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桜の帰り道  作者: soyo
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意味の無い影

なんとなくはっきり見える影

早朝の教室に一人。まだ暗いけれど、電気は点けてない。その方が、今だけの、私だけの空間を肌で感じられるから。ゆるゆると教室を歩いて、なんとなくカーテンを閉めてみた。廊下側とベランダ側の両方を閉めたけど、あまり暗さは変わらない。

満足したから、今度は黒板の長さがチョーク何個分かを測ろうとしたら、少し遠くから足音が聞こえた気がして、廊下へ視線を移した。カーテンに歩く人の影が映った。その影はカーテンの端へ消えたけど、おかしい、影の主がいつまで経っても教室の戸の小窓に見えない。廊下側のカーテンを開けて、廊下に顔を出してみるけど、誰もいない。私の教室は一番端で、影の行き先はここか非常階段だけ。でも、非常階段のドアは内側から鍵が掛かっていた。


桜子と放課後の教室。

「影の主は、どこに消えたのかな」

私は、いちいち朝の動きを再現しながら話した。桜子は、一番戸に近い席に座って聞いていた。

「廊下の端まで歩いたら、匍匐前進で廊下を引き返すの。そうしたら、カーテンに影を映さずに帰る事ができるわ」

「誰がやるのそんな事!」

「でも、否定しきれる? 影の映る透明人間よりは、現実的だと思うけど」

「影が見切れたのを見て、廊下に出るまで10秒も無かったの。匍匐前進で帰るには少し時間が足りない、と思う」

「ひとまず、帰りましょ」

桜子はすっと立ち上がって、教室を出ようとした。

「何か分かったの?」

「なーんにも」

桜子は、とてもとても意地悪な笑顔でそう言った。


廊下には8つの教室があって、4つ目と5つ目の教室の間には渡り廊下が通っている。遠回りになる訳では無いけど、いつも帰りには使わないその廊下を桜子は選んだ。廊下の中程で、

「あそこが貴女の教室ね」

と、桜子が窓の先を指さした。確かに、ここからでも教室が見えた。

「あら、吉野さん。今朝も随分早く登校してたわね」

国語のスギナ先生だ。

「はい。いつも通りです」

その言葉を聞いて、桜子が聞いた。

「朝のあれは、見つかりましたか?」

「あ、ええ。結局カバンの隅に入ってて......どうして?」

「いえ。なんとなく」


桜子との帰り道。

「ねえ、スギナ先生の探してたあれって何?」

「さあ?」

桜子は、本当に知らないようだった。

「どういう事?」

「私は、早朝の学校で物を探した人が居たのを知ってただけよ」


桜子の語る真相はこう。

私が見たのは、私の教室の前ではなくその隣の教室の前の廊下を通る生徒の影。影の主は隣の教室に入った。

スギナ先生は今朝、渡り廊下で探し物をしていた。暗かったから、懐中電灯を使って。すると、教室の廊下の方に、人影が見えたので、その正体を確かめようと光を当てた。渡り廊下から斜めに当たった光は私の教室のカーテンに影を映した。

今朝の私が早く登校しているのを知っているのは、教室のカーテンが閉まっているのを見ていた人だけで、暗い中に影を映すには光源が必要な事から、スギナ先生が探し物をしていたと推測できる。


「スギナ先生には、貴女の奇行の方が余程ミステリーに見えたでしょうね」

桜子は呆れた顔で言った。

「意味も無く行動する事もあるよ」

「その内、廊下の端まで歩いて匍匐前進で帰るなんて事もするかもね」

「しないよ!」

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