クビになった中年
「筋トレしてーぜ」
「すればいーじゃん。ジムとか行ってさ」
「金がねえ」
「バイトでもすれば?」
「高校生の本分は学業だろーが」
「いーじゃん。帰宅部なんだし。そのままバイトいってよ。邪魔だし」
「なんつー妹だ」
「そんなにひょろくていいわけ?」
「だよなあ」
「ま、筋肉ダルマはキモいけど、すこしくらいは鍛えておけば?」
「たけーんだよな。筋トレ用具買うにしてもさ」
「ねえ、なにあれ。キモいんだけど」と、さつきが毒づく。
リビングに入らずに、ドアのまえでたたずむ人影。さつきはソファーにふんぞりかえって、不機嫌そうに鼻をならした。父さん、とドアのむこうへ叫ぶ。
「はやくして」
無表情でソファーにやってくる親父。まんなかに座るさつきと、片隅に座らされたおれを交互にみる。なにもいわない。
「話ってなに?」と、目もあわせない。
親父はさつきの詰問調に、口ごもりながらも応えた。
「クビになった」
「はい?」
「会社、クビになった。すまん」
「ええええええええええええええええ!」
「うっそおおおおぉぉおぉぉぉぉぉぉ!」
こうして、おれの高校生活が色を変えた。
はじまりはいつもとつぜん