第一話、キス
初めまして、熊之丸といいます。
もう少し、エロスな表現ができたらよかったのですが…という部分がございますが、大目にみてやってください。
あと、文章がひどかったりもします。かなりの稚拙ぶり。これから頑張っていくので、僕の成長も一緒に楽しみながら読んでくだされば幸いです。
△誤字脱字がございましたら、ご報告いただけると幸いです。
人は幸福か不幸かの二択に分かれる。
だが、幸福だと感じる人間は人口の半分にも満たない。
本来、幸福も不幸も一定の平等なのだが、人間には少々認知しずらいものなのだろう。
誰もが、日常に落ちている小さな幸福を見落としている。
だから人間はこう言うのだ。
「不幸だ、と」
人間は幸福には鈍感だが、不幸には敏感だ。
まったく、人間というのは傲慢な生き物で、醜い生物だぜ。
「でも、それでいい」
僕は暗闇の中でニヤリと笑った。
第一話、キス
板西晴男。
彼は生まれながらに幸福な人間だった。
転んだ先はいつも柔らかな草の上だったり、駄菓子屋で買うアイスは必ずアタリ。
大切にしているマグカップを落とした時だって、ヒビの一つも入っていなかった。
彼の幸福は日常の中にいくつも発見される。
そう、些細な幸福はいくつもある。…が、稀に、命に係るような幸福だって起きる。
板西晴男は、高校生である。
通学手段は電車。 もちろん、幸福な彼だって寝坊するときはある。
駆け込み乗車はいけないことだが、遅刻しそうなとき、彼はホームへ繋がる階段を走る。
一本でも早い電車に乗り、一分でも早く学校につき、遅刻を免れるために。
板西晴男は真面目なのだ。
だが、同時に、幸福男でもある。
彼が寝坊した時点で世界はおかしいのだ。
幸福男であるはずの板西晴男が遅刻する訳がない。
だが、時間はあと十分しかないのだ。
板西晴男が通っている高校までは二十分はかかる。
物理的に間に合わない。
だが、幾度となく同じことを言うが、彼は幸福男だ。
遅刻なんて、するはずがない。
だが、物理的に間に合わない。
ここでクエスチョンだ。 時間がないのに、彼が遅刻しない理由を五文字で答えよ。
答えは、
『電車の遅延』だ。
彼がこんな状況の時、決まって彼の乗る電車が遅延しているのだ。
さすが幸福男の板西晴男くんだね。
彼のそばには、いつもそうやって幸福が付きまとっているのだ。
だが。
今日という日は違った。
まるで地球が手のひら返ししたように板西晴男を突き飛ばしたのだ。
「え……」
いつもなら目覚ましが時間どおりに鳴り、清々しい朝を迎えるはずだった。
寝坊したとしても、忘れ物なく家を出られるはずだった。
忘れ物をしても、それを取りに行っている間、転ぶはずもなかった。
転んだとしても、痛くないところでいつもは転んでいたはずだった。
遅刻しそうになっても、いつも電車が遅延してくれているはずだ。
板西晴男は、少しの希望と大量の不安を胸に、ホームへと繋がる階段を勢いよく下る。
彼も少しは「いつもと違う」ことに気付いていただろう。
階段を下っている最中、アナウンスが聞こえた。
ホームにはこれから電車が来るみたいだった。
「いつも通り」なら、その電車に間に合って、無事に遅延で遅刻は免れるはずだった。
「今日は『いつも』じゃないんだぜ?」
「え?」
板西晴男に声が届いた瞬間、彼は階段から足を踏み外し、そのまま誰かに押されるようにして線路へと身が投げ出された。
本来なら、転んだとしても、かすり傷さえ負わない幸福男の彼が、電車のホームの階段で足を踏み外したくらいで、誰がこんな事想像できるだろうか。
階段も線路とは平行に備え付けられているので、誰かが押さない限り、そちらへ転ぶことはない。
板西晴男は体が宙に浮いている間、幸福だったころの映像が、走馬灯のように頭に流れた。
そして、彼の視線の先で最後に見たものは、騒ぐ人ごみの中、驚く顔や青ざめる顔の中に、
橙色のよく似合う、ショートヘアの女の子が、不敵に、甘美に、恍惚な表情を浮かべて笑っている姿だった。
「!!!!!!!!」
勢いよく目が覚める板西晴男。
人間が意識を取り戻す瞬間はピクリと動いてくれるものだからわかりやすいものだね。
「ん!? んんんん!!!?!??!?」
起きて早々、変な声を上げる彼。
僕はうるさいのが嫌いなんだよ。ピーピー騒がないでくれたまえ。
「んっは!!」
彼の唇が酸素を欲していた。
起きる前から口づけをしていたので無理もない。
人間には酸素が必要だからな。
僕は一度話してやった唇を、今度は角度を変えて再び重ねた。
「んむ………ッ…」
唇を重ねれば相手の行動は自分にも伝わってくる。
今が緊張状態であること。唾液が通常以上にあふれていること。舌の動きが鈍い彼は、そんなに多くのキスをしたことがないのであろう。
初心な少年だ。
そして数十秒ののち、僕の肩が引き離されるように押される。
唾液でぬるぬるになり、混ざり合った二人の唾液が、一本の細い蜘蛛の糸のように僕たちを繋いでは、儚げにちぎれた。
「あ、あなたは…誰ですか……!?」
肩で息をしながら、僕に問いかける板西晴男。
その表情はたまらなくなまめかしいものだった。
赤面し、目はうつろ。 キスなんて初めてだったのに、こんな激しいのなんて耐えられない…!
と、言っているように僕は見えた。
「失敬だねぇ、さっきホームで目が合ったじゃないか」
ニヤっと、ニヒルな笑いを見せつけてやると、彼は思い出したかのように、口を大きくパクパクさせた。
「そ、そうだ!! あの時!! あれ!? なんで俺生きて…!?」
ひどく錯乱しているように見えた。
僕は死んでも、死なないから、自分が死にそうになったらこんな反応はしないので、少し新鮮だ。
だが、少し煩わしいな。
「沈まれ」
僕のその一言で板西晴男は、本人もびっくりするほど落ち着きを取り戻した。
「君は僕に飼われているんだ。何も不思議なことじゃないさ。飼い犬がご主人様の命令を聞くのは当然のことだろ?」
「!」
そう、僕はなんでも彼のことがわかる。
なぜなら僕は、
「初めまして、板西晴男くん。僕が、君のご主人様、
魔女のカロンちゃんだぜ☆ よろしくね」
オレンジ色のくせ毛のショートカットのよく似合う女の子は、魔女と名乗りました。