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ふんずまり、どんずまり

 翌朝、朝食の場にエマは現れなかった。


 宗弥はまだ寝ているのかと思って部屋を訪ねてみたが不在だった。荷物はまだ置いてあった為、まだ遠くにはいっていないだろうということは分かった。


 実家には帰っていないだろう。ならば、なんとなくこの町で一人でぼんやりできるところを探すことだろうと推測した。


 まっすぐ、騎竜達の巣のある崖まで向かうと切り立った崖の上にエマは一人で座っていた。


 後ろから見て深く崖の底をのぞき込んでいるような気がした。


 宗弥は何だか既視感を覚えた。もうどうにもならなくて、問題解決の方法なんてたくさんあるのに、いよいよそれしか選べるものがないと錯覚して、線路に飛び降りたあの時の自分と重なるものを感じた。


「飛ぶのか?」


「飛ぶ? このあたしが? まさか」


 振り向かずにエマは言った。


「あんたは飛んだのか?」


「飛んだ。そんな訳で今ここにいる」


 宗弥は結局自分がなんなのかよくわからなくなって現状を打破できないと思い込んだ結果、列車に飛び降りて死んだ。


 辺り一帯にエマの哄笑が響き渡った。空を滑空していた竜たちも驚いてエマの方を見ていた。


「バッカじゃねーーの?」


 泣き笑いみたいな顔をしながらエマは振り返った。


 何がそんなにおかしいのだろうと思うが、前後不覚になって飛び降りて自殺をしてこんなところでやり直している。それも必死に。おかしいね宗ちゃん。


「おはよう、エマ。昨日ヒューゴをけしかけたのは僕だ」


「だろうな」


「みんなに昨日あったことと、これからエマがトーナメントにでることの二つを話した。その上でヒューゴがエマの弱点を分かっているみたいだからお願いした」


「……それで、満足したか? あたしの無様な姿が見れて」


「それぐらいにしないと、話聞いてくれないかもって思ったから思いっきりやってもらった。今回の敵に関しては僕の推測が正しければかなり手ごわい」


「敵……兄貴がか?」


「いや、トウタさんは厳密に言えば敵じゃない」


「どういうことだ?」


 宗弥はナイアの事を話した。


 ファヴニール、ノーライフキングに匹敵する伝説の魔獣の一体。


 誰かに寄生する形で顕現し、人の力をコピーして人格をトレースし、人を扇動する陰謀屋。


 単体で戦ったとしても強く、何人かの強いところだけ組み合わせた状態を作ることが出来る。


 前回の戦いではヨシュア以外の全員を倒して、最後はヨシュアと壮絶な一騎打ちを繰り広げて光の中へと消えていった。


「そいつをあたしが倒すっていうのか……ひいばあちゃんでさえ倒せなかったやつを?」


「そうさ」


「出来るわけねぇってそんなの……」


 伝説を見る限りはナイアはヨシュア以外を一切寄せ付けずに圧倒した。マリアもその一人であった。


「……ひょっとしてエマはひいばあちゃんを超えられないって思っている?」


 エマは石のように固まってこちらを見ていた。意識をしていない弱点にヒット! やったぜ!


 ひいばあちゃんことマリア・バレーという思い出があまりにも鮮烈だったんだろう。マリア並という評価に満足はしているがマリアを超えることにこだわりはない。


 つまり、エマはマリアになりたかったのだ。


「超えらんねぇだろ……できねぇ。できねぇよ……」


 エマの声は信じられないぐらい小さかった。目をそらし、手に入っていた力も抜けていく。終わりだと思っていた先にさらに先に行けと言われたのだ。


「出来るさ。大丈夫、君なら出来るさ」


「お前なぁ!」


 エマは宗弥の胸倉をつかみかかり一気に引き寄せる。思った以上に強い力で引き付けられたが、アルカイックスマイルを崩さずに保った。


「根拠のない励ましならいらない」


「根拠はね、ぶっちゃけ無いんだよ」


「無いんかい」


「でも君のおかげで僕は生きている。そんな恩人があったこともない君のひいばあちゃんを超えられないなんて考えられないんだよね」


「お前ってやつは……」


 呆れ切った目でエマは見てくる。


「僕の話をしても良い?」


「勝手にしろ」


「結果から言えば、僕は普通に生きていくことも止めて自分で自分を殺したんだ」


 思い出したくもない思い出話。


 良いことが無かった人生という訳でもない。普通に生きて、普通に人生に負けた男の話。


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