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『いやぁぁぁああっっ!!お父さまっ!
、、お父さまぁぁぁっ!!!』
目の前で女の子が泣いている。
『人殺しっ!!なんでこんなっっ!!!
人殺しっっっ!!!』
目の前の女の子がこっちを睨んでいる
その目に映るのは『僕』
九重肆郎だった。
肆郎は少しばかりお金持ちの家に生まれた。
名前の肆も四代目という意味だった。
家を継ぐのは明白で、両親、祖父母に厳しく育てられた。
気に入らない事をすれば殴られ
気に入らない振る舞いをすれば寒空の中外に放り出され
気に入らない時に笑えば泣くまで殴られ
気に入らない時に泣けば泣き止むまで殴られた。
そこから学んだのは
『言われた事を言われた通りにしている時は殴られない』
だった
相手の望んだ事をし
望んだ通りの振る舞いをし
望まれた時に笑い
望まれた時に泣いた。
そんなある日、
本当にいきなり目の前が変わったかと思うと
異国の服を着た人が言う。
『貴方は勇者として召喚されました。
魔王を倒してください』
と
肆郎は今まで通り、言われた通りに
魔王の城に行く事にした。
行き着くまで言われた通りに魔獣を倒しては
『ありがとう』
『倒してくれてありがと』
魔獣を倒しては
『ありがとう』
『倒してくれてありがと』
と言われ続け、レベルもメキメキ上がり
魔王の城に行き着いた時には歴代の勇者の中でも
群を抜いて強くなっていた。
そして、
あっさり魔王に打ち勝ちそうだった。
『くっっ!!、、、どうした?
早くトドメをさせ、、、』
致命傷を与えたものの、今までの言葉の通じない魔獣
相手とは違い、意思疎通ができる魔王に対して
トドメを刺すことに戸惑いを感じた。
そんな時
バァァン
扉が開いたと思うと1人の女の子が走ってくる。
『お父さまっ!!』
『アリーチェ来るんじゃないっ!!』
もう動くのも辛いであろう魔王は
女の子に逃げるように言うが
言うことを聞かないとわかると
肆郎から守ろうと必死に女の子を抱き込む。
『お父さまっ!!死なないでくださいっ、
私は一人ぼっちは嫌です!!
嫌なんですっお父さまぁぁ!!!』
『勇者よ、、どうか娘の命だけは、、
これは宝物庫の鍵です。なにとぞ、、、
なにとぞ、、、、ゴフッ』
魔王は娘の命乞いを始め
こちらに向かって鍵を差し出す。
『いやぁぁぁああっっ!!
お父さまっ!、、お父さまぁぁぁっ!!!』
『人殺しっ!!なんでこんなっっ!!!
人殺しっっっ!!!』
その時
肆郎は本当に魔王を倒していいのかと
考え悩み立ち尽くす。
『何を言う!魔王は悪であり、神の教えに反する!
我が国の敵である!娘諸共皆殺しだ!!』
『『『そうだ!皆殺しだ!!』』』
肆郎が惚けている間に国の兵士は次々と2人に襲い
かかり魔王は打ち倒され、娘も命を失った。
死してなお、魔王は娘を守ろうと離さなかった。
肆郎の胸に何か言いようのない感情ができた。
肆郎が国に凱旋するとみんなが口々に言う。
『ありがとうありがと』
『魔王を倒してくれてありがとう』
『魔王を殺してくれてありがとう』
『人殺しをしてくれてありがとう』
あんなに娘を思う人間を僕は殺した。
人を殺してしまった。
しばらく肆郎は与えられた部屋から出られなかった。
ただただベッドの上で布団にくるまり考えた、
自分で考える事を放棄してしまったことで
取り返しのつかない過ちを犯してしまった
どうしよう
どうしたら
自分がわからなかった、
考えてこなかったからわからない。
コンコン
部屋に閉じこもって何日かたったある日、
扉を叩く音がした。
扉の向こうから声がする。
この国の王様だった。
無視することもできない相手だったので扉を開ける。
「おぉ、勇者よ話があるのじゃが、
その前に風呂と食事をすますのじゃ。」
久しぶりのお風呂に入り、食事をとることによって
ほんの少しだけ落ち着きを取り戻した肆郎は
王様の話を聞いた。
「勇者よ、魔王の討ち取り大義であった。
次は隣の国を滅ぼしていただきたい。」
肆郎は思った。
何を言っているのだろうと、
魔王だけではなかったのかと、
肆郎は考えた。
人間を殺すことはもう嫌だと。
「私にはもうできそうにありません。」
国王は肆郎がいつものように頷くものだと思っていたの
だろう、不思議そうな顔で聞く。
「?何を言っておる。勇者とは害なすもの
すべてを滅ぼす存在であるべきだろう?
次なる魔王を倒さずにいるとは
どういうことか??」
なぜ自分がこの世界に呼ばれたのかわかった気がした。
『望むように動くモノ』が必要だったのだ。
だが肆郎はもう考え悩み始めた
『人』になっていた。
(僕にはもう同じ生き方ができない)
ここから逃げようと思った。
椅子から立ち上がると
自分の知りうる限りの
この国から1番遠い所に『転移』した。
南を目指した。
魔王がいた根城は王国から北にあり、
南を目指したのは自分の罪から逃げたかったのだろう。
『転移』で現れたところから肆郎は
ひたすらに毎日魔力が尽きるまで『飛行』し、
川の水をすすり、草を食べ、ガムシャラに南を目指した。
たどり着いた先は、小高い山の上で
見渡す限り緑が綺麗なところだった。
肆郎はそこからしばらく動かず、空を見上げた。
夜になり
朝になり
夜になり
朝になり、、、
答えは見つからない。
ただ、自分が思うように生きてみようと思った。
そこで何年か過ごし、そして
蒼に出会った。
のほほんほのぼのな話を早く考えたいです。