見えない鍵
見逃す筈の無い場所に、無かった筈の鍵を見つけた。
私、吉野百合は朝が早い。正確には、平日の朝が。一限目の授業の頃には、十分に目を冴えさせておきたいだけで、他にする事も無いのだけど、登校するのも人よりずっと早い。こうして言葉にしてみると、閑散とした教室の中を散歩するのを、少し楽しみにしてたのかも知れないけど。ただ今日は、いつもと違う。奇妙な事が起きた。
「彼女はいつも通り、朝早くに登校した。教室に誰もいないのを見ると、戸に手をかけて鍵が掛かっている事を確認して、職員室に鍵を取りに向かった。しかし、そこに鍵は無く、仕方なく帰ってきた。するとなんと、先程閉まっていた戸に鍵がささっている。不思議そうに、鍵を回すと確かに開いた。彼女が鍵を取りに行った数分の間、廊下には他に誰も見えなかった。なら一体どうやって、この鍵はここに現れたのだろう。」
「どう思う?」
「その彼女っていうのは私の事よね?」
「でも、嘘は1つも無いの」
声の主は、わざとらしく困ったような顔をして、念押しした。
真相はこう。
犯人は語り手。1番に学校に来て、語り手の教室と私の教室の鍵を取って両方の教室の鍵を開けて、ベランダの鍵も開けた。そして、私の教室に入って内側から鍵を閉めて、ベランダで隠れて私の来るのを待った。私が鍵を取りに行ったのを見てから、ベランダを通り、語り手の教室から廊下へ行き、鍵を刺した。廊下には誰も見えなかったのも、犯人は自分なのだから、矛盾しない。
「どうしてそんな事するかなあ」
「だって、たまには探偵役をしたいって言ってたじゃない」
彼女は楽しそうに、いつもみたいな、不敵な笑みを浮かべた。
「簡単すぎるよ! 桜子!」