招待状3
「放送機材は?」
「たしかまえに処分したはず」
「それでは、面接をはじめます」
おれと梅宮の会話を部長がさえぎる。
「ほら、梅ちゃんもこっちね」
机をはさんで、三人の面接官が座っている。中央に部長。右手に梅宮。左手に青木先輩。
「はい不採用。今後のご活躍をお祈りもうしあげます」
青木先輩は、ぼりぼりスナックをたべていう。ふんぞりかえって、おれの目もみない。マジゆるせん。
「そんなカッコしてると、下着みえますよ」
「殺すぞ」
「すんません」
「で、わが社の志望動機は?」
「筋トレしたくて、そしたら、梅宮さんが紹介してくれました」
「なるほど、縁故採用ね。そういう不正、ゆるせません。不採用」
「なぜ筋トレをしようとおもったのですか?」
「筋トレはひとをポジティブにするときいたからです。ぼくはすこしネガティブなので、どうにかしたいとおもいました。妹から鍛えるようにいわれたのも、理由のひとつです。また、充実した筋トレ用具にも魅力を感じました」
「妹がいるんだね」
「ネガティブなひとは不要です。不採用」
こいつ不採用にしたいだけだろ。
「梅宮専務の話によると、化学の実験中にまで筋トレへの意欲を示してらしたようですが」
「はい。……わすれたいことがあって」
ほう、と部長が身をのりだした。
「わすれたいことって?ほら、おしえなさい。運命共同体なんだから」
こちら側にやってきて、肩に手をまわしてくる。金髪から日なたの香りがする。
「おねーさんにおしえなさい。ね?」と顔をちかづけて、おれの瞳をのぞきこむ。
「その、ですね。親父がリストラにあいまして。いまは、なにも、かんがえたくないので。ちょうどいい機会だな、と。これなら、筋トレに打ちこめるんじゃないか、と」
部長から目をそらして、きれぎれにいう。なんとか笑おうとする。口の端がひきつって仕方ない。
薄暗い放送室が沈黙で冷えていく。スナックをほおばる音だけが鳴る。
「重すぎでしょ。不採用」と、先輩が指をなめていう。
「えーっと。……今回の件は、やっぱりなしで」
おれはだまってドアノブをひねる。廊下は夕焼けで濡れていた。
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