栄転ということでございますが
「それって出世したってことじゃん! おめでとう!」
パッとエマの顔が晴れて、拍手をしたそれに続くように皆んなが拍手をした。
ギルドの応接スペースで行われたことで、他の紹介者も冒険者も怪訝そうな顔をしながら通り過ぎていく。
アルミンに戻り、パーティ全員を集めてリーズは報告した。
「なんか拍手しちゃったけど、司教って凄いの?」
ドミニクが言った。
朝のお祈りにはとりあえず参加はしているが、よくわかっている様子ではなかった。
正直宗弥にしてもその質問は喉まで出かかって、なんて言い換えようか考えているうちにドミニクが言ったのだ。
「司教は凄いぞ、象徴である法王を除けば二番目に偉い役職だ。ゲーン教の聖典をあまねく正しく理解した上で新たなる発展へと導けるクレリックのマスターであるということは当然であるとして、正しく布教が行われているか、教えを広めるために各管轄支部の監督をするという役割もあるみたいだな!」
「良く勉強をされていますね。おっしゃる通りです」
へへんとエマは得意げに成っていた。宗弥にしても良く知っているなぁという感想である。
「リーズさんの職位って今どんなものでしたっけ?」
「クレリックI種ですね。神学校を出ている場合はほぼ自動的にⅠ種になりますんで、下っ端の下っ端といったところでしょうか」
そう言ってリーズは笑った。
サラリーマンっぽい世界に置き換えて、東大とかその辺の大学を出ていたエリートが、ある日突然部長に任命されるようなそんな感じなのだろうと理解した。
「なら、何かしらの理由があると思うんですけど、それってしゃべること出来ます?」
「はい、一応非公開にしてほしいという要望はありましたが、皆様は間近で目撃されていらっしゃるのでお話ししても差し支えないようです」
「教会としての根幹に関わるようなことなの?」
「そうですね。明言はされませんでしたが、教えを守るという意味においてはその通りなのだと思います」
「あれか? ファヴニール倒した時にヒューゴに使ったやつか?」
リーズとヒューゴが目を見開いてエマを見た。
「おっしゃる通りです。やはり勘が良い」
「だって、あんなの聞いたことが無いって。うちの実家でも何人か凄いクレリックは抱えてて、最終的に司教の手前の司祭までなったやつでもあそこまで強烈な加護をかけた人間を見たことが無い。ただ事じゃないんだろうなってぼんやり思ってたけど、そうなんだ?」
「あの術式は混成術式と言うもので現在、現法王様と大司教四名の計五名ほどしか使うことが出来ません。それをわたくしがあの時使えてしまった事が報告書を通じて上層部に知れ渡ったらしく、秘密の隠匿と、今後のゲーン教の発達に当たって今回昇格ということらしいのですが……」
考えようによっては、知られてはいけない研究機密を知られてしまったので現場で機密流出の恐れがあるため、使用する心配の無い本部に置いておく、悪い言い方をすれば閉じ込めるという考え方も出来る。
「それは凄いことなんじゃないの? いいと思うよ」
ドミニクが言った。
「結局みんなここにたまたま集まっているような気はするし。おれはしばらくしたら国に帰らないといけないと思うし、エマにしたって修行したってことになれば実家に戻るんだろうし、ヒューゴさんはどういう風になるのか分からないけど、みんなそれぞれ生きてる」
ドミニクの言葉はどこか力強いものがあった。
明確に自分がどうしていきたいのかということが分かったからなのか、リーズにアドバイスめいたことが出来るようになっていて宗弥はちょっと泣きそうになった。
「宗弥さんはどうなの? おれたちが居なくなっても大丈夫なの?」
「正直、ギルドの中でも屈指のスキルをもってる君ら全員居なくなるのはキツい……。けども、君らのお陰で積み上げて来れた信用があるのでなんとかなる段階には来てる」
ギルドからの評価はいろいろやらかした結果芳しくは無いものの、仕事の達成率やら何やら堅実に失敗せずにここまで積み上げて来たため同じ紹介者、このギルドに所属している冒険者の信用は勝ち取れていると確信している。
拡大の話に関してはクリスちゃんに数度相談はしていて、もしもそうするのなら協力をするという約束は取り付けていた。クリスちゃんのクエストに護衛として誰かを付けたり、教練をしたりなど行っていった結果、仕事をする上での関係は良くなっていった。個人としてどう思っているかは知らないが……。
その他、担当紹介者を宗弥に変えて欲しいという冒険者は何人か面談している。
拡大が済んだところで仮に初期のパーティーが全員いなくなったとしても、紹介者としての商売は継続することは出来るだろう。そこまで行けば、ギルド内の他の紹介者よりも自分が優れた紹介者であれば良いだけという簡単な話だ。
「その信用を使って仕事が出来るようになり始めているから、君らが僕の心配をするのは余計なお世話というやつだ」
「よく言うぜ」
エマが笑う。
「ありがとうございます。ただ、どうにもわたくしとしては今の状況で皆様と離れることがとても心配なんです」
「普通にやってりゃ、普通になんとかなるって」
「普通に普通の事が起こるのであれば、問題は無いのだと思います。ただ、宗弥さんは異世界からの漂流者であり、世界を救うと目されている勇者なのです」
「このモヤシが世界を救うってのか? 冗談だろ」
モヤシと呼ばれてムッとした宗弥だったが、黙っていることにした。
モヤシは、モヤシなのだ……。
「そもそもわたくしたち、妙に強いモンスターと突発的に戦っていませんか? それも突発的に。ファヴニールにしたって、ヨシュア様と、かつてはゲーン様と伝説的な偉業を成し遂げたものだけが過去に戦っているのですよ? それを曲がりなりにもわたくしたちは倒しているのです。だから、わたくしたちはその……ヨシュア様達と同じなのでは無いのでしょうか」
「勇者、私達が勇者、ですか……」
真っ先に喜びそうなヒューゴが、喜んでいる様子では無かった。
この中で一番勇者の様に振る舞う男が自分を勇者の一人と認めている様子は無かった。
「ヒューゴが一番納得いかなそうな顔してるな」
「そうですね。私は、というか私達はその時に求められていることを必死になってやり遂げているに過ぎないんだと思います。結果として得られたものの中に勇者に近い何か成功はあるのかも知れないのですが、私が勇者であるということは思えないんです」
ヒューゴの言っている事がこの中では一番正しそうに聞こえた。
「巡り合わせって意味では確かに凄い人たちに囲まれていると思うけど、普通なんだよな。死なないようにやってるだけで」
「ですが、今後もこの間の様な事が起きないとも限らない訳で……」
「リーズじゃなきゃ対応出来ないってか? それは奢りだと思うぜ。いつまでも出来る奴が同じ場所にいるなんてことは無い。別の誰かに切り替わった時になんとかできる仕組みを作れなきゃいつだって崩壊する可能性はあるんだ」
「あ、それ僕のセリフ」
エマは才能の塊のようでいて、組織内における仕組みは誰よりも重視していた。
このパーティにおいては各員がそれぞれ異様に高い能力を使って対処するが、基本的に連携などをする際にエマは欠かせなかった。
エマの敬愛するひいばあちゃんの、マリア・バレーにしてもこの辺りの能力は卓越していたらしかった。
「うるせぇ。だからさ、リーズがいなくても何とかなるから心配するなってことだよ」
「し、しかしですね」
まだ、リーズは食い下がるようだった。
明確に自分でなければならないということを自覚しているのだろう。実際問題、ファヴニールの件に関してはあそこでヒューゴが粘れなければ間違いなく全滅していた。それは、間違いが無い。
リーズが現場に出ているクレリックであの技術を使える唯一の存在であることも間違いは無い。
「薄々、みんな勘付いていると思うけど、今回の昇進はリーズを戦いの現場から遠ざけて、本部に閉じ込める事が主な目的なのだと思う。だから、それに背いた際の処置というのは明言こそされちゃいないが、多分命をかけないといけないことになる」
エマは小さくなるリーズを見ていた。
ヒューゴと、ドミニクはお互いに目を合わせた後で、リーズを見ていた。恐らく想像できていなかった。
「君がここで命を賭けるのはちょっと道理に合わない。実は教会から僕宛に手紙が届いていて、後日別の優秀なクレリックを派遣してくれるって。一週間程度でテストと引き継ぎをして、君は言われた通りに偉くなりなさい」
「はい……」




