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夢の中の世界

作者: 自然人
掲載日:2019/07/02

僕はいつも夢を見る。

それはひどく退屈で苦痛で不自由な夢だった。


「ムクル、おはよう。」

「ムクル、起きて。」

近くで女の子の声がする。

目を覚ますと僕はベッドの上にいる。


明るい日差しが部屋に差し込んでいた。

目の前にいたのは、リリーだった。

少ししかめっ面をしているが本気で怒っているようではない。


「ムクル、早く起きてよ。今日は川までいく約束でしょ。」

「あぁ、そうだったね。」


僕は、また退屈な夢を見ていたようだ。

悪夢の残像を振り払い、布団から身体を起こす。


僕はベッドから出ると部屋の窓からリリーと一緒に飛び出した。

今日も暖かくいい天気だ。


羽を使って地上に降りると玄関から自分の家に入る。

「おはよう、母さん」

「おはよう、ムクル。あら、リリーちゃんも」

母さんはにこにこしながら僕とリリーの朝ごはんを用意してくれた。

ロイヤルゼリーのお団子だった。


僕は、父と母と妹の4人暮らし。

年齢は15歳。一人前までもう少しといったところ。


リリーも僕と同じ15歳。

近所に住んでいて、いつも僕にとても親切にしてくれる。

性格は明るく、ぱっちりした目にスッと尖った耳。見た目も可愛い。

頭も良く気も利いて、一緒にいると楽しい気分にさせてくれる子だった。


僕たちは朝食を食べ終わると川に向かって飛び立った。

僕は生まれてからずっとこの街に住んでる。いつも綺麗なこの街は大好きだ。


一年通して暖かく、それでいて涼しい。心地よい気候。

緑が多くて、木や花も楽しそうに生きている。

この街に住んでいる妖精たちはそこまで多くない。


リリーと一緒に川に向かって飛んでいると目の前にエルがやってきた。

「おはよう、ムクル、リリー」

「おはよう、エル」


エルは一つ年上のお姉さん。

僕の家からはちょっと離れたところに住んでいる。

スラッと背が高くしかっりした性格だ。ちょっとクールなところもあるけど、

綺麗な子だった。。


この街の女の子達は綺麗な子ばかりだ。

それでいて性格もいい。ここではそれが当たり前だ。


「今日はリリーと川に行くんだ。」

「そうなの。いいわね。2,3日したら私と東の秘境まで冒険に行かない?」

「秘境か、いいね。行こう。楽しみだな。」


僕の周りにはかわいい女の子の妖精がたくさんいた。

それでいて、みんな僕とのデートを楽しみにしている。


羽を使って飛べば疲れることなくかなり遠くの場所まで行ける。

僕の毎日は美味しいものを食べ、女の子の妖精達と遊び、

たまには図書館で気になる事を調べたり、一人で昼寝をしたり、自由気ままで楽しい毎日だ。


ただ、最近ひとつ困っていることがある。


それは、夢を見ることだった。ほとんど毎日見る夢だ。

とても変な夢だった。


夢の中でも世界があり、僕はそこの住人だった。

家族もいるし歳もとる。そこはそこの世界として成り立っているのだ。


本当に不思議な夢だ。


そもそもこの妖精の世界には夢というものはないらしい。

父さんに聞いても母さんに聞いてもリリーに聞いてもエルに聞いても

他の誰に聞いても夢なんてものは、今まで一度も見たことがないという。


でも、逆に夢の世界の住人たちは眠っている間に夢を見るのが当たり前だと言う。

夢という概念を僕は向こうの世界で学んだのだ。


こちらの世界にはあって、あちらの世界にはないもの。

それはたくさんある。


何もかもが違うのだ。


夢の中の世界はひどく退屈だった。

僕は朝起きて、学校というところに行かされ読み書きを強制される。


しかも遠いために電車という乗り物に乗って学校まで行っていた。

その電車はひどく混んでいた。


しかも、朝早い為に毎日寝不足だった。

向こうの世界では羽がないから飛べないのだ。そもそも誰も羽を持っていなかった。


学校というところは楽しい場所ではなかった。

夢の世界の住人たちはいがみ合いが多い。


読み書きでいい点数を取れば陰口を言われ、逆に悪い点数だと馬鹿にする。


走りたくもないのに無理やり走らされたり、歌を歌わされたりもした。

不思議な事に誰もそれに異論を唱えなかった。

楽しくもなさそうなのに皆一律にそれを行う。

そして、行うことに疑問も抱かないようだった。


そして何をしても常に競争させられていた。

読み書きは誰が一番で、かけっこは誰が早くて、歌は誰が上手く歌えて…。

そして、何かあると集団で批判する。

そもそもここの住人たちは性格がひねくれていた。

弱いものを見つけると攻撃した。弱いものいじめが大好きだった。


こちらの世界は自由があまりなく、いつも拘束されているのが当たり前だった。

学校という場所で読み書きを習うときも、指定の席がありそこに拘束され、

少し立ち歩こうものならお説教をされた。

学校にいる間は基本的に自由な行動が禁止されていた。


夢の世界にも父さんと母さんはいた。

妖精の世界の様に優しい両親ではなかった。

口を開けば勉強しろとしか言わない人たちだった。

面倒なのであまり関わらないようにしている。


とにかく窮屈で決まりが多く、つまらない世界だった。

だから僕は眠るのが嫌だった。

いつもこの夢を見るからだ。


最初は小さかったのだが、夢の世界でも僕は成長し、年齢も妖精の世界と同じ15歳になっていた。

一体いつまでこの夢を見るのだろう。

夢の中でもそのうち大人になって、家族を持って、老人になって、死んでいくのだろうか。


妖精の世界でこの話をしても誰も信じてくれなかった。

それも当たり前だろう。こっちの世界とあっちの世界では違う事が多過ぎる。


一度この話をしたときにリリーが面白い事を言っていた。

「ムクルの夢の世界の人たちって不幸になりたいのかしら。」

「自分で不幸な気持ちになる事ばかり選択しているような気がするわ。」


「あぁ、確かにそうだね。本当にそうだ。」

僕はリリーの言う事に妙に納得させられた。


川ではリリーと一緒に泳いだ。


楽しかった。

純粋に泳ぐことを楽しんだ。

手足を動かし、水の中を進む。その行為自体が楽しかった。ただそれだけだ。

意味があるとしたらこの行為それ自体に感じる喜びだ。


リリーの泳ぎは綺麗だった。リリーの美しい泳ぎを見て、ただ美しいと思った。

ただそれで幸せだった。美しいものを見て美しいと感じる。

その気持ちになれたこと自体が幸せだった。


別にくたくたになるまで競争したりはしない。

競争して一番になったからそれが気持ちいい。勝った事に意味がある。

向こうの世界の人たちはそう考える人が多かった。


小さい頃から競争ばかりさせられ、その行為自体に喜びを感じられなくなってしまったのだろうか。


泳いだらお腹が空いた。

近くに美味しい木の実がなっている場所がある。リリーとそこに行くことにした。


リリーと一緒に木の実を食べた。

たくさん泳いだあとの木の実は格別だった。


美味しいと思える事が幸せだし、僕にあるのはそれだけだった。

美味しそうな顔をして食べているリリーを見るのも幸せだった。


夢の中の世界のお父さんとお母さんは、食事の時に幸せそうな顔をすることなど滅多にない。

無言でテレビという映像機器を見ながら食べているか、口論をしているかのどちらかだ。


大切な人の幸せな顔を見るのは幸せではないのだろうか。


そもそも大切な人だから結婚をして一緒にすんでいるのではないだろうか。

当時はそうだったが、今は違うのだろうか。


お互いが、同じように考えられるのなら、お互いが幸せになれるような気がするのだが。

それは違うのだろうか…。


昨日は向こうの世界で絵を書く授業があった。

僕は純粋に絵を描く事を楽しんでいた。絵を描くという行為は大好きだった。


そしたら、先生が僕の絵を見て苦い顔をして、○○君を指差しこういったんだ。

○○君は画が上手いから、○○君を見習って描いてごらん。


ひどく嫌な気持ちになった。


ここでは絵を描く事を純粋に楽しむ事は必要ではないらしい。

ただ、この世界で上手く見られるような絵を描く必要があるらしかった。


そして僕らの描いた絵にはそれぞれ点数が付けられた。


低く付けられた生徒達が馬鹿にされた。

ここの奴らは本当に愚かだ。年齢を重ねるにつれてそう感じることが多くなった。


木の実をお腹いっぱい食べるともう夕方だった。

リリーを家まで送ってから僕は自分の家に帰った。


明日は用事があった。


僕だっていつも遊んでいるわけではない。

小さいころから建物を建てるのが好きで、今では皆の家造りを担当している。

それはとても楽しく好きな作業だった。

そして家が完成するとみんなに喜んでもらえた。


僕の家造りはどんどん上達していると自分でも思う。

お師匠も良く出来たといつも褒めてくれる。


ここはこうした方がいいんじゃないかというときは、冷静にそう言ってくれる。

僕も納得すれば素直にしたがい、考えが違うときはそう伝えた。

そして、お師匠の考えをもう一度聞く、それはとても楽しいことだった。


向こうの世界の住人は不機嫌にそれを伝える。

どうしていちいち、不機嫌になったり怒ったりする必要があるのだろうか。

最初から全てわかっていて出来る人なんていないのだから。


そして反論しようものなら特に酷くなる。

両親や先生は殆どがそうだ。

だから、「はいはい」と聞いているふりをする。


疲れていて眠かったが、眠るとまたあの夢を見てしまう。

それが憂鬱だった。

しかし、段々とまぶたが重くなってくる。僕はベッドに倒れ込んだ…。



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