消えた教室
確かに、ここには何もなかったのに
桜子と図書室。テスト期間だから部活動は休みになってて、周りは時間が止まったように静――あ。
「教科書忘れた!」
桜子がビクってした。可愛かった。
「取ってくるね!」
教室は4階で、階段を走るとかなり疲れる。誰一人見えない学校って、少し不気味と思ったら、踊り場に張り紙を貼る人が見えて、ちょっと安心した。
教室は階段を上がって左、1番奥。鍵は空いてる。目当ての物を持って、また帰る。
「お待たせ、桜子。そろそろ帰ろ――課題のプリント!」
泣きながら、また教室へ走る。なんでこんな急いでるんだろう。階段を上がって左、1番奥の教室、の、鍵が閉まってる。おかしいと思って教室の中を見ると、机が1個もない。というか、何もない! 信じられない事に、そこに確かにあった物が全部霧のように消えた。
「という事だから、課題はやらなくてよくなったの」
「馬鹿言ってないで、早く取りに行きなさいよ」
「なかったんだもん。どうして教室が消えたの? それが分からないと取るものも取れないよ」
「それじゃ、一緒に行きましょ」
桜子が、呆れた顔をして立ち上がった。
各階の踊り場に、オカルト研究会設立の旨が示された張り紙があった。こいつらの魔術じゃないだろうな......
「ここね、やっぱり普通じゃない」
桜子の言う通り、確かに、そこには教室があった。目当てのプリントも。そんな筈はと思ってもあるものはあるのだ。
「ほら、用も済んだ事だし、帰りましょ」
「うん......」
桜子との帰り道。
「私が見たあの空の教室は、一体なんだったのかな」
「貴女の教室の真下、3階、廊下奥の空き教室ね」
「私が、階を間違えたの?」
「それしか考えられないでしょ。オバケや魔術の方がいい?」
「でもなんで、間違えたりしたんだろ。踊り場には、その階を示すプレートだってあるのに。オバケかなあ」
「オバケは、それを信じる人が見せるものよ」
桜子は不敵に笑った。その表情と、風に靡く長い黒髪が映えて、ちょっとドキっとした。
桜子の語る真相はこう。
オバケの正体は、踊り場に張り紙をしていた人。私は初め、あの人を3-4階の踊り場で確認した。行きも帰りも同じ場所に居た為、私は無意識に、その人を4階の目印にしたらしい。急いでいる人は、周囲の細かい事に目が届かないから、1番目に付く情報を、考慮の余地なく信じ込むんだと。都合の良い情報なら尚更。もう階段、登り疲れてたでしょ? って。でも2回目に来た時は既に上の踊り場の張り紙は済んでいて、1つ下の階にいた。だから私には3階が4階に見えた。
「どうしてそんなに急いでたの?」
「んー、なんでかな。ああ、桜子とちょっとでも長く一緒に居たかったからかも」
「何よそれ」
桜子はまた呆れたように笑った。
「それじゃ、また明日」
「また明日」