疑えば目に
猫の幽霊、噂の正体は?
最近、学校で猫の幽霊が出るって、皆噂してる。
そこかしこの教室で、黒猫の目撃談がある。近づくとパッと廊下に逃げて追いかけると姿は見えなくなる。鰹節やら、猫缶を廊下に供えてやると、次の日にはなくなっているらしい。他にも、3つの尻尾を付けてるとか、鏡の中へ消えていくだとか。面白がって尾ひれをつけて、今や学校で知らない人はいない程大きな噂になっている。
馬鹿みたいな話だけど、もっと奇妙なのは噂の発端。話の元を辿ってみると、どうやら猫の幽霊だって言い出したのは桜子らしい。桜子は幽霊なんて信じないし、ましてや、こんな下らない噂を吹聴するなんて絶対考えられない。
放課後の校舎。噂の規模からして、桜子1人が発信源って訳じゃなさそう。それなら、少なくとも目撃談には実体験が混ざってる筈。黒猫に見紛える仕掛け、若しくは現象。あてはないけど、1階から総当りに、学校中探し回ってみる事に....ん?
廊下の先に黒い影、見つけた! 走って寄ると逃げて行く。階段をすごい速さで駆け上る。私が2階についた時にはもう姿はない。息を切らしながら、丁度そこを通りがかった生徒の女の子に尋ねる。
「今、ここ、幽霊、通ったよね?」
「幽霊?」
その子は不思議そうな顔をするだけだった。まさか本当に....? いやいやそんな訳....ないよね?
桜子との帰り道。
事のあらましを話すと、桜子は、あははと楽しそうに笑った。
「笑ってないで教えてよ! 私が見たのは何だったの?」
「見た通りよ」
「幽霊だって言うの?」
「猫よ。貴女が見たのは猫、ただそれだけ。幽霊を見た人なんて誰一人いないわ」
桜子の語る真相はこう。
校舎に迷いこんだ野良猫を保護した人が居たらしい。でも、学校で野良猫を世話するなんて、誰かに見つかったら追い出されてしまう。そこで、相談にのった桜子は、学校に猫の幽霊が出るという噂を流した。
もし猫が見つかっても、幽霊か、そんなの信じない人には見間違えか悪戯だと思われる。猫の幽霊の正体が、まさか本当に猫だとは誰も思わない。桜子は、校舎の中を気ままに歩く猫を、噂の中に隠した。
「疑えば目に鬼を見るって言うけどさあ。鬼を見ても疑ってるだけってのは早計だったかな」
「貴女は幽霊に怯えてたでしょ?」
ニヤニヤ顔で、揶揄う桜子。
「ち、違うよ!」
桜子が関わってなかったら、絶対信じなかったのに、と言っても負けな気がするから、もう何も言わない。そんな事も見透かした様に
「分かったわ。そういう事にしときましょ」
と、桜子はまた悪戯に笑うから、ため息が出た。
「それじゃ、また明日」
「また明日」