誘惑のお作法
「おねーちゃーん」
呼ばれて振り返ると、狭い部屋の中になんとか二台置いているベッドの一つで黒のレースの下着姿で体をくねらせる幼馴染の姿が!
「……なにやってんの」
「秘技!色っぽいポーズ!どう?ムラムラしない?」
「するかボケェ」
「ひどい!」
思わずはぁっ、とため息をつく。
この子は……ほぼ女子高状態だった母校の商業科に私の二年遅れで入って、出てきた幼馴染は、家元を離れるために(当時)一人暮らししてた私の部屋に押しかけてきてから時折こういうおふざけをする。
そういえばこんなおふざけを始めてからこれまた二年くらいか。
時が経つのは早いなぁ、と若干感慨深くなる。
「おねえちゃん……怒った?」
思わず腕を組んでふんす、と鼻息を吐きだした私を、心配そうに見上げる一対のつぶらな瞳。
その奥には、確かな恐れがあって、私はそんな眼をするならするんじゃないの、と言いたくなる。
でも、口を突いて出るのは別の言葉。
「怒ってない。呆れてるだけ」
「ほんと?」
「ほんと」
そういってから、服を着るように促す。
ワンルームの部屋はエアコンの暖房で温められていても、やっぱりどこかうすら寒い。
風邪ひくよ、といってあの子が乗ってるベッドに腰掛ける。
「それにしてもさぁ」
「……ん、なに?」
ぴょこんと淡いピンクのセーターから顔を突き出したあの子に、つい口を滑らせる。
「誘惑するんなら初めの頃の、ベッド入れてなかった時の「おんなじベッドで寝ていい?」の方がどっきりしたよね」
「何言ってるのおねえちゃん!?」
自分で自分の心臓を掴んだような感覚。
顔を真っ赤にして私を見つめるあの子。
僅かな沈黙を挟んで、どうせならこの勢いで行ってしまえと自分に発破を掛ける。
「あのさ」
「……うん」
「自分がさ、恥ずかしくないっていうか、冗談に出来る範囲で誘惑されてもこっちも冗談にしかできないよ」
「う」
「本気で相手をしてほしいなら、ちょっとくらい恥ずかしいのは我慢しなさい」
「うー……!」
多分、今あの子はそんな事言われても―って顔してる。
言ってる私だって、こんなこと言って本気でモーション掛けられたらどうしようって思っているのだ。
あ、ダメ。
自分で顔が熱くなるのが解る。
はー、なんてこといっちゃったんだろう。
後悔しか出てこない……。
そんなことを考えてたら。
背中に寄り添う柔らかい身体の感触が。
耳たぶに吐息が掛かる。
「でも……真面目にアプローチしたら応えてくれるってことだよね?お姉ちゃん」
そう言われて、耳たぶがはまれる感触。
あ、これやばい奴……。
「おねえちゃん……好きだよ。お姉ちゃんは、私の事、好き?」
「……じゃなきゃ同居させないよ」
「やった!」
その後めちゃくちゃ押し倒された。