トーナメント参画に向けて
宿泊している宿屋のレストランに到着すると、ヒューゴ、リーズ、ドミニクの三人は遅めの昼食を食べていた。
「おかえり。……どうしたの?」
ドミニクが聞いた。
無理もない。隣に連れているエマは文字通り死人のようだった。あの後開かれた昼食会でも何も食わず、飲まず食わずにただ茫然とそこに存在していた。帰るときにしても宗弥が帰ることを促して、ようやくここまでやってくることが出来たのだった。
エマは何も答えずにそのままふらふらとした足取りで部屋へと帰っていった。
「ちょっとほっといてやってくれるか、初めて人に負けたショックは大きいみたいだ」
宗弥はテーブルに着くと、「あーすいませんとりあえずビール」と注文を飛ばした。
「待ってエマが負けたってマジ?」
ドミニクが聞く。
「エマは今日実家に行って次の当主の発表があった。その折になんやかんやあって、向こうの当主のエルヴィン様と戦うことになって負けた。というのがさっきまでの出来事さ」
「なんやかんや……」
リーズが薄目でエマが去っていった方向を眺めているが、おそらくリーズの想像通りのことが起こった。
「相手はよほどの手練れなのですか?」
「ざっくりとした感じだけど、エマの技術と速さにヒューゴの力強さ足したみたいな感じだ」
「そんなやついんの?」
「それがいたんだよね。ただ、そいつは人間じゃないかも知れない」
「人間ではないと申しますと……?」
ヒューゴがいぶかしむようにこちらを睨む。
「この間のノーライフキングの一件を思い出して欲しいんだけど、あの時一時的にやって来たリャンという僧兵はあの事件が解決するまでの間人間では無かったんだよ」
宗弥は話した。
リャンが何者かの憑りつかれている間、とてつもない技量ととてつもない加護術式の厚みを持たせることが出来たということであった。リャンに憑りついていた何者かがいなくなったあと、クラリッサの協力を得てテストを再試してみたところ、格闘技術も加護術式も専門家からすれば並程度のものであった。それでも並立させるのはかなり優秀ではあったが、リーズやエマが欠けた場合に穴埋めとしてはかなり厳しいものだった。
「その化け物ってのは、誰かに憑りつく事でその化け物が知りうる何人かの人間の性能を取り入れて、憑りついている人間の記憶を継承しながら意図したとおりに操ることが出来る。そういうものだと思う」
「ナイアですね。ヨシュア戦記にも出てくる、百の貌を持つ魔人……」
リーズが言った。
ヨシュアが戦っていた大ボス。最後にはヨシュアの力を使って町一つ消し飛ばすほどの激闘を繰り広げたうえで光に包まれて二人が消えて世の中に平穏がもたらされた。
「僕の推測も同じだ」
「ナイアですか、ヨシュア戦記の印象ですと最後にいきなり出て来たような印象を受けますが」
ヒューゴが愛読書でのナイアの立ち位置についての印象を語った。
読み返す限り、唐突に最後に出て来てヨシュアの味方に憑りついて最後の戦いに出た。
「やつの本分は陰謀屋だ。あらゆる戦いを人の中に入って煽ったり、事件を起こしたりしながら出来事をコントロールする。本来は姿も見せずに、自分のコントロールした罠に嵌めて相手を倒したいはずなんだがね」
ヨシュアの時は、事件の黒幕をたいてい引き受けて、最後はヨシュアと光の中へと消えていった。モリアーティ教授かよ。
「そんな戦いをコントロールなんて芸当できるのかよ?」
ドミニクが率直な感想を寄越した。
「これまでの戦いを思い出してみなよ」
宗弥はこれまでのことをざっくりと解説した。
アイトの村でのファブニールでの一戦。
徐々に頭角を現し始めた辺りで古龍に擬態したファヴニールの討伐。ギルドの上部組織の軍ぐるみで宗弥達をハメて全滅をさせる算段だったが、宗弥が企みに気が付いて討伐を果たす。
ラサでのドミニクの王位継承の一件。
これに関しては、黒化する瓶と陰謀によって王位継承の儀式伴ってのドミニク暗殺の画策と、隣国との開戦。これに関しては作戦を完全に読み切って先手を打つことが出来た。結局、隣国の攻勢に関してもあの弓矢一本で終わり、一部の軍の過激派の暴走ということで共和国が賠償金を支払うという話で決着した。
ガレリアでのノーライフキングとの一件。
これに関しては完全にしてやられた。リーズとヒューゴをリャンを使って宗弥から分離して、ノーライフキングをぶつけて倒すつもりで居たがリーズとヒューゴが完璧にたたき伏せた。ただ、宗弥対ナイアという構造の対立構造に関しては負けていた。
そして今回の件に関しては、パーティの心臓部であるエマを無理やり引き出して封印するという試みだろう。
「なるほど? じゃあ、トーナメントなんかやめて逃げちゃえば良いんじゃないか?」
「そうなると、僕たちも社会的な地位やバックグラウンドも全部失うことになる。最終的にはジリ貧になって最終的には全員逮捕さ」
「となると、今回のトーナメント何が何でもエマさんを優勝させないといけないんですね……」
「そういうこと。僕としてはその戦いでナイアを直接叩き潰せる機会だとも思っているから。これも頭と尻が決まった勇者のお仕事だね」
さっきの戦いを見る限り、またヨシュアとの戦いを互角以上に戦った能力を見る限り、勝ち目があるように思えないが、何としてもエマを勝たせない限りは先に進むことが出来ない。
「ただ、正直僕は戦いに関しては素人だ。嫌がらせは得意なんだけど、あんまり役に立たないからね。なんでちょっとみんなには協力してほしいんだけど……」
「まあ、言うこと聞かないよね」
ドミニクが言った。
エマは基本的に人の言うことを妥当だと判断しない限りは聞く耳を持たない。あれやれ、これやれと言ったところで今のエマには何も学べはしないだろう。
「分かりました。一つアイディアがあります。宗弥さん、後で打ち合わせできませんか?」
長い沈黙の後でヒューゴがそう言ったのだった。




