ヨシュアが滅ぼした者ども。
「どうか、あなた方だけでもお逃げください」
カサブランカ市長は飲み屋に戻るなり、ヒューゴとリーズに対してそう言った。
「何故です? ここで戦わなければ、あなた方は死ぬか死ぬよりも辛い目に遭うはずだ」
「しかし、生きてさえいれば……」
市長にしても町の面々にしても淡い期待を抱いているようだった。
皆一様に暗い顔をしていたが、死ぬよりかはましという感じであった。
「生きていて何が出来るというのです? 魔族に屈した人々が戦いの果てにどのようになったかと言うことは誰もが知っている筈です。生き残れたとして、戦いが終わった後で無事に生き残れたと? ご存じの筈です」
ゲーン教の聖典にしろ、ヨシュア戦記にしろ、魔王軍やその傘下の魔獣との戦争に大半のページを使っている。繰り返される歴史の中で、魔王軍に降伏し人の身で与するものが現れた。しかし、生き残ったものの末路は残酷だ。生きたまま焼かれたり、四肢を分断されたり、親に子を殺させたり、子に親を殺させたり、などさせる。長い歴史の中で編纂されてなお、この残虐な描写は削られるどころか加筆さえされている。編纂を行ったものの趣味というよりかは、戒めとして決して従ってはならないという教えで伝えられ続けている。
教会があり、町長は敬虔な信徒と聞いていて知らない筈などないはずだ。
重い沈黙が辺りを包んだ。
「しかし、どうすれば……」
道は無い、服従か死か。
「戦えるものは、この町にはいない……。やはりあなた方だけでもお逃げください、我々の命運は我々だけで決めます……」
リーズはヒューゴを見た。
ヒューゴは黙ったままうつむいていたけど、顔を上げて真っ先にリーズを見た。
「リーズ。キツいかもしれないけど、手伝ってくれないか?」
「ええ、もちろん」
リーズはなんとなく予期をしていた。
この人は自分の命だけで、救える可能性が一つでもあるのであれば必ずそのように戦うのだと。
決断にあたっては、ヒューゴはリーズの考えしか考えていなかった。
リーズが逃げると言えば、逃げるし戦うと言えば戦う。
宗弥はほぼ勝てる算段がたっている時以外は戦いを挑まない。ドミニクもこの点に関しては同じだ。エマは勝てるかもしれないという状況であれば乗ってくる。ここにいる二人に関して言えば、守るべき人がいればこそ勝ち負けを考えないという点で共通している。
つまりこの場にいる二人のうち戦いを止めるものは、誰一人としていないのだ。
「明日の夜、私が打って出ます。ノーライフキングにはこの町に手を出さないことを約束させて、私があのものを打ち砕きましょう」
ヒューゴはそう力強く言い切ったのだ。




