序章
これは昔ただ一度だけ見た
僕の夢のお話
誰かと遊んでいる。
相手は・・・女の子?
揺れる水色の髪がとても美しい。
跳んだり跳ねたりと忙しないが、その動作一つ一つに強い愛しさを覚える。
彼女といるだけで嫌なことを全て忘れてしまえるような、そんな心地だ。
名前すら知らないのにずっと、このままでいいと思えてしまう。
そう思った刹那、僕の視界は暗転した。
待ってくれ。出会ったばかりじゃないか。まだ彼女と・・・
そう思ったが、視界は暗くなるばかりでどうにもならない。
彼女はまだ笑っていた。真っ暗な世界の中で。
次の瞬間、僕は全く見知らぬ世界にいた。
なんでだろう・・・体の自由が効きにくい。というかありえないほどに体が小さい。加えて視界も暗いし狭い。これはまるで・・・そう、赤ん坊。ベビーカーの中にいる赤ん坊みたいだ。
話し声も聞こえる。どうやら誰かと誰かの親達が談笑していうようだ。おそらく片方は僕の両親だろう。しかしもう片方は・・・?
抱いた疑問はすぐに消えた。向こうの親達がひいているベビーカーの中の人物を見ることによって。
そう、彼女だ。
名前も知らない。性格もわからない。唯一知っていることと言えば髪が水色だということくらい。
その彼女がすぐ近くにいる。
「ーーーーー!!!」
必死に呼びかけるが声が出ない。そんなことすらできない年齢なのか・・・?
「ーーーーーーー!!!!」
それでも必死に叫んだ。きっと彼女ならわかってくれる。僕がここにいるって。また出会えたって。
だけど彼女はこっちには全く気づいてないようだった。
なんで・・・?ほら、ここだよここ!こんなに近くにいるじゃないか!なのにどうして・・・
もしここで彼女に気づかれないままだったら・・・
そんなことが頭の隅をチリっとかすめたその瞬間、とてつもない恐怖感と虚無感に襲われた。
何故だろう・・・このチャンスを逃したらもう二度と会えなくなってしまうような・・・そんな気がする。
だから必死に叫んだ。彼女に気づいてもらうため。そして彼女と一緒にいるために。
しかし、世界はそこまで甘くなかった。
どうやら大人達は別れの挨拶をしているらしい。彼女を乗せたベビーカーがあちらを向いてしまった。
そんな・・・?嘘だろ・・・?ここまできたのに・・・?
無情にも彼女は少しずつ遠のいていく。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
待ってくれよお願いだから!!
そう願うも、当然世界は応えず、彼女を連れ去って行ってしまった。
そして再び、確実に向こうへと進んでいく彼女を見る視界は暗くなっていった。
絶望と大きな穴だけを残して。