忌引き→表敬訪問に変更
エマは乱暴に執務室のドアを開けるとつかつかと歩いて、宗弥の前に立った。
「有給くれ」
宗弥のギルド内の執務室、ドミニク、リーズ、ヒューゴ、クラリッサがいた。
エマが何か物を頼む時、大体言葉が足りていない。
結論からしゃべれとよく言われるが、エマの場合あいさつが結論になっていることがよくある。
「くれと言われれば、別に取っても良いし直近でお前がいなければどうにもならない仕事はない」
「明日から1週間」
「取ってもいいけど、何用で?」
有給休暇はギルドの中で紹介者のもとパーティーを組んでいる冒険者に与えられる。文書上存在はしているが、まともに制度を活用しているのは宗弥のところだけだった。
「じいちゃんが死んだ」
その場にいた全員が口を開けて呆れていた。
「そういうわけで明日実家に帰る。終わったらすぐ戻ってくるからよ」
「いや、そういうことなら有給じゃなくて忌引きさ。ついでに言うならそんなに急ぐ必要もない」
「どういうことだ?」
エマが怪訝顔をする。
宗弥は自分の記憶と直近2週間程度の予定を確認する。比較的軽めのBランククエストが1件とCランククエストが1件。
「同行しよう」
「は?」
またも、その場にいた全員が口を開けて呆れていた。
「いや、あなた普通にクエスト受けてるじゃないのどうすんのそれ」
クラリッサが嚙みついた。
「んー、クリスちゃん頼める?」
「「どうしてそうなんのよ」」
エマとクリスちゃんが同時に詰め寄った。
「いずれにしても、ちょっと手伝うにしてもクリスちゃんに振ろうと思ってたんだよね。
こっちのBランクエストは、ラサの地下路に大量発生したダイオウオオネズミの討伐。
こっちのCランククエストは森に巣を張ったルビーアイズビーの討伐。どっちも正面からやりあうと結構大変だけど、人手を使って包囲から焼き討ちするほうが簡単だ。何かあった時の為に僕らが控えられると良いんだけど、護衛に別のクエストをクリスちゃんが発注をすれば良い」
ダイオウオオネズミも、ルビーアイズビーも群れそのものを相手にしようとすると厳しい戦いを強いられる。単体ごとであれば、なり立ての冒険者でも戦うことが出来る。
周囲を壊すな焼くなといった指定は特にないので、生息範囲ごと燃やしてしまえば良い。
ある程度の規模の群体がまとめて襲い掛かって来たときに護衛が出来ればなんとかなる。
少数精鋭の宗弥よりもクリスちゃんのように人手をまとめて動かせる方が損傷なくクリアができる。
「本当は手数料を取るべきだけど、丸投げも良いところだからそのまんま依頼額横に流すんでどうでしょう?」
「ううぅぅぅぬぬぬぬぬぬうぬぬぬ」
クリスちゃんが呻いていた。
Bランクや、Cランクのクエストでの信用度は宗弥の方が高く早めに宗弥やクリスちゃん以外に回ってくる。
山菜取りに行くのとそんなには難易度は変わらないということをよく分かっている。
報酬額が文字通り桁違いなので、クリスちゃんにはありがたいことこの上ないはずだ。
「クリスちゃん年相応に顔が壊れているから、早めに合理的な判断をしてもらうとして」
「うっせぇわ!」
「とりあえず、一回エマの実家には顔を出しておきたかったんだよね。ファヴニールの件でハイデガーさんにはお世話になったし、魔王軍の幹部とぼちぼちやりあっているけど奴らの狙いは基本的には分断だ。全員で行くべきだと思うね」
「宗弥さんがそういうならそれでいいと思います」
リーズが言って、ヒューゴが頷いた。
「ま、いいんじゃね?」
ドミニクも同意。
「という訳でエマ。バレー家への表敬訪問はお仕事になりましたから有給は取得しなくて良いぞ」
「ええ」
エマが顔を顰めた。
「あんまりうれしく無さそうだね」
「そりゃあ、曲がりなりにも追い出されてるわけだし、恥ずかしいというか……」
「ふぅん、ここまで僕たちと作ってきた実績があれば胸張って凱旋出来ると思うんだけどね」
「そういうもんかな」
珍しくエマが戸惑っている様子だった。
帰らなくて良いなら、まだ帰りたくないといった感じだった。
「さて、それなら僕はクリスちゃんとここに残って業務委託の契約書を作成。ドミニクとエマは馬車の準備。リーズとヒューゴは食料品とかもろもろ買い出し。明日明朝出発だから、案外時間はないのできびきび動きましょう」
各々返事をして、各位頼まれていた持ち場についた。




