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特攻のエマ

 翌日。


 灰色の今にも泣きだしそうな曇天だった。


 昨日葬式が行われたエマの屋敷の前にやってきた。


 屋敷の前で屋敷を睨んでいるエマを見かけた。拳を握りしめて、握りしめた手のひらから血がにじみ出そうなぐらい強く握っている。


「柄にもなく緊張しているんだな、エマ」


「うるせぇな。今日はそっちの恰好なんだな」


「まあ、一応」


 今日に関しては何かがあってもおかしくないだろうと思って、転生してきた際に着ていた上下黒のスーツに袖を通していた。立ち位置として、異世界転生者で勇者の素質とエマのギルドでの雇用者という位置を表明していく。


「緊張しているのはエマだけじゃないってことさ」


「その……ありがとうな」


 珍しく照れたようにエマは物を言った。


 屋敷の中に入っていく昨日とは打って変わって不自然なぐらいに静まり返っていた。入口にいたメイドに案内されて屋敷の大広間へと進んでいく。


 大広間へやって来た。部屋の中には昨日と同じような黒い服に身を包んだ人たちが揃っていた。数にして二十人程度であろう。


「エマか、呼んだのはお前だけの筈だが」


 エマの父親であるトウタ・バレーがいった。


「お初にお目にかかります。僕は伊達宗弥と申します。今、彼女が所属している冒険者ギルドにて担当紹介者をやっております」


 にわかにざわめき出す。エマが実績を残しているということは知られているが、それを率いている異世界転生者である宗弥はそれなりに名前を知られている。スーツというのはそのインパクトに一役買ってくれると想定していた。


「宗弥は一応今のあたしの身元引受人だ。あたしが頼んで同席を願っているが、問題ないか?」


「……まあ、良いだろう。さて、そろそろ時間に差し掛かりつつあるので話を始めさせてもらおうと思っているが、全員そろっているか?」


「問題ありません。招待リストに記載されている方々は皆さまいらっしゃいます」


 メイドが言った。


「さて、本日は、ご存じの通り先代当主のマルケスが身罷りまして、慣例によって次代の当主を指名の上周知の為にお集まり頂きました」


 トウタが手にした書状を広げていく。


「エルヴィン」


「はい」


 トウタに呼び出されて、青年が一人立ち上がりトウタのもとに行く。


 トウタによく似ている青年だった。顔のつくりと気の弱そうなところまで似ている青年だった。ただ、エマと同じ色の髪と瞳をしていた。


「エルヴィン・バレー、トウタ・バレーの命により本日を以て次代当主に任命する。任命書だ」


「はっ」


 エルヴィンは頭を下げると、書状を受け取った。


「まあ、そんなこったろうと思ったよ」


 エマはぼそっと言った。


「家を継ぐってやって来た時は意気込んでいたのに?」


「当主の任命権は基本的には親父かじいちゃんしか持ってない。じいちゃんがあたしが戻ってくる前に死んじまったんだから、この家の中にあたしの味方なんてものはいないのさ」


「周りが見えるようになってきたというのは、成長だけど、簡単に決めつけるのはあんまりいいことじゃないっておじさんは思うなぁ」


「ほっとけ、本当はこの場むちゃくちゃにしたいぐらいにはムカついてんだ」


 エマの髪が俄かに燃え上がっているように見えた。


 起こっていること起こることは分かっているけど、ムカつくものはムカつく。そういう態度だった。


「失礼、任命権はトウタ様にあると思っておりますが、エマ様は器としてふさわしいかと思われます。任命にあたっての説明など頂けると助かるのですが……」


 宗弥には聞いたことのある声だった。 


 声の主は背筋のしゃんとした老人だった。ハイデガー博士。ファヴニール討伐の際に巨竜について長距離念話で聞いたドラゴン博士。


「良いでしょう博士。近年エルヴィンにおいては成長著しく、エマに匹敵するほどにまで成長を果たした。実のところその説得について私としても苦慮していたのですが、1か月後に武術大会の開催を考えております。そこでエルヴィンの優勝を以て当主であるということを広めたいと考えております」


 ズン、と辺り一帯に響き渡る轟音が鳴り響いた。


 エマが壁をぶん殴って、壁に衝突をした音だった。壁に一斉に皹が入り、エマの手からは血が流れだしている。


「さっきから、人が黙って聞いてりゃよぉ。そこにいる、遊びでも一度も勝てなかった兄貴があたしの出ない大会に出て優勝をして当主任命だ? 茶番もいい加減にしろっていうだ。勝手に任命してろよ、あたしは家を出る」


「言葉が足りなかったな、エマ。エルヴィンは今やお前よりも強い」


「あ?」


 完全にブチ切れている。!?をエマの横につけてあげても良いだろう。


「エマ。お前もトーナメントに出ろ。そうでなければエルヴィンに継承する儀式が成立しない。あとお前は家を出ると言ったがそれは許さない。お前は外に出てバレー家の人間であるということが分かれば汚名を塗り広げるようなものだ。お前はこの家にふさわしくはないが、殺すことは出来ない。だから、お前は一生この家の中で生活をしていくと良いだろう」


「あたしが勝ったらどうするつもりなんだよ?」


「好きにしろ。だが、お前ではエルヴィンに勝てない」


「やってみろよ。ひと月も待つまでもねぇ、木剣の一本や二本あんだろ」


 本当はここで宗弥は止めに入るべきなんだろうけども、スタートから取り返せないぐらいにブチ切れている。触るだけで怪我しそうだ。


「エルヴィン、手間をかけるが良いか?」


「良いでしょう」


 エルヴィンと呼ばれたエマの兄は優しく微笑むのだった。

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