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異世界転生しても社畜なので辛い  作者: あぶてにうす
3話 神になるものと、神を引き摺り下ろすもの
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やってきた補充人員

「はじめまして。リャン・ミオです。よろしくお願いします」


 そう言って女は宗弥を始めとする一行の前で礼をした。


 リーズが戻ってきてからおよそ一週間後の朝の出来事だった。


 前日に教会から直々にお知らせがあるので来て欲しいということをクリスちゃんから聞いてやってきたらこのようになった。


 リャンは黒い短い髪に、緑の瞳をしていた。よく外を歩き回るためか肌は日に焼けていた。杖を持っていたが頑丈そうな鉄の杖で、リーズの持っているような意匠はなく、真っ直ぐとした杖だった。ぴったりとした全身を覆う服を纏っており、マントを羽織っていた。


「はじめまして、僕は伊達宗弥。後ろにいるのは僕のパーティです。えと、ちょっとまだ分かっていないんだけどあなたはどういう人なの?」


「んん、それについては私から説明しましょう。彼女は今回のリーズの異動に対して送られてきた当冒険者ギルドに派遣されてきた替えのクレリックです」


「なるほど、教会からギルドに派遣されてきたということですね……」


 教会からギルドに派遣というのもまた異例。


 ギルドにということで、金の流れが生まれていることを何となく察した。


 ギルドにそれなりにお金を払うことによって、命令に反してこの場に留まろうとしても留まれなくするというやり方を取ったのだろうと推察。


 パーティには穴を開けず、ギルドには金を払って根回しをし、リーズの意思は関係なく引き抜く。なかなか綺麗な手を打ってきたなと、ぼんやり宗弥は感心していた。


「リャンは私の神学校時代の同期で、エゾル山で修行を積んだクレリックでリーズのように術式研究よりかは、実際の戦闘に重きを置いたタイプね」


「何か違いがあるの?」


「エゾル山は僧兵の養成拠点ですね。僧兵は神に祈り、加護を与える他自らに加護を纏い自ら戦う事が出来るクレリックです。要人の護衛や教会の警備を担当することが多いですね。冒険者になられる場合は少ないですね」


 リーズが注釈を入れた。


「なるほど、より戦闘に特化したタイプを送って来たって事ね」


「宗弥!」


 咎めるように、エマが怒鳴った。


「エマ、なんとなく言わんとしたいことは分かっているが、君も何となく察しはついているんじゃないか?」


「……察しはつくが納得はいかない」


 エマもおそらく同じことを考えたのだろう。


「おい、あんた。教会から来たと言うなら、うちのパーティでリーズと同じだけ働けるのか」


「私の能力に不足があるとお考えで?」


「その通りだ。このパーティの現場指揮官はあたしだ。あたしがダメだって言えば替えは効くんだろうな?」


「もちろん。ご不満ということであればご納得頂けるまでテストをして頂ければよろしいかと思います」


 リャンは自信にあふれた笑顔で答えた。確信のある笑顔だった。


「分かった準備しよう」


 そう言ってエマはそのまま踵を返してそのテストの準備へと向かった。


「勝手に決めてくれちゃってまあ……」


 残された宗弥は毒づき、それ以外の面々は呆気に取られている様子だった。


「あー、リャンさん。すいませんウチのモンが勝手に突っ走ってしまって」


「いいえ、お気になさらずに。リーズ様は極めて優秀であると伺っておりますから、私に代わりが務まるかどうかということは心配だというのはもっともだと思います」


「助かります」


 リーズの顔をちらりと見ると、真っ青に青ざめていた。


 このパーティを去らねばならないという恐れから来るのか、教会に戻ることが怖いのか何かに怯えている様子だった。



◆ ◆ ◆



 実戦形式を取るのは難しい。


 リーズとリャンで比べるとなると、立ち回りも大幅に変わってきてしまうのでどちらが良いかという問題はぼやけてしまう。


 なので今回は、単純なパワー比較。どの程度強力な加護術式を掛けられるかということで比較することになった。


「いきますよー」


 ヒューゴが手をあげる。


 リャンが宿りし神の肉体を詠唱し、ヒューゴに加護術式をかける。


 ヒューゴの前には壁が連なって並んでいた。さながらドミノ倒しのドミノのように二十枚並んでいた。単純にその冒険者のもつ単純な破壊力を測るテストだ。宗弥が考案したテストだった。


 ヒューゴが振り上げた、メイスを壁に向かって叩きつける。


 メイスは易々と壁を打ち砕いていく。衝撃波が一気に後方まで波及して次々に貫いていく。


「十三枚でーす!」


 ドミニクが観測して言った。


 叩き壊した黒い板は鉄のフレームに木を埋め込んだ巨大な盾と同じものだ。最初の一、二枚に関してはそのまま物理攻撃で砕けるが残りはその打撃が放つ衝撃波で打ち砕かなければならない。並の戦士が加護術式をかけたところで到底できる芸当ではなく、力自慢の豪傑が挑んだとしても精々五枚程度が関の山と言われている。


 このテストはリーズが加入した際に、エマが一度実施したことがあり、その時と今とで同じ数値を弾き出していた。


「はい、次ー」


 エマが記録を取りながら、投げやりに言う。


 ヒューゴは一列隣に移り、リーズが下がって今度はリャンが前に出る。


 かける術式は全く宿りし神の肉体。


「いきまーす」


 加護術式が全身に行き渡ったことを確認すると、ヒューゴが手を挙げてから、同じようにメイスを振り下ろす。


 砕けるプレート達、破壊が終わった箇所はおよそリーズと同程度だった。


「じゅ、十三枚……」


「マジか」


 リャン以外の全員が驚いている様子だった。


 リーズの冒険者としての特徴はこれまで教会本部から、地方の教会と回っていた為冒険者としての暦が浅く体力があまりないこと、そして戦闘能力がほぼ皆無である特徴があった。しかし、その一方で加護術式に対する理解の深さと集中力で術式の強度は飛び抜けて高かった。


 今のテストをヒューゴが単体でやった場合で五枚程度は破れる。


 並の術者が加護を与えた場合で八枚。クリスちゃんぐらいのベテランクラスでやっても十枚程度。同じテストをやったところでリーズと同じことだけが出来る人間などこの国の中にいるかどうか分からない程度のものだった。


 そのリーズがやってのけたことを僧兵であるリャンが成し遂げたということはとんでもない事だった。


 その他被験者をエマ、ドミニクと変えて、速度と、射程距離の加護術式にしてもリーズと同程度の数値をリャンは叩き出していった。


「あんたがすげぇってのはよく分かったよ」


「ありがとうございます。それで、そのリーズさんと私が入れ替わりということを認めてもらえますかね?」


「腕前は分かったけど、戦えるってはなしじゃねーか。どれくらいやるのかって見せてもらうことは出来んの?」


「エマ!」


「もちろん」


「素手で良いな」


「やりましょうか」


 宗弥は止めにかかったが思った以上にリャンがやる気だった。


 エマは持っていた槍をその辺に放り投げて、外套を脱ぐ。リャンも同じようにして、マントを外して杖を捨てる。


「どうぞ」


「なら、遠慮無く」


 一息にエマが一気に距離を詰めて攻撃に入る。


 前に置いた左手で突きの連打。


 牽制の攻撃だが、相手の技量を測るのに使える打撃。


 リャンはエマの牽制をきっちりと見切りながら、直撃する突きだけを確実に捌く。


 エマの構えは半身になって前に置いた手で攻撃を仕掛け続けている。一方のリャンは体を正面に開いて受け止める姿勢でいる。


 エマは一度攻撃を止めると、今度は攻撃のフェイントを交えていく。


 牽制、フェイント、本命の打撃、今度は直線だけで無く横から打ち込む拳もバリエーションに入っていく。牽制の拳と前手で弧を描く重たい打撃の組み合わせだ。


 リャンは防戦一方であったが、ほとんどの攻撃を捌いていた。


 しかし、エマの打撃がいくつかリャンの顔面を捉えるようになっていき、エマは大きく踏み込むと右の拳を一挙に突き出した。


 およそ人の領域で加護術式もかけずにできる芸当ではないということは、これまで宗弥が見てきた冒険者達からわかることであった。


 しかし、その右の拳をリャンは両手で手首の辺りを取って捕らえた。


「ゲッ」


 エマが分かりやすく動揺した。


 そのまま、エマの進行方向に向かってリャンは体を捻る。


 エマの体が宙を舞う。相手の本命の打撃に合わせた投げ技だった。


 しかし、エマは体を地面に叩き疲れる瞬間に転がってリャンを投げ返して、馬なりになる。


 エマが拳を前に突き出した。


「……参りました」


 エマは黙ってリャンの上から降りた。どこか釈然としない様子だった。


「……文句ない。テストはこれで終わりだ。入れ替えを受けて入れても良い」


 エマと同程度の格闘技術があり、リーズと同程度の加護術式を使う事が出来る。


 成績だけを見れば破格の実力者だ。それだけリーズに価値があるべきとみるべきなのだろう。エマの意見に宗弥は何も言うでも無く、同意した。


「ありがとうございます」


 リャンが応える。


 エマは楽しくなさそうな顔をして、宗弥の元にやって来た。


「あいつ、最後に抜きやがったぞ」


「手加減されたってことか? 投げ返したんじゃないのか?」


「いや、確かに投げられる勢いを使ってあいつを投げようとした。ただ、あたしの打撃を取って投げる技術がある奴がちょっと油断してあそこで簡単に投げ返されるとも思えねぇ。手加減しやがった」


 ボソボソと言っていたが、その声の中には強い怒りが込められているようだった。


「まあ、頼れる新メンバーの加入は素直に喜ぼうじゃないか」


「それはそうだけどな」


 エマはつまらなさそうだった。


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