前たちがここに居るって事は……やったんだよな? 信じてたぜ……」


 「やめてよ……ッ!!」


 「……今まで、俺みたいな血みどろの暗殺者アサシンを仲間って呼んでくれて……嬉しかった」


 「やめて……ください……ッ」


 「だが……忘れてくれ。俺なんかの死で、今回の功績に禍根が残るなんて、バカげてるからな」


 「もう……喋るでない……」


 

 


 俺は、意識が薄れゆくのを感じながらも、最期の言葉を振り絞る。

 

 「はッ……意外と俺、しぶといな……? んじゃあ……ごふッ……! もう少し……」


 「アラン……ッ」


 「ジオ……怒るなよ? お前たちが魔王を討つまでは……持ちこたえたからな……」


 「……ッ!! バカ野郎……!!」


 ジオが涙ながらにそう言ったのが、もはや使い物にならなくなった耳で、最後に聞いた言葉だった。



 「そんで、エリス……間違っても、俺に復活魔法リザレクションなんて掛けるなよ……?」


 「……ッ」


 エリスが図星を指され、動揺するのが、見ずとも感じられる。


 「……俺なんかに、お前の寿命を使うなんて、ナンセンスだ」


 「アラン……さん」


 

 「ゲイル……帰ったらお前、嫁さんと子供に構ってやれよ……? 二年もほったらかしてんだからな」


 「…………」


 「家族……俺がずっと、欲しかったものだ……大切にしろよ……?」


 「アラン……お前……!!」


 普段強面のゲイルの顔は、今や涙でぐしょぐしょだった。


 

 「シドの爺……はッ、まさか俺が、アンタより先に逝くとはな……」


 「アラン……お前さんってヤツは……」


 「せいぜい、長生きしろよ……俺の分までな……」


 「…………」


 

 「最後……ミリアム……ぐ……ッ!?」


 「あ、アラン……!?」


 「あ、ああ……はッ、間の悪……い……」


 個人的には、これが一番言い残したかったんだがなぁ……

 お前とは犬猿の仲で、くだらん口喧嘩ばっかしてたが……


 __ずっと、お前の事、好きだったんだ__



 「あ、アラン……? アラン……ッ!?」


 ミリアムが肩を揺さぶろうとアランに触れると、その身体は、力なく地面にくずおれた。

 ミリアムはしばらくの間硬直し__その頬を、涙が流れ落ちた。


 「うぅ……アラン……アラン……ッ!!」

 

 ミリアムの涙が、アランの顔にポツ、ポツと雨粒のように落ち、弾けた__




 この日、暗殺者アラン=ハイドは世を去った。仲間たちに看取られながら。


 その死に顔は、痛々しい身体とは裏腹に、穏やかに微笑んでいたという____

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ