銀山での戦い
三年前。
一言で言って絶体絶命だった。
ヒューゴは銀山を防衛しよう。闇夜に乗じて、銀山を一挙に占拠することが敵の目的だ。
ちょうど、停戦の流れになっており国境警備への予算に関してはあまり回ってこずここ数年防衛戦力は減衰する一方だった。
このタイミングでの奇襲は間違いなく、この銀山と拠点を押さえて停戦を阻止し新軍を継続するためのものだ。ということまでは理解をすることが出来た。
一晩、一晩だけ耐えることが出来るのであれば、この闘いは我々の勝利であり国にしても停戦の交渉をより一層有利に進めることが出来る。
ただ、一晩耐えることが出来るのであればーー。
最初に詰所の砦に火をつけて、廃棄。
銀山へ向かいあるだけの装備で耐え忍ぶ。周囲を包囲された上で焼き殺されることが一番怖いことだったが、重要な拠点を背負って戦う以上ここを突破する以外の目的で焼いたりはしない。
陣を構え、二時間程度で敵はやってきた。
最初の四時間は良かった。
狭い路地に閉じ込めてやってくる人間を制限し、各個に撃破をしていく。
練度の上ではこちらが上回っていた。地の利、最初に選んだ作戦に思った以上に敵がハマり易々と撃破が可能だった。
例えば敵勢力がこっちらの三倍ぐらいだったらとっくに向こうは全滅をしているか、戦意を無くして逃亡しているはずだ。だがそうじゃない。斥候が見ている限りでは、数十倍の勢力がいるということを聞いている。敵はただ、物量に任せて同じことを繰り返しているこちらの根性が尽き果てるまで同じことをすれば良いだけなのだ。
さて、四時間が経った。
日頃から過酷な訓練を課していたためか最初の四時間は良かった。
ローテーションを組み、前列と後列を交代させ交戦を繰り返していく。加護術式も問題無く作用し、前からやってくる敵をなぎ倒し続けた。
ここまで倒せば多少は敵の勢いも鈍るはずだと思っていたのだが、どうやら敵は最初の戦術として突撃してくる兵士達に狂化の術式をかけているようだった。
どれだけやっても同じようにかかってくる敵というのは、獣以上に疲れる存在だ。
練度が低かったとしても、同じ勢いで疲弊も、恐れもせずかかってくる敵は簡単に倒せる割に疲れる。数にものをいわせて同じことを繰り返すのだからかたまったもんじゃない。
最初にバテ始めたのクレリック達だった。
兵士の体力の養成はそれなりには知っているが、クレリックの加護の術式の保たせかたというのは訓練のしようが無かった。
クレリックの加護が薄くなったところで前線を張る守護騎士達が疲弊してきた。
ヒューゴは前に出て名乗りを上げ続けて敵を挑発し続けた。
自分に徹底して攻撃を集めさせて、襲い掛かる敵どもを全て受け止め切るつもりでいた。
前線のさらに前線を張り続けることで、味方は少し休むことが出来たのかボロボロになりながらも何人かは自分を手伝ってくれた。
さらに三時間が経過した。
敵は変わらずに襲いかかってくる。ペースも何も関係ない。ただ心を折るためだけの作戦だ。
クレリック達はとっくのとうに体力の限界を超えて、加護をかけようにも、祈りが天に届かない状態になっていた。
周りのクルセイダー達も限界を超えていて、自分の獲物でなんとか自分を
支えてかろうじて立っているような状態だ。とてもじゃないが敵の攻撃を受け止められない。
ヒューゴのやることは変わらなかった。意識を失いかけながらも雄叫びを上げ、敵の攻撃の濁流を受け止めて、そしてなぎはらう。
一人で数百人倒したことだろう。
腕は上がらず、頭は重く、足を上げることも考えていたら出来ないただ自動的に、この戦いを経った一人でも勝ち残るためにメイスを振り続けた。
『いいね、お前多分そのうち俺と同じことが出来るよ』
ふわりと声が聞こえた。
その声が何だったのか、誰が言ったかもどうでも良かった。
ただ、ヒューゴは己の声で己を励まし、己こそがこの戦場の勝者であると信じて疑わずに闘い続けた。
力は不思議と衰えることを知らなかった。
最後の底力を振り絞って、倒れていた仲間が立ち上がり加勢を、加護を加えてくれた。
さらに二時間が経った。
遠くから味方がやってくる音が聞こえてきた。朝日と共に彼らは現れて、敵は帰っていった。
雄叫びを上げた。
今日、この日のために自分は生まれてきたのだろう。
ヒューゴはそう思った。




