招待状2
こんこん。
こんこん。こんこん。
第二放送室のドアは静まりかえっている。ノブをまわしても、カギが掛かっていて開かない。
こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん、こん。
「やかましい」
こつん、と後ろからこづかれる。
ふりむくと、金髪の女が見下ろしていた。でけえ。
「あ、あの、おれ」
「きいてるよ。ほら、どいて」
ドアのまえにたつと、こん、ここん、こん、こん、とリズミカルにノックする。
「あたしだよ」
もういちど、こん、ここん、こん、こん、とノックする
しばらくすると、がちゃり、と音がした。
金髪の女につづいて入る。
さびれた部屋に、うずたかく積まれた筋トレ用具。プッシュアップバー。ダンベル。腹筋ローラー。エキスパンダー。邪魔だといわんばかりに、部屋の片隅によせられている。
そしてなにより。
「バタフライマシン……」
あんなものをみせられたら、大胸筋を鍛えたくなってしまう。はやくあそこに座りてえ。胸板に負荷をかけてえ。あのバーを開いたり、閉じたりしてえ。
「このひとが?」
「きみ、松木くんだよね?おーい。……なんかトリップしてるけど」
がちゃり、とドアの閉まる音。いっきに部屋が薄暗くなる。
「筋トレ部にようこそ、松木くん。……松木くん!おい、松木!」
「いてっ!あ、ああ。すんません」
「あたし、部長の新堂礼ね。よろしく。きみの名前はきいてるから、いわなくていいよ」と金髪がいう。
「『君の名は。』、みた?」と黒縁眼鏡の女が、金髪にいう。おれを見もしない。
「しょーもなかったね、あれ。ま、いつもどおり、お寒い恋愛コメディだったよ。つーかほら、自己紹介して。……この子、青木つかさ。人見知りだけど、仲良くしてね」
青木先輩は無言で部長の足を蹴る。
「こんなかんじで、照れ隠しするから。あと、脱ぐとすごいよ」
はじめて青木先輩と目が合う。殺意に満ちた目。おれなにもしてねーじゃん。
「ふたりしかいないんですか?」
「梅宮と、あとふたりいる。五人だね」
部長のよこで、先輩が舌打ちする。かんぜんにチンピラだ。
「依存されないようにね。こういうタイプは、たぶんデレると監禁して一日中……」
殺意が噴きだす。しかもおれに向く。それをたのしむ部長は畜生。まちがいない。
こん、ここん、こん、こん。
「おつかれさまです」
「お、梅宮。この子でいいんだよね?」
「きてくれたんだ」と、梅宮がいった。
「ここは、どういう……?」
「筋トレ部にようこそっていったでしょ?部長の話はきくように。きみは筋トレ部のホープとして、ここに召喚されたってわけ。部の存続は、きみにかかってるからね」と、部長がいった。
「はい?」
「まずは部屋の入り方から。このリズムね」
こん、ここん、こん、こん、と机をたたく。
「どういうこと?」と梅宮に訊く。
「どういうことって、どういうこと?」
「いや、部の存続だの、筋トレ部だの」
「ごめんね、松木くん。とにかく、話は入ってもらってからってことで」
なにその既成事実つくっとけ、みたいな姿勢。
「そんなわけで、よろしく、松木くん」
そんなわけで、おれ、筋トレ部に入部しました。
しました。