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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
1話 異世界転生しても結局働き詰めで死ぬ
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決戦、ガディングル討伐

 作戦開始。


 クラリッサが念話で全員を繋ぎ、加護術式をエマにかける。これによってクリスちゃんが生きている限りは、念話で全員が意思疎通が取れて、エマの身体能力が向上する。


 エマは最前線の森で待機、クラリッサと宗弥はゴール地点にあたる崖の上で待機。目の良いレンジャーのクラスの人間は挑発と観測のために森の木の中で待機。それ以外の人間は全員宗弥とクラリッサの近くで爆薬の設置を行っていた。


「あいつ、紹介者としては大したことねーって思うけど、クレリックとしてはなかなか良い腕してんな」


 その場で跳躍しながら、加護術式である『宿りし、神の肉体』の効能を確かめる。


 大して期待はしていなかったけれども、クラリッサの加護術式はおよそ一流と呼べる効果があった。それをそこまで消耗もなくやっていた。クラリッサの援護が受けられたのはこの場でも最も幸運なことだった。


 足音が聞こえて来る。それとともに、木々がへし折られて倒れていくのも分かる。地鳴りと、木や、枝が折れ行く音がだんだん大きくなってくる。


 見えた。


 遮る木枝をなぎ倒しながら、鈍く光る金色の猪、ガディングルが現れた。


 響き渡るいななき。お前を殺してやる。そう言っているように聞こえた。


 先制攻撃エマは握っていた弓を引き、ガディングルに放つ。


 当たりはしたが、矢は額にあたって弾かれた。鋼の如き硬さの毛布を安物で貫けるはずもない。


「まあ、それはそうだよな。出し惜しみは無しで行くか」


 エマは弓をもう一度つがえて、放ったが、結果は同じことだった。


 所詮は貯蔵してあった安い武器で大した効果も期待していない。


 ガディングルこちらへと歩いてきながら、じっくりエマへと狙いを定める。


 エマは持っていた弓矢を捨てて、逃げ出した。すぐに黒猪があたりの木々をなぎ倒しながら、土砂崩れのように襲いかかってくる。


 エマは全力で振り返らずに走り続けた。


 神の体を付与していても、木々をなぎ倒しながらであろうとも、ガディングルのほうが早い。災害から走って逃げるようなものだ。


 追いつかれ始める。指定したポイントを突破。エマは指笛を鳴らす。


「いっち、にぃ、さんっ!」


 六つの方向から一斉に放たれた弓矢が突き刺さる。


 エマはあらかじめ、自分の通過するルートのすぐ近くに何人か伏せさせておき、一点を狙うように指示、三つカウントをしたら撃てと指示していた。


 至近距離から浅いながらも突き刺さって、猪が減速して立ち止まる。ただ、弓を射ったレンジャー見習いたちも一矢だけ放って全員逃げている。これも指示通り。


 ガディングルはどれを攻撃するか迷っているのと、トップスピードから停止させることが出来た。


 エマはカウントをつづけて十までカウントすると立ち止まり一挙に後ろを振り返った。


 腰に差した『風鳴りの刃』を取り出す。小ぶりなナイフに、魔術の術式が付与されたものだった。

 ガディングルの目をめがけて、狙いを付けて投げる。静かに、無駄なくいつも通り、練習通りに投げる。


 風鳴りの刃は風の力が元から付与されたナイフだ。投げれば風の推進力を得て、加速して目標へと走る。


 ただ自動的に目まで飛んでいくわけでは無い。


 飛ばすためには鍛錬が必要だ。練習通りに投げる。それが重要で、毎回同じことを再現する。ただしルーティンにも時間をかけすぎてはいけない。


 スッと引いて、スッと投げる。一見まっすぐ飛んでいくような放物線を描いて目をあるいはその近くを穿つ。


 投げる。風の力で加速し、戸惑っていたガディングルの眼球をものの見事に貫いた。


「おっし」


 喜ぶのもつかの間、全力で逃げ出す。


 ガディングルの悲鳴のようないななきが響き渡り、痛みから回復するとエマへと狙いを定め、再び追走する。


 隠れていたレンジャー見習いが止めてくれた分と、エマが投げた分とでガディングルと再び差がつく。もう一度猪が走り始めるまでに、最初に付けた差と同じだけの差をつけた。


 森を抜けてこの山の入り口にあたる谷にさしかかる。


「いいぞ、そのまま、あたしだけ追いかけてこい」


 迫り来る足音を聞きながら、エマはつぶやいた。



* * *


 エマは走り続けていた。身体強化の魔法をかけての全力疾走で。人の速さで考えるなら常軌を逸した速さ。ただし、後ろから追いかけてくる猪は雪崩に近いものだった。宗弥が見ていて、スノボードで雪崩から逃れ続ける人の映像が感じとしては近かった。ただ、距離は着実に迫りつつあった。


 エマが目的地点を突破する。


「第一ポイント爆破!」


 宗弥が指示をすると、ちょうど猪が走り込んできたあたりが爆発する。


 爆風の直撃を受けて、猪はひるんだが直進をやめない。ただ、爆風を受けて減速したことによって、またエマとの距離が開いた。


 エマの作戦はシンプルだ。


 エマに身体強化の魔術を付けて、エマが挑発して入り口まで誘導する。途中追いつかれかけたら、攻撃をしたり、爆破をしたりして、気を散らして減速させ、追いつかないように調整をする。


 およそ計算通りだ。自分の走る速さと、追いかけてくるガディングルの走る速さを分かっての仕込みだ。前にもこんな無茶にも思える作戦をやっていたのだろうか。


 エマが入り口の谷へと侵入する。次いで、ガディングルが入ってくる。エマが壁際へと追い詰められていき、徐々に豬との距離が詰まってくる。


 エマが崩れたところにまでくると、そのまま跳んだ。跳んで、翻り、崩れた岩の塊を蹴り飛ばした。


 エマとガディングルが正面へ向かい合うような形になり、エマは上へ跳ぶ。

 ガディングルは、エマを引き潰せなくなったことを悟り、自ら崩した岩の塊に突っ込むことを恐れて、急停止しようとする。


 エマはガディングルの額に飛び乗ると、腰に差した長い剣を眉間のあたりに突き刺した。


『今だ! やれ!』


「了解。第二ポイント爆破!」


 エマからの合図、宗弥はそれを受けて全員に合図を飛ばす、一斉に崖に仕掛けた爆薬が爆発する。崩れた岩の塊が次々とエマと猪へと襲い掛かる。


 ただ、エマはこの動きを予期してか降ってくる頃には岩の雨から逃れていた。


 崖が崩れて再び道をふさぎガディングルを覆い尽くした。


「やったか!」


 誰かが叫んだ。


 瞬間、岩の山が弾けた。ガディングルが体を震わせながら這い出してくる。


『やってない! 喜ぶのはまだ早い』


 宗弥が念話で全員に伝えた。まだ喜ぶには早い。ここで喜べば打つ手が無い。そのためにまだ崖の上には何人も弓を番えたり、攻撃魔法を準備しているものがいる。この入り口へと入る箇所には最初に弓矢を打った連中が待機している。


 だが、この準備が終わるにはあと十秒必要だ。


 その頃にはガディングルはこの入り口にあたる谷を抜けて自分たちを各個撃破しにくるだろう。逃げ場所は無い。


「まだやってねぇ、あたしがやる!」


 そう言うとエマが走り出した。


 エマはまだ這っているだけのガディングルめがけて跳躍する。


「必倒脚、釘打ち式!」


 風邪を切りながら放たれる、超高速の飛び回し蹴り。


 エマの足の甲で、先ほど突き刺した、剣を思い切り蹴り込み、刃全てが頭の中へとすっぽり収まった。


 猪は一度かん高くいななくと、そのまま力尽きたように、頭が地面へと落ちた。


 エマが高く拳を突き上げると、辺りは歓声に包まれた。



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