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ひいばあちゃんとの思い出

 人生ってやつは、結構退屈なのかも知れない。


 と、エマは思った。十歳の頃の話だ。


 エマが空中で振り下ろした木剣は、何も阻むこともなく父トウタの頭へと吸い込まれていく。


 木剣が当たるまでの刹那、何もかもがゆっくりに見えた。


 あっけに取られるトウタの顔。全く反応することが出来ず防御が間に合わない手足。唖然としかける審判員。観客はまだ気が付いていない。


 もういいだろう、ここで終わりなんだろうと思いながら普通の速さに認識を戻した。


 木剣が頭を叩く音があたり一帯に響き渡り、トウタはその場に崩れ落ちた。手加減はしたつもりでいるので、頭を打って少し気絶しているだけだろうと思った。


 ものの数秒でトウタは起き上がったが、自らの負けを理解しているようで木剣を置いた。


 辺りは、水を打ったように静まり返っていた。


 誰も彼もが信じられずにどんな反応を取っていいのか分からないまま、ただその場でぼんやりしていた。


 それもそうだった。そもそもこの試合は『おいたが過ぎる自分の子供を自分の門下の前で躾ける』という試合だったのだから、誰一人としてエマの勝利を予想するものなどいなかったことであろう。


 それを勝ってしまったのだから、誰も何も言いようがない。


 曲がりなりにもトウタは、20年以上鍛錬を積みバレー家を継ぐべく英才教育を施され、バレー家率いる騎士団の中に於いてもどの年代にも彼より優れた武芸を身に着けたものはおらず、対外試合でも負けなしだった。


 ひとえに達人と言っても良い境地にトウタはいたと言っても過言ではなかった。


 それがあっさりと十歳の自分の子供に負けるのだから、誰も何も信じないられないのだろう。


 なんだか気まずくなって、エマは木剣をその辺に投げ捨てると礼もせずに道場から逃げ出した。


 罰してくれるかも知れない。


 そんな淡い希望を抱いていたが、思った以上につまらない結果になってしまった。


 ことの発端は、エマはそもそも女性の生まれであり武芸をするということを許されていなかった。


 前例を一度だけ破ったのは曾祖母のマリアバレーのみ。


 後にも先にも女性に武芸をさせるのは認められていない。


 エマは暇を持て余しては道場に現れては、稽古の様子を漫然と眺めていた。終わってから庭でなんとなく枝を振ったら出来てしまった。何だかそれが、楽しくて稽古をたまに眺めては庭で枝を振って反復をしていった。


 ある日庭で枝を振っていたら、木剣を持った門弟3人に絡まれた「実戦形式の練習をしよう」と彼らは持ち掛けてきたので、そのようにして木の枝で3人を道場で眺めていた技を使って倒した。


「もっと強い奴がいる」


 と彼らがいうので、良い練習だなと思い強い人間を連れてきてもらったが出てくる奴出てくる奴を軒並み倒していった。


 しばらくすると、バレー家で教えている武器術はある程度正解だが、手にした武器が教えてくれるままに振るったほうが早くて確実だろうという考え方に至った。


 倒して倒して倒し続けた。


 そうしていくうちにトウタの耳に入り、叱られることになるのだが「あんたが一番強いなら、あたしを負かせていうこと聞かせればいいじゃん」と答えたら、今日このようになった。


 誰かが打ち負かしてくれるそう思ったけど、簡単だった。本気を出すまでもなかった。


 彼らが必死に積み上げたもの、守ってきたもの何もかもが馬鹿らしくなってしまった。


 彼らが一生かけて積み上げられないものをたかだか十年で手に入れてしまった。


「どうやって生きていったら良いんだよ。暇すぎるだろ」


 川にしゃべりかけたところで何もならない。


「あー、嬢ちゃんちょっと良いか?」


「はい?」


 輝くような金髪に、爛々と光る竜のような赤い瞳、軽そうな鎧にいくつも剣を携えている。年齢は三十ぐらいだろうか母よりもやや若く見える。


 そして、これまで見た誰よりも圧倒的に強いということだけははっきりと分かった。


「バレー家の屋敷に行きたいんだけど、最近場所が変わったみたいでって……お前エマか?」


「エマだけど、あんた誰?」


「誰ってお前、あたしゃあこの国で生まれ育った後にも先にもない最強のドラゴンスレイヤー。マリア・バレーだよ」


 そう言ってマリアは二カっと笑った。


 年齢で言えば百歳はとうに超えているはずの伝説の人物である。


 エマが生まれた十年前からこれまで、諸外国を回っては武芸の指導などを行っておりひ孫のエマについては生まれたときに1度見たっきりだったらしい。


「ひいばあちゃん?」


「ひいばあちゃんじゃねーよ。マリアさんって呼べ。これは命令な!」


 これがエマのひいばあちゃんのマリアバレーとの出会いだった。


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